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第34話:普通という感覚を持たない人

 自分の父親がギルドマスターとパーティを組んでいたことを知り、リズは挙動不審になっていた。


「えーっと……、父がお世話に、なりました」


「昔の話を掘り起こす気はないし、ライズに迷惑をかけていたのは俺だ、気にするな。今後も特別扱いをするつもりはないが、個人的には期待している。娘は十一体のブラックオークをソロで討伐するくらいに、お転婆な一面もあるみたいだからな」


 良い意味で殻を破ったと評価したであろうザイオンさんが笑みを浮かべるけど、真面目なリズが素直に称賛を受け取ることはない。それは違いますー、と、右手を何度も左右に振っている。


「先ほども申し上げましたが、ブラックオークの討伐はソロではなく、パーティで行いました。私一人で討伐しようと考えるほど、お転婆なわけでもありません。どちらかといえば、体格の大きな魔物の戦闘に関しては、ミヤビの方が活躍しますので」


 リズの言葉を聞いて、二人の時間が二秒ほど止まる。


 お前はサポーターじゃなかったか? と言わんばかりに書類を確認するザイオンさんと、インベントリを使っていたから生産職のはずなのに、と首を傾げるエレノアさん。そして、ちゃんと自分で言ってよ、と肘でトントンしてくるリズ。


 俺が何かやっちゃったみたいな雰囲気だな。実際に討伐したのはリズだというのに。


「戦闘も調査もリズがメインで、俺はちょっとサポートしてるだけですよ。自ら攻撃するのは、ゴブリン程度の弱い魔物ぐらいです」


 実際に俺はブラックオークに攻撃していないし、ウルフから護衛される身であるため、嘘をついている訳じゃない。が、リズが何か言いたそうな顔で見てくるため、不満を持っているのは間違いなく、ザイオンさんもどう判断していいのかわからないみたいだった。


「サポーターも冒険者である以上、戦闘の役に立てるのは良いことなんだが、パーティの言い分くらいは揃えてくれるとありがたい」


「ミヤビは普通という感覚を持たない人間で、理解できないことを繰り返しますから、意見を揃えきれません。でも、人柄や性格は問題ないですし、サポーターとしては優秀すぎるくらいです。パーティを組む身としては、懸念を抱く必要ないと思います」


 真面目に答えるリズを見て、俺はようやく自分の方が怪しく映っていることに気づく。


 冒険者活動で得た信頼と実績があるリズとは違い、俺はまだギルドに登録をして、日が浅い。ブラックオークの肉を大量に持ち運び、報告書をわかりやすくまとめたものの、どちらも良い意味でギルドの職員を驚かせた。しかし、何か裏があるのではないかと疑われているんだ。


 その証拠に、リズの言葉を聞いたザイオンさんが、エレノアさんに意見を求めるように見つめた。


「短い付き合いですが、私も悪い方だとは思いません。受付カウンターを埋め尽くすほどの肉を取り出し、解体班が感心するほど解体も丁寧で、報告書もわかりやすいです。リズさんの言葉に納得できますし、他のギルド職員が持つ印象も良いと思います。あと、ギルド規約を読まれるくらいには真面目です」


 急に真面目のハードルが下がった気もするが、心からギルド規約を読んでおいてよかったと思ったよ。


「詮索するつもりはなかったが、気になっていたのは事実だ。優秀なサポーターを探しているとはいえ、本来は注目されるような職ではなく、職員が噂をするほどとなれば、怪しく思えてくる。気を悪くしたかもしれないが、ギルドマスターの責務みたいなものだ、許してくれ」


 確かに、俺も『肉王子』として注目されるとは思いもしませんでしたよ。


「おっしゃりたいことはわかりますから、気にしていません。でも、俺はただのクラフターであって、悪事を働くつもりはないです。素材採取をするために冒険者活動は続けて、早く金を貯めて土地を買い、自分の家を建築したいなーと考えているだけですから」


「確かに、こいつは変わり者だな。素材採取をするために冒険者活動を続けると言い切るクラフターを、俺は初めて見た。が、インベントリの容量を考慮すると、サポーターは天職になるはずだ。今回のような高級食材は需要が高く、金貨百枚は優に超えるだろうな」


 ブラックオークの肉が大量に手に入ったことで、ザイオンさんは口がにやけている。エレノアさんも臨時ボーナス案件だと言っていたくらいだし、売値は金貨百枚どころじゃないんだろう。


 そんなあなたに朗報です。


「まだ三頭分しか出していないので、残りの六頭分は納品する予定です。冷凍庫に入るようでしたら、この後お持ちしましょうか? 二頭分はうちのパーティで食べる分として残しますが」


 最初の威圧感ある姿はどこへいったのか。ザイオンさんがポカーンとしてしまった。こいつは何を言ってるんだ? という雰囲気で、リズに視線が集まる。


「私、言いましたよね? ミヤビは普通という感覚を持たない人間で、理解できないことを繰り返しますから、意見を揃えきれない、と。生産ギルドの管理する倉庫が人間になって歩いている、そう思っていただけると一番いいと思います」


「悪い、聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」


「安心してください。私も一度は聞き流しましたし、考えることを放棄しました。純粋な事実のみの報告ですが、彼は歩く倉庫です。ブラックオークの他にも、森が作れるくらいの木材を持ち運んでいますから」


 事実だけを報告されれば、俺は何も言い返せない。自分でも歩く倉庫みたいなものだと思っている。


「こんなに頭に入らない報告は初めてだ。言葉が耳を素通りして、まったく理解できない。念のために確認するが、十一体のブラックオークをすべて解体して持っているのか?」


「ありますよ。出しましょうか?」


「いや、インベントリに余裕があるなら、そのまま持っていてくれ。冒険者ギルドで買い取りできるとありがたいが、品質が落ちる前に売ろうとすれば値段が落ちるし、希少価値があるから高額で売れる。自分でも何を言っているかわからないが、毎月一頭ペースが一番いいと思うぞ」


「そうですか。では、定期的に卸す形にしますね。ちなみに、皮や牙や骨は売れないですかね? 骨は少し手元に置いておきたいので、全部は出せないんですけど」


「……納品できるものは、すべて買い取ろう。エレノア、ギルド倉庫に案内してやれ。どれだけの量が入っているのか、俺にはサッパリわからん。調査報告もこのまま受け取り、改めて情報を精査するとしよう」


「わかりました。一応、職員以外は立ち入り禁止の場所になりますので、リズちゃんは遠慮していただいてもよろしいですか?」


「はい、大丈夫です。じゃあ、私はギルドの図書館に行ってるから。今日はもう、自由行動でいいよね?」


「そうだな。気を付けて行ってこいよ」


 そのままリズとは部屋で別れて、エレノアさんと一緒にギルド倉庫へ向かう。歩く倉庫ってなんだ、というザイオンさんの言葉が聞こえてきたから、相当受け入れがたいことだったんだなーと思った。

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