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第92話:兄弟子、クレス

「クレス王子もできたんですね、付与魔法」


 平然とした顔でカレンの隣に座り、ガラスの加工を始めたクレス王子は、明らかに魔力の扱いが手慣れていた。同じようにカレンが加工する姿を見て、アドバイスしてあげられるほど、余裕がある。


「ポカポカクッションを見るまでは、形にできなかった部分も多かったよ。それまでは付与魔法と言える代物ではなかったし、今もミヤビくんみたいな精密な魔力回路を形成することはできない。こんな大きな家にまで火魔法を付与されたら、もう笑っちゃうしかないよね」


 呑気なことを言うけど、俺はゲームの延長線上で使えただけであって、クレス王子は自力で付与魔法を開発していたんだ。王族の責務を果たす、その一心で行動を続けていたのなら、手柄を奪ったみたいで申し訳なく思ってしまう。


「ヴァイスさんの元を離れてまで魔法学園に入学したのも、このためでしたか」


「付与魔法ができると確信していたわけではなかったよ。ただ、ヴァイス様の元で実践を重ねていくうちに、付与魔術に違和感を覚えるようになったんだ。鍛冶師とクラフターでは感覚が違うのではないか、そう思ったのが始まりだったかな」


「実際にヴァイスさんが、クラフターにしかできない技術だと言ってましたね。俺が見た限りだと、ヴァイスさんは素材の繊維を捉えきれていなくて、今までの経験から推測して魔力を流している感じでした」


「僕も同感だよ。ヴァイス様に付与魔術のアドバイスを求めると、いつも最適な手段を教えてくれなかった。最初は試されているのかと思ったけど、ヴァイス様が付与魔術をするところを見て、それは違うと確信したよ。不可解なことに、僕は付与魔術だけ、数年でヴァイス様を追い越してしまったんだ」


 冷静に考えたら、数年でヴァイスさんと同レベルの付与魔術ができるなんて、明らかにおかしい出来事だよな。それもクレス王子だけでなく、カレンも同じだったのなら、なおさらのこと。


「カレンはどう思ってたんだ?」


「うーん。いま思えば、褒められることはあっても、あまりアドバイスをされなかったのです。緊張する私に気遣ってくださったのかな、としか思ってなかったのですよ」


 昔のカレンを知らないから何とも言えないけど、それは間違いないことだと思う。ただ、クレス王子には不自然に映ったはずだ。


「僕にとっては、ヴァイス様を含めた弟子の鍛冶師たちと、クラフターである自分とカレンちゃんの付与魔術を比較できて、本当によかったと思うよ。ヴァイス様の元で修業できていなかったら、今頃は何もできずに、王族の地位にすがりついていたかもしれない」


 今のクレス王子を見ていてわかるのは、彼は貴族の風格を捨てたわけじゃない。周りと馴染んで情報を拾い集めるために、あえてフランクに接しているだけだ。穏やかな表情を浮かべているけど、たまに圧倒されそうなほど力強い瞳で見つめられるときがある。


「一つだけ聞きたいんですけど、どうして付与魔法を使って、生産ギルドを止めなかったんですか? いとも簡単にガラスの塊に魔力を通せるなら、ポカポカアイテムは作れますよね」


「ミヤビくんの許可をもらって、僕がこの技術を広めることも考えたよ。でも、それは生産ギルドに利用される未来しか見えないんだ。付与魔法の業務に縛られるだけのクラフターが、幸せな生活を送れるとは思えない。それなら、まだ見ぬ希望にかけてみようと思ったよ」


 それで、俺に会いに来てくれたってわけか。こうやって普通に話してるけど、王族の血を引く人間は考えることが違うな。きっとクラフターのことだけではなく、今後の国の繁栄や他の生産職のあり方も考慮しているんだと思う。


「僕も一つだけ聞かせてほしい。僕もミヤビくんみたいに、クラフトスキルを自由自在に使いこなせるようになれるかな。幸せにしたい人がいるんだ」


 デター! 他人にも平気で惚気てくる奴ー! 貴族出身である影響か、言い慣れてる感がすごいー!


 俺は愛のキューピッドじゃないというのに、まったく。こんな大変な出来事に巻き込まれるなら、王子だからといって特別扱いせず、ガッツリと働いてもらうぞ。 


「クレス王子次第ですね。生産ギルドを自分で黙らせたいなら、寝る間も惜しんで作業を手伝ってください。そうしないと、カレンに先を越されちゃいますよ」


「それは納得できないね。兄弟子として、まだまだカレンちゃんに負けるわけにはいかないよ」


「おかしいのです! 兄弟子っぽい思い出がありません! 修理業務を押し付けられた記憶しかないのですよ!」


「兄弟子っぽいことがご所望なら、魔力の流し方を丁寧に教えてあげるよ。デルーガの鎖状結合は三十二時間程度で基礎学科が終わるし、明日からの馬車移動が楽しみだね」


「きょえええっ! 兄弟子ならもっと優しくしてほしいのです~!」


 なんだかんだでクレス王子は優しいんだろう。カレンが手に持つガラスの塊を通じて、丁寧に魔力の流し方について話し始めた。


 和やかな光景に見えるけど、クレス王子の独特なペースに流されているだけで、現状が厳しいことには違いない。王都の生産ギルドはクラフターが除名されて、大変なことになっているはずだ。正式に依頼を受けた以上は、責任を持たないといけないよな。


 王都に到着するまで、一週間もある。こうなったら、最高に非常識なクラフト計画を立てるとするか。

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