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第30話:ポカポカドリーム地下空間Ⅱ

 避難した地下空間に付与魔法を行うため、先に地面を木ブロックに置き換えていく。


「普通に過ごせる空間にはするから、ちょっと待っててくれ。先に端っこの地面をいつもの昼休憩セットに置き換えるよ。温かい茶くらいなら、ヤカンに入れて置いとくぞ」


「寒いから助かるよ。ありがとう、ミヤビお父さん」


「人間って怖いな。自分が本当にお父さんっぽいと思えてきた」


 受験前の父親みたいな気持ちが芽生えてきたんだ。自分はともかく、リズが風邪を引くといけないという謎の自己犠牲が働く。作り置きしていたジンギスカンを後で一緒に食べようと思っていた辺りが、さらに父親っぽいところを加速させていた。


 昨日は作りすぎちゃったから、冷凍のやつをチンして食べなさい、的なやつ!


 パーティを組む以上、悪い関係ではない……と思いつつ、地面と壁と天井をすべて木ブロックに置き換える。土を採取してブロックを設置するだけなので、多少時間はかかるものの、何も問題はない。


 ポンポンポンッとブロックを敷き詰め、娘の部屋の掃除をしているような錯覚に陥った後、壁に手を置いて魔力を流していく。


 土ブロックに光魔法を付与する程度なら、シビアにならずにパッとできる。慣れ親しんだ作業であり、神経質になる必要もない。でも、木ブロックに火魔法の付与を施すのは別だ。


 最悪、ここが火に包まれて炎上する。地下である以上、逃げて土ブロックで塞げば大丈夫だろうけど、そんな経験はしたくない。


 木ブロックの繊維に魔力を流し続け、数十分が経過する頃。三度目の茶をリズがおかわりしたところで、ようやく付与魔法の準備が整った。


付与魔法(エンチャント):火」


 周囲を確認してもボッと燃え始めるところはなく、一見、何も起こっていないように思える。しかし、壁がじんわりと熱を持ち始め、少しずつ床から熱気を感じるため、成功していることがわかる。


 全方向温熱ブロック搭載のポカポカドリーム地下空間が、今ここに誕生した。暖房費ゼロ、乾燥して喉がイガイガしない夢の空間になる。ポカポカとした熱気が常に発生していて、意外に部屋が暖まるのも早い。


 なお、温度調節は簡単で、温熱ブロックを普通の木ブロックに差し替えるだけでOKだ。温度を上げたい場合は、付与魔法をやり直す必要があるけどな。


 早くも部屋がポカポカしてきたこともあって、寒がりのリズにも変化が現れる。


 靴を脱いで椅子の上で体育座りをしながら、ひざ掛けに包まっていたのに、恐る恐る普通に座り始めたんだ。熱が出る方向にそーっと足が引き寄せられるように、冷たいはずの床に恐る恐る足を下ろしていく。ピタッと床に足を置くだけ、ジワ~ッと温熱ブロックが温めてくれるため、それだけで暖房器具扱いになる。


「ねえ、何をしたの? なんか部屋が暖かくなってきたし、床が熱を持ってるんだけど」


「木ブロックに火魔法を付与して、部屋を暖めたんだ。足元も温かいし、思っていたより快適だよな」


 どうりで温かいわけだー、と、ホッとリズが安心する姿を見れば、どれほど順応性の高い人間かわかるだろう。俺でも付与魔法でポカポカ空間を作れると知ったときは、テンションが上がって驚いたというのに。


「手足がキンキンに冷えてたから、生き返るみたいだよー。極寒の地下空間で、お風呂に入らなくても手足が解凍されていくなんて、まるで夢みたい。普通はありえないけど、ミヤビだもん。納得しちゃうよねって、なんでやねんっ!」


 裏でノリツッコミの練習してきたんだろうか。だんだん紡ぐセリフが長くなってるし、光源ブロックに対する順応が早かったのも、後でノリツッコミをする布石みたいになっている。ここまで計算してリアクションしてたのかな。


 完全に予想外だよ、と言わんばかりのリズは、真剣な顔で見つめてきているが。


「一泊で金貨二枚もする宿より、快適な空間を作っちゃダメ。湯冷めする心配もないし、上にブラックオークの集落があるのに、熟睡する自分がいそうで怖いよ。クッションを敷いて眠れば、さぞ背中が温かくて快適な睡眠が取れるんでしょうね」


