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第76話:カレンのクラフトスキル

 冒険者ギルドでエレノアさんと話した後、ヴァイスさんの元へ戻って、カレンと合流。そのままヴァイスさんはリズに任せて、俺とカレンは仮拠点へと移動する。


 鍛冶師が困難な作業であるため、付与魔法の値段はカレンと相談して決めた方がいいと、ヴァイスさんに言われたんだ。普段は生産ギルドの倉庫で働いているとはいえ、今後はカレンも付与魔法の依頼を受けるだろうし、意見は聞きたいと思っていたから、ちょうどいいと思う。


 付与魔法を練習するヴァイスさんの近くで値段の相談をするわけにもいかず、仮拠点で話し合うことになった。付与魔法の練習初日で、カレンが『寄せ鍋』に感動したこともあり、俺が建築した拠点に入ってみたいと言ってくれていたことも大きい。


 ちょっと恥ずかしい気持ちはあるけど、同業者に見てもらえるのって、貴重な経験だと思うんだよな。なんだかんだで師匠と呼んでくれるし、建築を自慢しても怒らなそうな人はカレンしかいないだろう。


 早速、仮拠点にやって来ると、この辺りでは珍しい木材の建築物を見て、カレンが俺の腕に抱きついてくる。おそらく、カレンの中に眠るクラフターセンサーが反応して、興奮してしまったに違いない。あわわわわっと動く口元は、テンションが急上昇して……。


「後ろの兵士さんが怖いのですよ~! 危険な物件なのです~」


 ……違った。領主邸の門兵さんに、恥ずかしがり屋センサーが過剰反応したみたいだ。あそこの門兵さんは、見慣れない人を威圧するのが仕事みたいなものだし、早く仮拠点の中に入るとするか。


「カレンも女の子なんだし、勘違いされたら大変だぞ。早く腕から離れなさい」


「無理なのです~! あの人たち、私を八つ裂きにする気ですよ~!」


「わかったわかった。大丈夫だ、怖くないぞー。兵士さんは仕事で動かないし、仮拠点に入ることだけ考えようなー」


 ビビり属性も持ち合わせていることがわかり、なぜか俺はカレンをあやしながら、仮拠点の中へ案内する。と言っても、ドアを開けて仮拠点の中へ入るだけで、カレンはすぐに俺から離れたけど。


 ポカポカと暖かい仮拠点の空気で気持ちが和らいだ……わけではなく、付与魔法の効果に感動しているみたいだ。カレンも頑張ったらできることだし、良い見本くらいにはなれたかな。


「家の中だけ、別の世界に繋がってるみたいなのです……」


「ほとんど外気温に影響されることなく、暖かい気温を保ってるよ。まあ、入り口で話すのも変だし、スリッパを履いて上がってくれ」


 サッとスリッパを出してあげると、圧倒されたカレンが靴から履き替えようとした。その瞬間、食い入るように足元を見つめる。


「師匠ーッ! このスリッパめちゃくちゃ可愛いじゃないですか~!」


 自分で出しておいて言うのもなんだが、気づいちまったかー! リズが付けたパーティ名『月夜のうさぎ』に由来するオリジナルデザイン、月とうさぎが描かれたスリッパだということを!


「まあ、クラフターの遊び心ってやつかな」


 無駄にカッコつけてしまったが、このデザインを考えるだけで、随分と苦労したよ。王都から帰ってくる道中、パーティを象徴するマークを考えようと思い、ずっと悩み続けていたんだ。


 結局、デザインがまとまったのは、まだ最近のこと。ヴァイスさんが職人魂を燃やして付与魔法を練習する姿を見て、影響を受けちゃったんだよなー。自分らしく生きるヴァイスさんを見て、パーティ名と同じような可愛いデザインにしようって。


 踏ん切りがついてからは早かったよ。すでに仮拠点のあちこちにパーティマークを描いて、オリジナリティを……って、こんなことをしてる場合じゃないか。


「後で見学してもいいから、先に付与魔法の値段だけ話し合おう」


 興奮するカレンを落ち着かせ、リビングへ移動する。キョロキョロするカレンをソファに座らせた後、早速、付与魔法の値段について――。


「師匠ーッ! ソファがふわふわなのです~!」


 ダメだ、予想以上に感動してくれて、話し合いが進まない。ソファに座ったカレンは、バインバインと跳ねて遊んでいる。


「とりあえず、仮拠点の感想は後で聞くから」


「なんでこれで仮拠点なのですか~! 貴族の家に招かれたみたいな感覚なのです!」


「似たようなことをリズにも言われたけど、何度もクラフト作業をやってれば、カレンもできるようになるぞ」


「こんなフワフワしたソファを作れるのは、生産ギルドの中でも限られるのです。クラフターが作るなんて、普通に考えたら不可能なのですよ~」


 ブンブンブンッと大きく手を横に振るカレンは大袈裟な気もするけど、嘘を言っているようには思えなかった。


 そういえば、この世界のクラフターと話したのは、カレンが初めてか。付与魔法の値段を決める前に、クラフターがどういう立場の人間なのか、しっかりと現実を聞いておいた方がいいかもしれない。


