第19話:木材を大量にゲット
休憩セットをインベントリに撤去した後、俺たちは素材採取を再開した。午前中に行かなかった森へ移動して、木の伐採を続けている。
コンッ、コンッ、コンッ、バキッ
当然、何回も石の斧で木を伐採していれば、耐久値がなくなって壊れてしまう。今日だけで石の斧が六個も壊れたけど、これは仕方がないことだ。木材は大量に採取しているし、川辺で大きな石も拾えたから、後で作り直すとしよう。
先に切り株も一緒に採取するため、インベントリから石のスコップを取り出す。
ザクッ、バキッ
石のスコップも耐久力は低いため、すぐに壊れてしまうが。
序盤に必要なアイテムとはいえ、石で作られた斧やスコップだと、長時間の作業には向かないな。竈を作ったときに余った鉄鉱石で作りたいけど、鉱山が掘れない以上は貴重な資源になる。できる限り鉄は温存して、最小限の使用に留めておく。
廃坑でも見つけない限り、一般市民の俺が鉄を大量に手に入れることは難しいはずだ。ゲームの勢いで採取へ向かい、国で定められた法に触れるような行為は、絶対に避けなければならない。
「止まって。そこから動かないでね」
リズが小声で注意するときは、魔物が来たときのサインなので、俺は言う通りに動きを止めた。下手に音を立てると、リズの集中を妨害して、魔物の位置が特定できなくなってしまう。
特に森の中では、動きの素早い魔物が隠れて動くため、ちょっとしたことが命取りに繋がる。クラフトスキルと投擲でしか戦えない俺にとって、素早い魔物は武器を投げても避けられることが多い。ハッキリ言って、天敵だ。
僅かに吹く風が森の葉を揺らし、魔物の足音をかき消すなか、ゆっくりと俺に近づくリズが武器を構える。
「アイスニードル」
いくつもの氷の針が作られ、勢いよく森に放たれた。木々の隙間を通り、背の大きな草むらに吸い込まれていく。
キャヒンッ
隠れていたウルフがドサッと倒れて、ようやく俺にも魔物の存在が認識できた。ウルフはEランクの魔物らしいが、護衛なしで森に来ようと思わないほど隠密で、怖い。
「どうやって敵の位置を把握してるんだ? 今のウルフは絶対に見えなかったし、倒すまで気づかなかったぞ。リズは絶対に一回の魔法で討伐するし、戦闘センスが高いよな」
ゲームの世界のように、戦闘が始まると音楽が変わったり、マップで敵の位置が確認できないので、冒険者のすごさを実感する。森に一人で採取へ来ていたら、今頃はウルフの餌になっているだろう。
午前中のうちにリズに聞いてみたところ、広範囲に展開した魔法でウルフを討伐するのが定石だと教えてくれた。仮に倒しきれなかったとしても、素早さが落ちてるから、追撃が容易になるらしい。
代わりに素材が傷んじゃうけどね、と苦笑いしていたけど。
「もう。討伐する度に褒めてくれなくていいってば。ただの経験なんだから」
「心の声が漏れてるだけだ。気にしないでくれ」
照れたリズが目線を逸らし、クルクルと髪を触り始めたところで、俺は討伐したウルフを回収に向かう。
当たり前のように何度も討伐してくれるけど、朝から何時間も一緒に森にいて、危ない場面は一度もない。近づくウルフをすべて察知して、襲われる前に撃退してくれている。
一人でも完璧に護衛してくれるリズを普通に尊敬するんだが……、そんなこと言うと、リズの顔が真っ赤になるので、声には出さないでおく。
ウルフを回収した俺はリズの元へ戻る。インベントリを確認すると、すでにウルフが三十体も入っていた。
今日だけで森を四か所も回ったし、おかげで色々な種類の木材を大量にゲットできた。それと同時に、魔物がいる世界で採取する厳しさも実感したよ。
「ありがとう、リズ。大きな建築物でも作らない限り、しばらく木材が不足することはなさそうだ」
「どういたしまして。ここまでいっぱい集めるとは、夢にも思わなかったけど。また欲しいものがあったら、気軽に教えてね。受けられる依頼がないときに付き合うから」
「わかった、またお願いするよ」
さすがにこのタイミングで、鉱山へ掘りに行きたい、とは言えないな。今日は一日付き合ってくれただけでも、本当にありがたいと思う。
護衛依頼代を払おうかと思うくらいには、リズは頑張ってくれたと思う。そんなことを言うと、昼ごはん代が返ってきそうなので、これも口にはしないでおく。