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第157話:メルの剣と対話

 リズと一緒に部屋を離れた俺は、花に水をやるメルとレミィの元へやって来た。


「メルの剣に付与魔術を施してみたいんだが、ちょっと貸してもらってもいいか?」


「……ん? 付与魔術はしてもらったことがないよ?」


 首を傾げて見つめてくるメルを見て、俺も首を傾げた。


「付与魔術をした痕跡があるのに、今まで付与魔術をしてもらった記憶がないのか? ヴァイスさんが修理してきたんなら、付与魔術をしてくれると思うんだが」


「……できないって聞いてる。でも、初めて武器を受け取ったときは、付与魔術がしてあったような感じはしてる」


 曖昧な返答だが、ヴァイスさんが付与魔術を苦手としているのは、事実だ。メルの剣を修理した後、苦手な付与魔術を行うのが億劫な気持ちもわかる。でも、職人肌のヴァイスさんができないと突っぱねるところだけは、想像できない。


 文句を言いながらでもやりそうな気がするけどなーと思っていると、リズが何かを思い出すかのように、「あっ」と声を漏らした。


「そういえば、メルの剣に付与魔術を施そうとして、ヴァイスおじさんが失敗してた気がする。全然うまくできなくてイライラしたから、工房の(かまど)を破壊して落ち込んでたはずだよ」


 付与魔法の練習をしていた時、そういう話を聞いたことがあったっけ。イライラすると八つ当たりするから、それまでに止めてくれって。


 それなら、いったい誰がメルの剣に付与魔術を施したんだ……? 俺の思い違いという可能性はないと思うんだが。


 謎が謎を呼ぶ展開に頭が混乱するなか、レミィだけはニコッと微笑んでいた。


「付与魔術がナイナイでお揃いだねー」


「……う、うん」


 不名誉なお揃いは嫌みたいだ。メルの顔が引きつっている。


 リズとメルの話を聞く限り、ヴァイスさんが付与魔術をうまくできなかったのは、事実だと思う。他にこの街で高度な付与魔術ができそうな人には心当たりがないし、誰も付与魔術を施していない、ということになる。


 それなら、特定の条件が合わさると、武器を製作した段階で付与魔術が施されたまま完成する可能性が高い。高ランク素材と優秀な鍛冶師の腕が合わさることで、本当に武器に魂が宿るような奇跡が起こるんだろう。


「……ミヤビが挑戦するなら、剣を渡す。でも、最近は機嫌が悪いから気を付けて。たぶん、暑くてバテてる」


 腰に装着していた剣をメルから受け取るが、機嫌が悪いというのはよくわからなかった。改めて持ってみても、特に違和感を覚えることはない。


「ヴァイスさんみたいに、メルも武器と対話ができるんだな」


「……長年使ってると、魔力の塊みたいなものが訴えかけてくる気がする。だから、愛着が湧いて買い換えられない」


「それなら、まずは酷く壊さないように使おうな。たぶん、武器は怒っているぞ」


 近くに椅子を取り出して座ると、なんだかんだで気になるのか、みんながジッとメルの剣を見つめていた。


 普通に緊張するから、メルとレミィは遊んでてほしいんだが……仕方ないか。うちの敷地内で遊べることなんて限られているし、行動に制限がかかると暇になるよな。早く付与魔術を施して、みんなで魔族の街へ向かわないと。


 早速、メルの剣に魔力を流して、付与魔術を試みる。


 初めて付与魔術を施すが、思った以上に面倒だな。魔力の流れを拒むように抵抗されて、制御しにくい。やっぱりこの感覚は、高ランク素材の独特な問題なんだろう。


 このまま魔力をコントロールし続ければ、苦戦しながらでも付与魔術ができないことはないと思うけど……、妙な感じだ。


 クラフターは付与魔術に適性があるはずなのに、武器の修理の方がうまくいっていた気がする。トロールキングと戦った後は、もっとうまく魔力を制御できたんだが、何か違うことでもあるのか?