 褒められているのか、クレームを入れられているのかわからない。だが、快適な睡眠を取るためのベッドを要求してきたであろうリズのために、俺は全力で応えようと思う。多分、またノリツッコミをしてくれるから。


 期待に胸を膨らませる俺は作業台を取り出し、即効でクラフトを実行する。


「そう思うじゃないですか。でも、床に寝るのは忍びない。そんなあなたに、こちら! グラウンドシープの羊毛で作った、ふわふわベッドになります!」


 どーんっ! と、真っ白なベッドを取り出すと、タッタッタッとリズは駆け寄った。


「うわ~、すっごーい。ちょっと座っただけで沈み込んじゃう。まるで羊毛に包み込まれてるみたーい」


「掛け布団にもたっぷりの羊毛を使用しておりますので、実際に寝る時はふわふわのサンドウィッチ。上と下から羊毛ハグされることで、体の熱を逃がしません。つまり、明け方の寒~い気温で、もう起きなくていいんです」


「えーっ! この寒い時期にピッタリ! どうしよう、座ってるだけで眠くなってきちゃった。こんな経験は生まれて初めてかも……って、やらせないでよっ!!」


 顔が赤くなるまで頑張らなくてもいいんだぞ。あと、早くもベッドが気に入ったみたいだな。座ったまま離れようとしない。


「ひとまず普通に過ごせるようになったし、作り置きしてあるジンギスカンを食べよう。さすがにベッドの上で食べるのは、汚すからダメだぞ」


「わかってる。わかってるけど……このベッド、宿で使っちゃダメかな?」


「宿の人にベッド持ち込みOKか聞く勇気があれば、いいんじゃないか。高級な宿ほど怒られると思うけど」


「う~~~ん、そうだよね……。寝心地よさそうなのになー……」


 お風呂とふわふわベッドを天秤にかけた結果、お風呂が勝ったであろうリズと一緒に、夜ごはんを食べる。


 いくらグラウンドシープの肉がおいしいとはいえ、ずっと味付けが塩コショウのみ。煮込んで食べたとしても、同じような味付けになるため、物足りなさを感じる。高級食材なだけあって、おいしいのはおいしいと思うけど。


「それで、明日はどうする?」


「えっ? ……ああ、ブラックオークのことね。ちゃんとわかってるよ。忘れてたわけじゃないから」


 快適な空間になって、実家のような安心感を出すのはやめてくれ。俺のこと、完全にお父さんだと誤認していただろう。


「思ったより繁殖してなかったし、討伐を視野に入れてもいいかなーって思ってるの。強い魔物ではあるけど、知能は高くない。戦略次第では、十分に勝てる相手になるはずだから」


「一応言っておくけど、確実にブラックオークが原因で森がおかしい、という保証はない。他にも強い魔物が繁殖している可能性はあるが、戦闘で大きな音をたてて、本当に大丈夫か?」


「それは大丈夫。ブラックオークの肉がおいしい影響か、近くの魔物を引き寄せる性質があるの。繁殖してるっていうことは、この森で一番強い魔物がブラックオークになる。他の原因は考えにくいよ」


 ジンギスカンをよく噛んで食べるリズを見て、俺は思った。


 戦略次第では勝てる相手、つまり、普通に戦っては勝てない相手になる。戦闘を始めたとしても、脱出用の地下空間に逃げ込めば、命の危険はないだろう。しかし、そこまでして討伐する必要はない。


 調査依頼を完璧にこなしたわけだし、ここで帰った方が評価は高くなるだろう。冒険者ギルドは、解決してほしいわけではなく、森の情報が欲しいのだから。


 勝ったとしても、危険な挑戦だと思われたら、ギルドの評価は下がるかもしれない。冒険者としてレベルアップするためにブラックオークへ挑みたい可能性もあるけど、リズは慎重に依頼をこなすタイプだ。


 何か別の理由があるに違いない。


「なんとなくわかってきた。ブラックオークの肉が食べたい、そういうことだな?」


「……うんっ!」


 なんで裏の意図がわかっちゃったんだろう。俺、本当にお父さんみたいじゃん。


「素直でよろしい。今から強襲作戦を考えて、今日は早めに寝るぞ。窓がない地下だと時間がわかりにくいし、寝坊するやつが一人いそうだからな」


「大丈夫。私、朝はけっこう得意なの。寝心地が良さそうなベッドで寝ても、絶対遅刻しない自信があるから」


 盛大なフラグを立てたリズと一緒に、ブラックオーク討伐作戦を話し合い、明日に備えることにした。

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