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第97話:隊長とは

 部隊リーダーに選ばれたリズの指示で王都を出発した俺たちは、途中で何度か魔物に遭遇しながらも、順調に歩き進めていった。


 目的のノルベール山の麓に到着する頃には、部隊が二つに割れてしまったけど。


 歩き慣れていないクラフターたちのペースに合わせていると、日が暮れそうだったんだ。まだ現地で宿舎も作る予定だったので、騎士団を二つに分けて、片方にクラフターたちを任せることにした。


 なお、冒険者として活躍するリズと、魔法学園で体を鍛えていたクレス王子、そして、日々のメイド業務で体力を使うアリーシャさんは余裕の表情だ。気合だけで俺たちについてきたカレンに至っては、足がガクガクと震えている。


「よ、よ、余裕だったのです! 全然、息が切れてない、のです!」


 本人は無駄に強がっているが。クラフターとして頑張りたい思いより、初対面の集まりに取り残されたくなくて、先行組についてきたに違いない。


 あっ、足が限界に達して、膝から崩れ落ちた。宿舎の建設をカレンに手伝ってもらえたら楽だったけど、さすがに難しそうだな。騎士たちは余裕がありそうだから、手伝ってもらうとしよう。


「今日はここまで来ることが目的でしたし、騎士団の方は交代で周辺の警備をしながら、休憩してください。まだ体力があるようでしたら、川へ行って水汲みをお願いします」


 俺が現場の指揮を執っているけど、なぜか隊長になっているんだから、仕方ない。安全な夜を過ごすという意味でも、反抗されても困るけど……そんな素振りを見せる騎士は一人もいなかった。


 騎士団全員がリーダーの指示を待つように、バッとリズに視線が集まる。


「あぁー……じゃあ、一班は水を汲みに行ってもらって、二班は周辺の警備をしましょう。水汲みを十往復したら、交代する感じで」


「「「了解ですッ!」」」


 水汲み用のバケツを置いてあげると、一班に配属された騎士が各自二つずつ持って、近くの川へ向かっていく。二班に配属されている騎士も同様に、リズの指示に忠実に従う姿は、ちょっと怖い。


「リズ、赤壁が何を話したのか、騎士団の人に聞いたか?」


「怖くて聞けるわけないじゃん。絶対に話が盛られてるよね」


「俺たちはまだCランク冒険者だし、騎士団を従えるなんて異常な光景だもんな」


「よく言うよ。昼休憩の醤油ラーメンがトドメを刺したんだからね」


 確かにそれは言える。カレンのクラフトスキルを向上させようとして、仮設キッチンでクラフト料理を披露したんだ。まだまだ麺が不揃いで長さもバラバラだけど、スキルが上達してきた影響か、味はしっかりしてるんだよな。


 副料理長の手が震えてる姿を見た時は、さすがに俺もやっちまったと思ったよ。


 でも、本来の目的であった、クラフターたちを鼓舞させることには成功した。騎士から隊長と呼ばれる俺が作ったわけでもなく、王族という特別な血を受け継ぐクレス王子でもなく、ただのクラフターであるカレンが作ることに、大きな意味がある。


 クラフトスキルで心が動かされた彼らは、頑張ってカレンみたいになりたいと思うだろう。その思いがなければ、今回のクラフト計画は投げ出したくなると思うし、作業にも支障が出てくるはずだ。


 こんなところでクラフター同士がいがみ合ってる場合じゃない。異世界で初めての巨大建築を無事に成功させるには、みんなの協力が必要不可欠だから。


「一人だけコッソリと、豚骨ラーメンを頼んできたリズが言えた口じゃないけどな」


 チクリッとリズの心に針を刺した後、俺はスコップで地面を軽く掘って、貯水タンク代わりに溜め池を作製。大きな穴を掘って、土と混ざりにくくなるようにブロックを敷き詰め、適当に屋根と壁を付けておく。そうすると、騎士団が勝手に水を入れてくれる。


 あとはこの近辺に木ブロックを敷き詰めて、先に食堂を作ろうか。宿舎は大部屋を予定しているから、体育館みたいな広い空間を作って、布団を配布して過ごす予定になる。


 日が暮れるまでにやり終えないといけないし、独学で付与魔法を使えるようになったクレス王子の腕前を見ておきたいから、ちょっと手伝ってもらおうかな。


「クレス王子、作業台は持ってますか?」


「インベントリに入れてあるから、いつでも使えるよ。何を作ればいいんだい?」


「ここに食堂を作るので、テーブルと椅子を用意してください。先に床だけ設置した後、俺は外観を作りますから。材料はここに置いておきますね」


 どどどーーーん! と、素材に使える木材を多めに置いておく。


「わかったよ。ついでにカウンターも作って、調理場と食堂を分けておくね」


 早速、クレス王子が作業台を取り出すと、クラフト作製に取りかかってくれていた。その姿を横目に床を作ると、綺麗な机と椅子が置かれていく。


 その出来映えは、さすがと言えるような代物だ。鍛冶師が作るものには劣ったとしても、現在のカレンよりも完成度の高い机を作製している。今回の依頼が終わる頃には、相当化けるかもしれないな。


 次々にクレス王子がクラフト作製していくなか、申し訳なさそうな顔でアリーシャさんが俺に近づいてくる。


「あの~、私は何をすればよろしいでしょうか」


 正直、今はやってもらうことが何もない。ただ、クレス王子が働いている以上、メイドが休むというのは気が進まないんだろう。


「じゃあ、クレス王子が作ったものを、リズと一緒に設置してもらっていいですか?」


「わかりました」


 それぞれ役割分担が終わり、順調に野営準備が整っていくなか、一人だけ這いずり回る者が現れる。


「私も、テーブルを、作るのです~!」


 バテバテのカレンだ。どう見ても手伝ってもらえるような状態ではないため、休憩用の椅子を取り出してあげる。


「いまは休みなさい。また後で料理を担当してもらうから」

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