「付与魔法の話をする前に、少しだけカレンのクラフトを見せてくれないか? 俺は生産ギルドに入ってないし、他の人がクラフトスキルを使うところを見たことがないんだ」


「ええっ!? し、師匠にお見せするほどのクラフト技術は持ってないのです……」


「いや、一般的なクラフトスキルが見たいんだし、良いところを見せようと思わなくていいぞ」


「うぅ……。クラフター同士ですから、別に構わないのですけど」


「じゃあ、こっちに来てくれ。俺の作業部屋がある」


 恐る恐る立ち上がるカレンを背にして、俺は作業部屋へと進んでいく。


 今後、本拠点を建設する際に使う頻度が高まると思い、一階の奥に作っておいたんだ。仮拠点でも作りたいものがあるし、すでに護衛依頼の準備や付与魔法の試作品を作るのに使用している。その影響もあって、買い込んだ素材が散らかっているが。


 当然、掃除もしないでカレンを作業部屋に招き入れたこともあって、顔が引きつっていた。


「師匠は、意外に片付けられない性格だったのですね~……」


「自分の部屋は片付いているぞ。でもクラフト作業をする時に、インベントリの中に素材を入れたままだと、購入した布の色を間違えて記憶してることが多いんだ。実際にクラフトしたら、思ってたイメージと違うものができることがあってさ」


「確かに、これ全部がインベントリに入っていたら、迷うかもしれないのです。私はインベントリが大きい方ですけど、ここまで色々な素材は入りませんから」


 カレンがそう思うのも、無理はない。布だけでもアンジェルムの街を全店まわって、百種類近くは集めた。さすがに自分でもやり過ぎだとは思うけど、反省はしていない。


「あまり深くは気にせず、こっちの作業台のところへ来てくれ」


 足元に落ちてる素材をインベントリに入れながら、カレンが通れる道を作ると、二人で作業台の前に立つ。そして、インベントリからピンクと白色の毛糸を取り出し、カレンに手渡した。


「せっかくだし、毛糸の手袋を作って付与魔法の練習をしよう。自分でクラフトしたものに付与魔法を施した方が愛着も湧くし、寒い時期には持っておいて損はないからな」


「は、はいっ! 頑張りゅのです!」


 盛大に噛んだカレンが深呼吸して心を落ち着けると、手元に魔力を集め始める。良いところを見せようと思ってくれているのか、精神集中がちょっと長い。


 そう思っているのも束の間、手渡した毛糸が消費されて、カレンの手にピンク色のミトンが完成した。


 穴が一か所だけ空いてしまい、ダルダルになった印象を受けるけど、白い毛糸で雪の結晶のイラストが組み込まれている。いびつな形になってしまったものの、女の子っぽい印象を受ける可愛らしいミトンだ。


「で、できたのです! 緊張しましたけど、うまくできてよかったのです~!」


 人が作ったものにケチを付けたくはないけど、ミスをした……わけではないんだな。笑顔を見せて喜ぶ姿は、本当に喜んでいるように見える。


 クラフトで作るアイテムは瞬間的にできるものの、品質が落ちる傾向にあるのは知っていた。でも、予想以上に手作業で修正しなければならないレベルだ。ヴァイスさんに認められるほどのクラフターであるカレンが、このレベルのアイテムしか作れないのか。


「師匠も何か作ってほしいのです! 一緒に手直しした後、付与魔法をやるのです~!」


 上機嫌になったカレンがクラフト作りを誘ってくれるが、俺があのソファを作ったことを忘れているんだろう。クラフトスキルのレベルが高い俺は失敗しないし、高品質のアイテムをクラフトできる。


 ここでクラフトスキルを実行したら、カレンがショックを受ける気もするけど……仕方ないか。その方がクラフターの現状を聞きやすいだろうし、詫びにレベル上げを手伝ってあげれば、前を向きやすくなると思う。


 そうなると、ガッツリとレベルの違いを見せつけた方がいいな。俺のことを目標としてくれてるみたいだし、カレンも頑張れば同じことができるようになると、教えてあげたい。


 散乱している素材の中から、白い毛糸と青い毛糸を集めた俺は、カレンの服をジーッと見て、サイズを確認。頭で出来上がりをイメージして、クラフトを実行した瞬間、俺の手元に真っ白のセーターが誕生する。アクセントに青い毛糸で雪柄の模様が描かれた、カレンのミトンを参考にしたデザインだ。


 当然、そんなクオリティの高いものがクラフトされたら、カレンは驚愕の表情を浮かべる。


「ほええええ~! こんなのクラフトスキルじゃないのです~!!」

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