 いったん魔力を流すことを中断し、魔の森での修理作業のことを思い出すと、真っ先に思い浮かぶのは……。


「レミィ、魔の森で結界を張ってくれたみたいに、踊ってもらってもいいか? あの時、妙にメルの剣の修理がうまくいったんだ」


「いいよー。いっぱい踊ってあげるね!」


 何の迷いもなく協力してくれるレミィが、再びバレリーナのように踊り始める。それと同時に、再びメルの剣と向かい合う。


 よし、これで付与魔術がやりやすく……ならないよな。もう少し考えてから頼むべきだったよ。レミィのダンスを止めにくい。


「はーい。これで結界を張り終わったよ!」


「ありがとう、レミィ。癒されたよ」


「いいよね、レミィちゃんは可愛くて」


 俺とリズが喜ぶだけのダンスタイムになり、少し申し訳なく思ってしまう。


 一方、メルは自分の武器のことが気になるのか、ジッと剣を見つめていた。


「……やっぱり機嫌が悪そう。暑い時期は言うこと聞かずに、悪い子になりやすい」


 クラフターの俺よりも、使用者のメルの方が武器と対話できているみたいで、ちょっと羨ましい。真面目に向き合ってるつもりなのに、どうしてうまくいかないんだろうか。


 ん? 物は考えようかもしれない。本当に武器に魂が宿っていて、対話できているのか、確認するチャンスにはなる。暑くて機嫌が悪い程度なら冷ませばいいだけだし、魔の森にいた時は日陰で涼しかったはず。


「リズ、氷魔法で気温を下げてもらってもいいか?」


「うーん、なかなかそういう使い方をしないけど、ミヤビの真似事ならできるかな。アイスブロック」


 ポンポンポンッと氷のブロックが生成されると、暑い日差しを遮るように氷の塀に囲まれていく。


 やっぱり魔法っていいよなー。純粋な氷でブロックを作るなんて、クラフターにはできないことだし、羨ましく感じるよ。


「せっかくだし、ここに台と屋根を作って、(かまど)っぽくしてもらってもいいか?」


「クラフターじゃないんだし、クオリティは求めないでよね。私、そういうセンスはないんだから」


 文句を言いながらも、なんだかんでリズが氷の竈と屋根を作ってくれて、体感温度がグッと下がるほどの空間が完成する。


 氷が溶けてしまっては元も子もないため、早速、リズが作ってくれた竈の中にメルの剣を入れた。


 しばらくして、武器が冷えてきたところで魔力を流し込むと、先程とは比べものにならないくらいに、魔力が邪魔されることなく流れていく。


 やってみてわかったのは、普通の武器とは違い、魔力を流す場所が決められていること。魔力の流れにムラはできるけど、偏った魔力で付与魔術をしてほしいことが伝わってくる。そう感じるほどには、武器が魔力を導いてくれているから。


 おそらく、これがクラフターの武器との対話になるんだろう。


付与魔術(エンチャント):風」


 氷の竈から取り出すと、そこには、魔力で覆われたメルの剣があった。威圧感にも似た武器が放つオーラは、今までのメルの剣とは違う。これが本来の姿だったと誰もがわかるし、今なら間違いなく断言できる。


 この剣には、魂が宿っていると。


 目を輝かせるメルに渡すと、軽く握って剣を振り始める。動きこそ小さいものの、メルも武器と対話しているんだろう。


「……久しぶりに機嫌が良い」


 メルの機嫌も良くなったと同時に、一人だけ付与魔術が施されていない状態になってしまったレミィが、俺の足にしがみついてきた。


「ミヤビ~! ボクの杖は~! ボクの杖も付与魔術してよ~」


 付与魔術ナイナイ仲間に先を越されたレミィは駄々をこね始めるが、俺が直接武器と対話して得たヒントではない。長年にわたって愛用していたメルだからこそ、武器と対話して、気持ちが理解できているんだと思う。


 ユニコーンの杖の所持者であるレミィが武器と対話して、ヒントを聞きだしてくれたら簡単だが……、さすがにそれは難しいだろう。生まれた時にはボロボロだった武器を、レミィはまだ使用したことがないんだ。


 でも、だいたいユニコーンの杖が求めている場所はわかる。聖属性魔法が使える魔族の家系に代々伝わるものならば、神聖な場所で付与されることを望むはず。まだまだ子供のレミィの結界では、ユニコーンの杖は納得しないほど、神聖な場所を。


 そんな場所なんて普通は知らないと思うが、たった一ヶ所だけ、思い当たる場所は存在する。建物全体に聖属性を付与して、強い魔物を寄せ付けない聖域とも言える建造物。


 高原都市ノルベールの教会、あの場所ならユニコーンの杖も好むに違いない。

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