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第25話:リペア作業Ⅱ

 ヒビの入ったメルの剣を修理するため、俺は手元に集中する。右手にはメルの剣を、左手にはレッドドラゴンの牙を持ち、両方に魔力を流し込んでいく。


「お前がどれほどのクラフターか、見せてもらおうか」


 それを、腕を組んだヴァイスさんに見守られるという、地獄の家庭教師みたいなイベントが発生。めちゃくちゃやりにくいため、正直どっかに行ってほしい。


「……頑張れ、ミヤビ」


 反対側でジッと見守るメルに応援されるのは、普通に嬉しい。子供の運動会で頑張る父親みたいな気持ちで、胸が高鳴るよ。そんなシチュエーションを経験したことはないけど。


 剣と素材に魔力が行き渡ったところで、それらを優しく接触させると、共鳴して輝き始める。こういう反応が見られれば、武器と素材が互いにリンクしたことを表しているため、失敗はしない。


 あとは刀身の損傷部位へ向かって、素材の魔力を流し込むだけ。うまく馴染ませることができれば、それだけ素材の消費量は減るんだが……。


「思ってた以上に、ドラゴンの牙は扱いが難しいですね。けっこう時間がかかりそうです」


 異常なほど、難しい。少しでも気を抜けば、剣から魔力がこぼれ落ちてしまう。


「しゃべる余裕があるなら、十分だ。気合を見せろ。その素材だけでリペアできたら、残りのドラゴンの牙はお前にやるぞ」


「太っ腹ですね。ただ働きは嫌いなんで、もらって帰りますよ」


 意地の悪い家庭教師に見えてきたヴァイスさんに強がってみたものの、これは本当に厳しい。本来なら、ドラゴンの牙から少しずつ魔力を流し込み、剣に練り込ませることで、損傷部位の修復が始まる。ゆっくり時間をかけてでも、丁寧に魔力をコントロールするのが鉄則だ。


 それなのに、ドラゴンの牙から勝手に魔力が流れ込んでくる。魔力を止めようとしても、完全に止めきれない。その結果、剣全体に流れる魔力に干渉して、修理作業に支障が出るし、剣から魔力がこぼれ落ちていくばかり。


 これは普通にやったら無理なやつだ。鍛冶師が苦手とか、クラフターが修理得意とか、そういう問題じゃない。大量の素材を消費しないと修理不可能な、最悪のリペア作業だろう。


「……頑張れ、ミヤビ!」


 応援してくれるメルには悪いけど、素材の消費量を無視して、修理作業に専念した方がいいな。そうした方が、かえって安上がりになる。ドラゴンの素材を完璧に扱いきるのは、俺にはまだ早い。


 ドラゴンの牙から流れ出る魔力を垂れ流しにして、修理作業が邪魔されないように、ヒビの入った損傷部位だけに集中。どんどん剣から魔力がこぼれ落ちるが、気にしない。修理作業に干渉されないことだけを意識して、魔力をコントロールする。


「頑張れ! 頑張れ!」


 熱心に応援してくれるメルの声を聞きながら。


 ***


 リペア作業が一時間経過する頃、ようやく作業が終了。損傷していたとは思えないほど、メルの剣は元通りになった。


 神経がすり減って、十キロくらい痩せたんじゃないかと思うくらいの疲労感に襲われているけどな。額にも汗がグッショリだ。


「ヴァイスさん、チェックをお願いします」


 メルの剣を手渡し、俺は額の汗をぬぐった。背伸びしたメルが、頭をポンポンとしてくれるから、頑張った方だと思う。


 自分で言うのもなんだが、うまい具合に修復できたはずだ。ドラゴンの牙は、キッチリ二本消費してしまったが。


「今度うちの店に顔を出すとき、違うリペア作業も頼めるか?」


「勘弁してくださいよ。またドラゴン素材の修理依頼を押し付ける気じゃないですか。こんなにキツイと知ってたら、意地でも断って逃げてましたよ」


「だろうな。高度な素材を使用したリペア作業など、クラフターがやる仕事じゃない。ドラゴンを素材とした武器の修理依頼なんて、同業者でも諦めて、うちに持ち運んでくるくらいだぞ」


 ……嵌めやがったな、ヴァイスさん。こいつができたら面白そうだな、程度の好奇心でやらせただろう。


「金はいらないんで、貸しにしておきますね」


「ガッハッハ、言うじゃねえか。ちょっと待ってろ」


 笑いながら工房の奥へ向かったヴァイスさんは、すぐに戻ってきた。両手にドラゴンの牙を二本持って。


「騙した詫びだ、持っていけ。俺がさっきの剣を修理するのに使用する素材の量は、ドラゴンの牙を三つだ。その後、耐久値を回復させるために、もう一つ余分に使う」


 手渡されたドラゴンの牙を持って、俺は頭を抱えた。


 本当にただの好奇心だったのか、俺なら二つでできると判断されていたのかわからない。ただ、良くも悪くも目を付けられたことだけは間違いない。


「こんな完璧な修理、いったいどこのクラフターに頼めばやってくれるんだ? たった二つで耐久値まで回復させるとは、ワシより遥かにうまいぞ。ギルドのどこかでこいつを見かけたら、ワシの代わりに修復してやってくれ」


 メルの元に剣が渡ると、嬉しそうな顔で受け取っていた。


「……ありがと、ミヤビ。また壊れたら、お願いする」


 壊れる前に修理に持っていけ、と言わんばかりに、もう一度メルの頭にヴァイスさんのグリグリ攻撃が炸裂した。


 こんなにリペア作業が大変なら、ヴァイスさんがグリグリしたくなる気持ちもわかる。いや、俺なら代わりにモフモフする。


 一緒の宿にいるうちは、たまには声をかけてみようかなと思い、メルがグリグリされる光景を眺めていた。詫びでドラゴンの牙をもらったけど、実質リペア作業の押し付けじゃないか? と、疑問に思いながら。

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