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第38話:拠点がほしい

「今後もパーティを続けていくなら、この街に拠点がほしいです」


 冒険者ギルドで大金を手に入れた日の夜、珍しくリズが部屋を訪ねてきたと思ったら、急に拠点がほしい宣言をしてきた。


 気持ちはわからないでもないが、リズと二人で拠点に過ごすというのは、さすがに気が引ける。一人で土地を借りるにしては金が足りないだろうし、ありがたい申し出ではあるんだが……。


「エレノアさんから商業ギルドの紹介状をもらったし、俺もほしいとは思ってる。でも、パーティで借りようと思ったら、男女二人で生活するようなもんだぞ?」


 精神年齢は離れていたとしても、実年齢はリズの方が一つ年上だ。周りから見れば、結婚してると誤解されかねない。


「私は大丈夫だよ。ミヤビは変なことをする人じゃないし、お父さんとの二人暮らしを思い出すから、なんか懐かしいなーって。パーティで拠点を持つのは、冒険者として誇らしいことでもあるからね」


 俺という存在が実家のような安心感を提供していると言っても、過言ではない。土地を借りて家を建てれば、そのうちあだ名がお父さんに定着しそうで怖いよ。


「リズがいいならいいけど、土地の値段っていくらなんだ? 全然知らないんだが」


「ミヤビが家を建ててくれるなら、私が頭金を出すつもりだよ。土地を買えるだけのお金はないけど、借りる場合は金貨百枚あれば、広いところが借りられると思うの。宿に泊まり続けるのと同じくらいの出費になるかな」


 風呂付きの高級な宿ということもあって、この部屋は一泊金貨二枚。二人合わせると、一か月で金貨百二十枚かかる計算になり、日本円で百二十万円の出費になる。それを考えると、確かに月々の出費が安くなる可能性が高そうだな。


「一人だとキツいけど、パーティだといけそうな感じか。しばらくはブラックオークの肉もあるし、生活費や賃貸料は問題ないよな」


「今後も依頼を続ければ、魔物の素材ももっと売れるし……あっ、そうだ。前から気になってたんだけど、いつもどこで解体してるの? 気が付けば解体処理されてるイメージなんだけど」


「ああ、インベントリに素材を解体する機能が付いてるんだよ。売れそうにないゴブリンの肉とかウルフの肉は、穴を掘って埋めてるかな」


 順応してきたリズが大きなため息を吐く姿を見れば、本当にエレノアさんに言わなくてよかったと思う。


「どういうインベントリをしているのか、一度じっくり観察してみたいよ。魔法よりも不思議な人間は、この世でミヤビくらいかな」


「便利なものは、ありがたく使っておくもんだぞ。俺は魔物の解体作業なんて、絶対にやりたくない」


「私もやりたくないよ。気持ち悪いし、血生臭くなるし、時間をかけると魔物が寄って来るし。ミヤビとパーティを組み始めて、魔物の解体作業がなくなったことが一番ありがたいと思うもん」


 この世界の住人でも、魔物の解体って抵抗があるんだな。Cランク冒険者のリズがこういうくらいだし、想像以上にツライんだろう。


「ソロ冒険者だと、周囲の警戒をしながら魔物の解体作業するのか。それはしんどいな。今までパーティを組もうと思わなかったのか?」


「組んでた時期もあったけど、依頼をこなしていくと、色々合わなくなるんだよね。低ランク帯で慎重な冒険者は少ないし、体力の少ない魔法使いは、足手まといにしかならないの。おまけに、動きの少ない後衛職が魔物の解体作業を担当することが多くて、一人の方が楽って思い始めたかなー」


 危険を冒して旅をするのが、冒険だもんな。低ランク依頼で報酬が少ない時は、早くランクも上げたくなって、無理な依頼も果敢に挑みそうだ。


 自分のことを足手まといと言うくらいだし、失敗した時の風当たりが強くて、パーティを組まなくなったのかもしれない。


「その点、ミヤビは一緒にいても楽だね。戦闘以外のことは全部任せられるし、気遣い上手で私のペースに合わせてくれる。私が言うのもなんだけど、甘いというか、お人好しな性格だよねー」


