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第14話:鍛冶屋のヴァイス

 雨が降り続ける中、久しぶりの買い物でテンションが高まった俺は、街を走り続けた。


 鍋、小麦粉、塩といった料理アイテムから、綿、布、ボタンといった日用雑貨まで、多少変な目で見られながらも、大量購入。物流が日本と違うせいか、予想以上に出費してしまったが……、仕方ない。


 塩が一キロで五万円しようとも、胡椒が一キロで十万円しようとも、俺は買った! ジンギスカンのためにッ! 今後の冒険者生活をより快適に過ごすためにッ!!


 その結果、冒険者の初依頼で百万円も稼いだ俺は……もう半分近く使っちゃった。計画性がないと怒られそうだから、昨日までお金を貸してくれてたリズには、内緒にしておこうと思う。


 街中を行ったり来たりしていたため、遅めの昼ごはんをパン屋さんで食べた後、俺は大きな鍛冶屋さんに足を運んだ。


 まともに武器は扱えないけど、クラフターとして、本物の鍛冶職人の作った武器を見ておきたい。この世界の鍛冶スキルを確認しておいて、損はないだろう。


 鍛冶屋さんの中に入ってみると、様々な武器や甲冑が飾られていて、奥の工房からは鉄を叩く音が、カンッカンッカンッと聞こえてくる。値段もピンからキリまであって、大量の武器を見ていると……、それだけで圧倒されてしまう。


 街で一番大きな鍛冶屋を探して来てみたけど、さすがに本職は武器の質が違うな。パッと見ただけではわからないけど、手に取ると武器の情報がなんとなく伝わってくる。


 耐久力が高い、切れ味が鋭い、魔物の素材が使用されている……といった大雑把な内容で、正確な数値まではわからない。元々武器の知識はないし、素人の俺が判断できるはずもないから、クラフトスキルの影響なんだろう。


 ずっと眺めていられるほど、綺麗な刀身をしているよ。クラフトスキルで作った石の斧とは全然違うし、武器だけで言えば、鍛冶スキルは完全に上位職に分類されるに違いない。


「お前、生産職の人間か?」


 不意に声をかけられて振り向くと、そこには一人のドワーフがいた。


 鍛冶作業を続けた証のようなたくましい腕の筋肉に、長いヒゲを生やした年配のドワーフ。俺よりも背が低いけど、堂々と佇む姿は職人のオーラがあり、ムスッとした表情を浮かべている。


「確かに俺はクラフターですけど、どうしてわかったんですか?」


「周りをよく見てみろ。手に取った武器をじっくりと眺めるだけの人間なんて、他にいねえだろう。武器マニアか生産職くらいしか、そんな真似はしねえ」


 言われてみれば、店内にいる冒険者らしき人物たちは、軽く剣を振っている。グリップの感触を確かめたり、重さを確認したりして、武器を使う前提で商品を見ていた。


「ああー……申し訳ないです。冷やかしのつもりはなかったんですけど、ちょっと見入ってしまいまして」


「フッ、馬鹿を言うな。つい手に取って見たくなる気持ちはわかる。ワシも昔は、他の鍛冶屋の武器を眺めて、自分の目を肥やしたもんだ」


 てっきり怒られるのかと思っていたけど、そうではないみたいだ。どうやらムスッとした顔は生まれつきらしい。


「そう言っていただけるとありがたいです。投擲用のナイフは買うつもりなんですが、ついでに鉄鉱石を販売してもらうことはできますか?」


 俺が鍛冶屋に足を運んだのは、武器のためだけじゃない。クラフターなら誰もが一度は使ったことのある道具、『(かまど)』を作りたいんだ。(かまど)は火を使う作業台のようなもので、大金を出費したとしても、できるだけ早く用意しておきたいアイテムになる。


「ほう。お前、名前はなんて言うんだ?」


「ミヤビです。今は冒険者でサポーターをしながら、クラフターをやってます」


「俺はこの鍛冶屋の三代目、ヴァイスだ。今時、クラフターが武器を作ろうと挑戦するとは……気に入った! 今までに作った武器があれば見せてみろ」


 このタイミングで、ジンギスカンのために(かまど)を作りたいんです、とはさすがに言えないな。そして、鉄鉱石の販売をお願いした以上、武器を見せないわけにもいかない雰囲気だ。


 今はまだ素材採取の途中だし、街道で拾った木と石で作った原始的な武器しか持っていない。鍛冶職人に見せられるものではないけど、ヴァイスさん、なんかワクワクしてるんだよなー。


「ヴァイスさんに見せられる程の武器ではないんですけど……」


 ハードルを下げた俺は、木を切っていた石の斧を取り出し、ヴァイスさんに手渡した。


 受け取ったヴァイスさんは、真剣な表情で石の斧を眺める。重さ、感触、見た目など、丁寧に見てくれるが、気が重い。店に置いてある武器と比べると、雲泥の差があるのは一目瞭然だ。


「クラフターが武器を作る……か。面白い、余剰分の鉄鉱石を売ってやろう」


 よかった、何とか合格点をもらえたみたいだ。石の斧で評価してもらえるとは思わなかったけど、鍛冶師として、何か感じ取ってくれたんだろう。


 ニカッと笑うヴァイスさんを見て、俺は心の底から安心するのだった。

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