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第89話:王都へ向けて

 冒険者ギルドでクレス王子の依頼を受諾した、翌朝。街の北門に集合すると、再び同窓会みたいにワイワイする三人組がいた。


 ヴァイスさんの元で暮らしていた、カレン、リズ、クレス王子である。


「ええっ!? クレスくんは本当に王子だったのですかー!!」


「昨日言ったじゃん。私の言うことは信じるべきだよ」


「その前に僕の言うことを信じてよ。ちゃんと自己紹介で言ったよね!?」


 非常に楽しそうなところ申し訳ないんだが、これは大切な依頼であることを忘れないでほしい。合法的にミスリル鉱石を掘れる神イベント……ではなくて、国の発展を促すための街道復旧作業なんだぞ、まったく。


 最初で最後のチャンスかもしれないし、絶対にミスリル鉱石を取り尽くしてやるぜ!


 隠しきれない邪念が押し寄せるなか、不敵な笑みを浮かべる俺に、クレス王子の護衛騎士たちが近づいてくる。


「失礼だが、本当に大丈夫だろうか。ヴァイス様の手を借りずに王都へ帰るなど、解決策がないと言っているようなものだ」


 心配な気持ちはわかるけど、今ここで大丈夫だと言ったところで、騎士たちは信じてくれないだろう。依頼を受けた俺が一番幼く見えるし、頼りなく見えているに違いない。


「不満があるなら、クレス王子に進言してみてはいかがですか? 見守り続けるだけが騎士の役目じゃないと思いますよ」


「我々に不満などない……と断言できないところが、情けない。クレス様は王位継承権を放棄されても、王族としての責務を果たそうと生きてこられた。その邪魔をしたくはない反面、何を考えているのかわからないことがある」


「難しく考えすぎじゃないですか。彼は周りの人間を信じているだけでしょう。道中の護衛はリズと皆さんだけですし、今は余計なことを考えない方がいいと思いますよ」


「道中の心配は不要。我々には、クレス様をお守りする責任がある。しかし、この街を離れれば、引き返せないのも事実。だからこそ、今一度確認させてほしい。本当に貴殿たちに任せて、大丈夫なのかどうか」


 今後のクレス王子に大きな影響を与える依頼とはいえ、小さな頃から護衛してきた身内の騎士が、子供みたいな俺に心の内をさらけ出している。ちょっと失礼なことも言ったと思うけど、反論してくる様子もない。


 王族らしくない呑気なクレス王子を見れば、気持ちがわからないでもないけど……いや、何やってんだよ。


「僕とカレンちゃんの間柄でしょ。遠慮しなくても大丈夫。一緒に馬車に乗っても怒る人はいないから」


「何を言ってるのですか! クレスくんはともかく、次期領主のシフォン様も乗っているのですよ! 私が一緒に乗ったら、大変なことになるのです!」


「シフォンさんとも仲良くなれて、一石二鳥だね」


「何をさせる気なのですか! き、緊張で死んでしまうのです~!」


 ズリズリと馬車に引きずり込むクレス王子に、王族という言葉は似合わない。しっかり者のシフォンさんが思いを寄せて、ヴァイスさんが弟子にするほどの逸材なら、まだ見ぬ王族らしい一面がある。……と期待したい。


 この国のクラフターの運命を背負ってることくらい、本人が一番わかってると思うから。


「今回の依頼だけで言えば、すぐに皆さんの考え方も変わると思いますよ。クレス王子がどう動くかはわかりませんけどね」


 返答に納得がいかない騎士たちが不満そうな表情を浮かべているけど、あとは護衛の打ち合わせをするために近づいてくるリズに任せよう。王都へ向かう道中、クラフトスキルを使う場面は何度もある。目で見て体感してくれたら、彼らも納得してくれるはずだ。


 その間、俺はやることがないし、馬車に乗り込んで話に混ぜてもらおうかな。カレンのフォローをしてやらないと、本当に緊張で死にかねないし。


 ポカポカシリーズの使い勝手をシフォンさんにも聞いてみたいなーと思いながら向かっていくと、馬の世話をしていたアリーシャさんと目が合った。何か言いたそうにキョロキョロと周りを確認していたので、アリーシャさんの元へ向かう。


「どうかされましたか?」


 いつもテキパキと動いていたアリーシャさんだが、どうも様子がおかしい。メイドらしからぬ動きで、恥ずかしそうに手をモジモジとさせている。頬を赤く染めて上目遣いをしてくる姿は――。


「あの! と、とても言いにくいのですが、一緒に御者台に乗っていただけません……か?」


***


 アンジェルムの街を出発して、順調に旅が進むこと、二十分。パカパカと馬が馬車を引き、リズと護衛騎士たちがその周りを歩くなか、俺は御者台でアリーシャさんの隣に腰を下ろしていた。


「狭い御者台で申し訳ありません。お嬢様の命令になると、私も断れなくて……」


「歩かなくてもいい分、座らせてもらった方が楽でいいですよ。ご迷惑になるかもしれませんが」


 俺は、何も問題がない。本物のメイドさんの隣で御者台に乗せてもらえるなんて、異世界のドライブデートみたいなもんだ。


「いえ、お誘いしたのは私ですし、迷惑だとは思っておりません。ただ、思っていた以上に距離が近くて、恥ずかしいなと」


 一人で座るように作られている御者台は、思っている以上に狭い。旅の途中で地図を広げたり、荷物を置いたりするため、二人で座れないことはないけど……、身を寄せ合って座る必要がある。


 肩は密着したままだし、いつもと違う姿勢で馬を操縦するためか、アリーシャさんの足が右往左往に動く。その度に俺の足に当たるため、申し訳なさそうにパッと離され、変な空気になっていた。不自然なほど手も宙に浮いているし、アリーシャさんが緊張しているのは明らかだ。


 シフォンさんの命令という情報がなければ、俺もドキドキしただろう。でも、これは恋愛イベントが発生しているわけではなく、気遣ってもらっているだけだ。


「足を踏まれても怒りませんし、馬の操作に支障が出ないように、普通にしてもらっていいですよ」


「うぅ……、お言葉に甘えさせていただきます。私は馬車の扱いが苦手ですし、隣に誰かを乗せたのも、パパに操作を教えてもらって以来、今回が初めてです。パパっぽいミヤビ様なら大丈夫だと思ったのですが、どうにも意識してしまいますね」


 苦笑いを浮かべて、控え目に足を伸ばしてくるアリーシャさんは、顔が赤い。まだぎこちない動きを見せるけど、少しずつ慣れてくると思う。


 シフォンさんと魔法学園に通っているとはいえ、やましい視線に嫌気を差していたし、男が苦手なのかもしれない。専属でメイド業務に勤しんでいたら、周りを警戒することが多いだろうし、仕方がないかな。


 車の運転なら代わるんだけど、さすがに馬は無理だ。大人しくアリーシャさんに任せて、今はパパ役に徹することにしよう。

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