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第35話:冒険者カード

 エレノアさんの後ろを歩き、ギルドの受付カウンターの裏に通されると、解体場へと繋がっていた。


 何人ものマッチョたちが魔物を解体するなか、「おっ、肉王子」と呟かれる。裏で呼ぶ分には構わないけど、本人を前にして言うのはやめてほしい。恥ずかしいだろ、そのあだ名。


 普段は冒険者が足を踏み込まない場所のせいか、必要以上に注目を集めながら歩いていくと、関係者以外立ち入り禁止の大きな倉庫に案内される。


 中に入ってみると、色々な魔物の素材が置いてあり、少し薄暗い。外よりも空気が冷たいのは、倉庫内にある冷凍庫から冷気でも漏れ出ている影響だろう。


「倉庫内のものとゴチャゴチャにならないように、こちらに置いていただいてもよろしいですか?」


 入り口で呆気に取られている間に、近くにある大きな机までエレノアさんが移動していたので、急いで向かった。


「思っていたより大きい倉庫でビックリしました」


「こちらはミヤビさんのインベントリの大きさにビックリしていますよ」


 確かに、実際の倉庫と比較するとドン引きするな。もっと入るなんて、口が滑っても言えないぞ。


「納得しました。買取のお願いをしたいものを出しますね」


 後で整理しやすいように、皮、牙、骨を机の上に分けて置いていく。さすがに十一体のブラックオークの戦利品ということもあって、ギリギリ机の上に乗る量になる。


「一応伝えておきますが、これだけでもBランク冒険者パーティが二組で狩りをして持ち帰ってきた、という量よりも多いです。重い肉を持ち運ぶなら、もっと量は減りますよ」


「冒険者って大変ですよねー。疲労が溜まる帰り道で、重い荷物を運ばなければならないなんて」


「最近は無理に運ぼうとされる方も多いですが、元々は依頼報酬がメインです。納品依頼でなければ、素材の持ち込みは臨時ボーナスみたいな感覚でしたよ」


 ……感覚でした? 受付嬢にしては、随分と冒険者寄りの思考になるな。


「受付の仕事が長いと、そういう話も冒険者さんから聞かされるんですか?」


「いえ、三年ほど冒険者活動をした実体験になります。パーティ解散と共にギルドに就職して、今はもうサッパリですが」


 懐かしむような遠い目をしたエレノアさんは、ブラックオークの牙を手に取り、ジーッと眺めていた。


 魔物が溢れる世界だし、あまり良い思い出じゃないのかもしれない。パーティを解散せざるを得ない状況にあった……と考えたら、深く聞かない方がいいだろう。


「そうだったんですね。エレノアさんは美人なので、冒険者経験があるとは思いませんでした」


「ミヤビさんも冒険者とは思えないほど、ナチュラルにお世辞が言えるんですね。やっぱり貴族出身ですか?」


「貴族とは遠い存在になる、ただの一般人ですよ。本当のことを言っちゃうくらいには、素直なだけです」


「どちらも嘘と言われた方が納得できるのですが……、本当にミヤビさんは解体が上手ですね。牙の根元から採取するのは難しくて、傷がつきやすいんですよ?」


「えーっと、元々クラフターなので、手先が器用なだけですよ。ハハハ……」


 今のエレノアさんに、インベントリの【素材分解】機能です、と言ってしまうほど、俺は空気が読めないわけではない。とんでもない呆れ顔をされて、軽蔑されることは間違いないから。


「それより、魔物の戦利品と言ってはなんですけど、もう一つ提出物をいいですか?」


「何でも出してください。もう驚きませんから」


 結局、エレノアさんに呆れた顔を向けられたまま、俺は小さな六枚のカードを取り出した。すべてに名前と『D』の文字が刻まれた、冒険者カードになる。


「見つけられていましたか……。名前を確認しないとわかりませんが、数は一致します。行方不明の冒険者たちのカードと判断して、間違いないでしょう」


 討伐したブラックオークを回収する際、集落の周辺にはたくさんの骨があった。魔物を餌にしていた以上、ウルフやゴブリンのものばかりだと思っていたし、ハッキリと見たわけではない。でも、冒険者カードが落ちていたということは、そういうことなんだろう。


「ブラックオークが戦闘で使っていた武器も、鉄製で体格に合っていませんでした。依頼を受ける前から予想はしていましたけど、実際に見つけると後味が悪いですね」


「結婚されて間もない男性が一人いらっしゃいましたし、行方不明のまま淡い期待にすがるよりは……という感じです。冒険者という道を選んだ以上は仕方ありません」


 行方不明で帰ってこない旦那を待ち続けるよりは、確かにいいかもしれない。まだ気持ちの整理が付けられるし、手を合わせることだってできる。淡い期待を砕くことになるのは、申し訳ないけど。


 直接関わったことのある人でもないし、事後に受けた調査依頼だ。俺とリズに何の責任がないとわかっている。でも、けっこうキツイもんがあるな。


 自分ではわからないけど、あまり良い表情をしていないのか、エレノアさんに苦笑いをされてしまう。


「そういうところは、年相応の心をお持ちなんですね」


「経験が少ないだけで、心の整理の付け方がわからないんですよ。知らない人ですけど、幸せだったんだろうなーと思うと……余計に何とも言えなくて」


「だから、冒険者カードを隠して持ち込み、リズちゃんがいない間に渡そうと思われたんですか? 調査依頼を終えたばかりの彼女が知れば、ミヤビさんよりも心が折れてしまいそうですもんね」


 的を射るようなエレノアさんの言葉に、俺は何も言い返すことができなかった。


 リズと長く接してきた影響なのか、エレノアさんも似たような経験をしてきたのかは、わからない。ただ、大人の女性には敵わないなーという思いと共に、どこか心がホッとするのがわかった。


 勝手にリズの分まで背負い込んでいた、そう教えてもらった気がしたから。

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