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第75話:エレノアの隠し事 

 エレノアさんに連れられて、冒険者ギルドの別室にやって来ると、事情聴取が始まった。ヴァイスさんとの交流関係を詳しく聞かれ、エレノアさんが紙にペンを走らせていく。


 俺の話が報告書にまとめられることを考慮して、控え目に話したのは言うまでもないだろう。ヴァイスさんのストレスを発散させるためとはいえ、リズが煽りまくってるなんて話をしたら、冒険者ギルドを追放されかねない。


「これ以上、秘密にしていることはありませんか?」


「冒険者ギルドへ来る前に、先にトレンツさんの元へ寄ってきたんですけど、ヴァイスさんに売ったベッドと同じものを販売しました。すでにシフォンさんにも売っていたので、後日、金貨四百枚を冒険者カードに振り込んでもらいます」


「私の感覚も麻痺してきましたね。それくらいであれば、問題がないように感じてしまいます。ですが、ミヤビくんは商人ではありませんし、この街の領主様であるトレンツ様は、簡単に会える方ではありません。不要な訪問販売は、絶対に控えてくださいね」


 社会人を経験したことがある俺としては、エレノアさんの言い分に納得できるし、同意見だ。今日はトレンツさんの元へ訪問する際、事前に家の前で警備する兵士さんに声をかけて、ちゃんとアポを取っている。


 でも、俺はトレンツさんの客人扱いになってるんだよなー。


「付与魔法の値段が決まり次第、便利なものができたら気軽に売り込みに来てくれと、トレンツさんに言われたんですけど」


「もう好きにしてください……。報告だけしてくだされば、けっこうです」


 サラサラサラッとペンを走らせるエレノアさんは、生気が感じられない。どういう報告書を作ればいいんだろうかと、早くも悩んでいるように見えた。


「なんかすいません。色々と迷惑をかけてるみたいで」


 さすがに罪悪感が出てくるけど、俺もヴァイスさんに巻き込まれてる節はある。ところどころ自分から首を突っ込んでる部分はあるし、貸しを作っているのは事実だが。


「……いえ、気にかけてる冒険者の情報くらいは、詳しく知っておきたいですから。ミヤビくんは天然が入っている分、放っておけない割合が大きいだけです。最近は会う度にドキドキさせられて、胸が苦しくなりますよ」


「知ってます、恋ってやつですね」


「いいえ、スリルです。冒険者活動していた頃よりも、ミヤビくんの報告はスリルがあります」


 ムッとした表情をエレノアさんが浮かべるけど、嫌われてるわけじゃない。見た目が若い俺のことを気にかけて、心配してくれているんだ。お人好しパーティの俺とリズのことを、妹と弟と言ってくれてたから。


 前回の護衛依頼でも、随分とリズに協力してくれたし、腹を割って話しておいた方がいいかな。ちょうど別室に案内してもらって、二人きりになったことだし。


「真面目な話、俺はヴァイスさんを慕ってますし、トレンツさんも嫌いじゃないです。土地を借りて建築できるようにもなったので、無闇に問題を起こすつもりはありません」


「私もミヤビくんが問題を起こすような子ではないと思います。ですが、冒険者登録して間もないサポーターが活躍すれば、不審に思う人がいるのも事実です。特に、データだけで判断する冒険者ギルドの本部はシビアになりますよ」


「うちには優秀な成績を残すエリート魔法使いがいますし、ヴァイスさんが推薦状を出してくれたおかげで、俺は保護されてるような扱いになると思います。現状は、冒険者ギルドが関与しにくい状況のはずですけど、何か本部から言われてます?」


 サラサラと動いたエレノアさんのペンが止まった。感づかれると思っていなかったらしく、言い訳を探しているように見える。


 冒険者ギルドの職員とはいえ、エレノアさんが俺とリズに不利な立場を取らせようとするとは思えない。手元に書かれた紙も丁寧にメモを取ってくれて、慎重にヒアリングしてくれていた。まるで、必要以上に実績を作ろうとしている印象を受けるんだよな。


「いくらヴァイスさんが偉い人でも、冒険者ギルドが干渉しすぎだと思うんですよね。データだけで判断する本部に対して、報告書は有効に働いてくれそうですし、別の意図があるように感じます。リズに聞かせたくない話であれば、今のうちに聞いておきますよ」


 あまり言いたくないような話なのか、エレノアさんは数秒ほど目を閉じて、俺に真っすぐ目を合わせてきた。


「パーティ人数を増やす、もしくは、それぞれ別の高ランク冒険者パーティに引き抜かせるように、本部から言われています。リズちゃんは育成目的、ミヤビくんは金銭目的ですね。良くも悪くも、森の調査依頼で評価された印象です」


「慎重な性格で大きな実績が作りにくいリズよりも、実績が作りやすそうな俺の報告を増やした方が、回避しやすいっていう感じですか?」


「ミヤビくんが変なことばかりするので忘れていましたが、そういえば、大人っぽい思考をお持ちの方でしたね。私の個人的な考えになりますが、シフォン様の護衛依頼の件が本部に伝われば、いったん様子見だと判断されると思います。ですが、赤壁の皆さんが過大報告した場合、リズちゃんの引き抜きが現実味を帯びてきます」


 森の調査依頼で十一体のブラックオークを討伐した魔法使いで、Aランク冒険者にも認められたとなれば、冒険者ギルドの本部が動いても不思議じゃない。もっと自由な職だと思っていたけど、有望株は育てたいという本部の気持ちもわかる。


 Aランク冒険者を目指すリズにとっては、最短ルートになるかもしれないが……引き抜きはやめた方がいいな。慎重に行動したがるリズは、誰かのパーティで活動するタイプじゃない。マイペースに依頼をこなさないと、余裕が持てないタイプになる。


 ずっとソロ冒険者だったことをエレノアさんも知ってるから、何とか阻止しようと動いてくれていたんだろう。


「赤壁の過大報告が普通に受理されると思えませんし、関わった人に事実確認が入りそうですね」


「ヴァイス様の怒りを買うわけにはいきませんし、まだ先の話になると思います。定期的に報告してくだされば、現状維持ができるように、私の方で対応しますよ。ミヤビくんが普通に過ごしているだけで、報告することは山ほどありそうですから」


 エレノアさんに呆れ顔を向けられてしまうけど、俺も似たような気持ちだよ。ギルドの方針よりも冒険者を優先するなんて、ギルド職員が取る行動ではないだろう。何にも見返りを求めず、すでに陰で動いてくれてる辺りが、本当にリズのお姉さんっぽく見えるんだよなー。


「知らないうちに気苦労をかけていたみたいなので、今度何かお礼をしましょうか、お姉さん」


「あらあら、気の利いた弟くんですね。私もしばらくは魔物災害対策の話し合いで忙しいので、ヴァイス様の件が落ち着いたら、久しぶりに妹ちゃんと食事ができると嬉しいかしら」


「妹と同じで、お姉さんも欲がないですね」


「一番お人好しな弟くんには言われたくありません」


 プッチーン! はい、俺のお人好しセンサーが切れて、暴走を始めちゃいますよ。現実逃避不可避のVIP待遇で迎え入れる予定になりましたので、覚悟しておいてくださいね、お人好しのお姉さん。

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