「戦闘するリズとサポーターの俺では、役割が違うだろ……と思っていたけど、最近は自分でもそういう傾向があるんじゃないかと思い始めたところはある」


 亡くなった冒険者の遺族に、リズより多く寄付するとは思わなかったからな。思い返せば、全額寄付はやりすぎだろう。お人好しのリズでも、半分で留めているというのに。


「今頃なの? 野営でも拠点でも、わざわざ女の子の気持ちを考えるのは、ミヤビくらいだよ。逆にやましい気持ちがあるのかと、普通は警戒するところだからね」


「確かに、リズの言う通りかもしれない。野営中にベッドで爆睡して、寝坊したリズの言葉は重いよ。寝ぼけて俺のことを、お父さん、と呼んだくらいだしな」


「あれは、ミヤビが変な真似をしないと信頼した結果であって……あの、早く忘れてください。お願いします」


「言いふらすつもりはないけど、拠点を作れたとしても、寝坊しないように気を付けような」


「うっ……善処、します」


 そこは、寝坊しない、と言い切ってほしかったぞ。寝坊するリズを起こしに部屋へ入るのは、さすがに抵抗が強くなる。プライバシーの侵害という概念がこの世界にあるかわからないけど、踏み込んじゃいけない部分もあるだろう。


「拠点を持つにしても、商業ギルドで聞かないとわからないし、明日行って聞いてみるとするか」


「うん、私もそれでいいよ。あと、拠点とは関係ない話で、一つお願いがあるんだけど……いいかな?」


「どうした?」


 急にモジモジし始めたリズが、俺に小さな袋を手渡してきた。何か問いかけようとしても、目線を外して、恥ずかしそうにしている。


 何か言いにくいことでもやったのかなーと思って袋の中を見てみると、予想していないものが入っていて、俺は固まった。


「えーっと、私の肌着と靴下にも、温かくなる付与魔術してほしいなーって」


 小さなモコモコとした靴下が三足に、薄いピンク色の肌着が三着。何気なくつかんで取り出したものの、リアルすぎる女性の肌着に戸惑いを隠せない。


 リズの方から不審な視線を感じるが、どうしたらいいのかわからなくなった俺は、手元から目線が外せなかった。


「念のために言っておきますが、新しく買ってきたものになります。お願いする身ではございますが、あまりジロジロ見られたくはないので、早めに終わらせてもらえると嬉しいです。さすがに……警戒しますから」


「ごめん。正直に言うと、同じことを考えていたんだ。でも、肌着を貸してくれ、とは言い出せなかったから。こうやっていきなり渡されると、どうしていいのかわからない」


「そんな気はしてたから、心配してないよ。最近は、ひざ掛けとクッションも温かくなってたし、色々と気遣ってくれてるのはわかってるもん。……ありがと、色々と」


「……おう。付与魔法、するわ」


 信頼してくれてるのは伝わってくるんだが、こいつ、たまに男心をくすぐってくるんだよな。恥ずかしそうに顔を赤く染められると、さらにグッと来るというか……。


 この日、ちょっとした緊張感があるなか、リズの肌着に付与魔法を行うことになった。ジッと見守られていたこともあって、やりにくくて仕方がない。明日渡すと言いたいところだが、女物の肌着を一夜預かるわけにもいかず、この場でやるしかなかった。


「ミヤビの付与魔術って、変わってるよね。魔力と素材を二重結合して、べナルークの魔力浸透法をベースに付与してるの? それとも、デルーガの鎖状結合を意識してるとか?」


「そいつら誰だよ。ベナルークもデルーガも知らないし、急に魔法の理論をぶつけてこないでくれ。こっちはクラフターだぞ」


「だって、普通の付与魔術はこうならないんだもん。気になるじゃん」


 当の本人は呑気なもので、付与魔法の勉強会を始める始末である。その分、余計に注目されてやりにくくなったのは、言うまでもないだろう。

【あとがき】


ミヤビとリズがパーティの絆を深めたところで、第一章は終わりになります。


第二章では、もっとクラフター&サポーターらしい輝きを見せられると思いますので、お楽しみに!


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