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第148話:順応しまくるリズ

 ベルガスさんの屋敷内に案内され、玄関に足を踏み入れると、一人の男性が歩いてきた。


 黒い紳士服を着用した魔族で、頭にトナカイのような細長い角を生やし、白髪を後ろで結んでいる男性。穏やかな表情に小さな丸メガネをしていて、魔族の中でも年配なのか、おじいちゃんっぽい印象がある。


「ベルガス様、本日の成果はいかがでしょうか」


「大物なら、トロールキングを二体だ。その時に助太刀してもらった客人を招くことになった。ジジール、この肉を焼いてくれ」


 ジジールと呼ばれた執事の男性は、ベルガスさんが肉を手渡すと、それを見て頬を緩めた。もてなしたい度合いによって、肉の質を変えているのかもしれない。


「左様ですか。この地に人族が足を踏み入れたのは、約二百年ぶりでしょうね。肉以外のものを用意しようと思うと、少々お時間をいただきますが……」


「肉だけで構わん。食料は持参したものがあるそうだ」


「はて? お嬢さんをおぶさっているようにしか見えませんが……おおっと、客人を前に長話をしてしまうとは。ハッハッハ、年を取りたくはありませんな。私はベルガス様の屋敷で執事をしている、ジジールと申します」


 丁寧なお辞儀を見せてくれるジジールさんは、人族の国でも働けそうな印象を抱くほど、執事っぽい動きをしている。魔族であったとしても、執事の仕事は人族と同じみたいだ。


 おんぶしていることもあって、俺とリズは頭を少しヘコッと返すことしかできないけど。


「俺はミヤビです。生産職の人間なので、食料はインベントリに入れて持ち運んでいます」


「私はリズです。普段はもう少ししっかりしていますけど、今日はちょっと魔力不足になっちゃいました」


「おや、そういうことでしたか。生産職の方が女性を運ぶとなると、いくら軽くても負担がかかるでしょう。すぐに応接室へと案内しますので、一度玄関で下ろされてはいかがかな? 屋敷内ならば、ゆっくりでも歩行できると思いますよ」


 なかなかできる執事さんだな。俺が生産職とわかった途端、助け船を出してくれた。優しい笑みを投げ掛けてくれるジジールさんを見れば、明らかに俺に気を使ってくれたとわかる。


「助かります。メル、さすがにリズを下ろすのは手伝ってくれ」


「……発展しないね」


「シーッ!」


 メルに手伝ってもらいながらリズを下ろすと、久しぶりに重荷から解放された。腰が軽くなった反面、全身の力が抜け落ちてしまい、座り込みたい気分だが……それはさすがに情けない。


 魔力枯渇状態に陥ったリズは、予想以上に体に負担がかかっているらしく、普通に立っているだけでも足がプルプルと震えている。当然、俺の手もプルプルと震えているが。


「リズ、一人で歩けるか?」


「うーん、ちょっと怖いかな。肩を貸してもらってもいい?」


 メルと一緒に肩を貸して、ジジールさんに案内されて応接室にたどり着くと、思った以上に古めかしい部屋だった。


 貴族っぽいソファーとカーテンはあるものの、色合いが暗く、地味な印象を抱く。この建物が古い洋館みたいな雰囲気なのも、魔族と人族の価値観が違う影響だろう。食事ができるような机が置かれているけど、敷かれているテーブルクロスの色はグレーだ。


 先に部屋に入っていたレミィが椅子を引いてくれたため、そこにリズを下ろして座らせる。


「お疲れ様。ありがとね、ミヤビ」


「気にするなよ。それより、魔法使いも大変だな。魔力が枯渇すると、ここまで動けなくなるなんて」


「ううん、今まで歩けなくなるほどの反動は出なかったよ。魔法学園の実習でも、魔力枯渇状態にして行う訓練法があったけど、ここまで長期化することはなかったもん。たぶん、魔力濃度が高い地域に体が合ってないだけだと思うんだよね」


 確かに、リズが初めて魔法チャージを使ったときは、疲労感に襲われている程度だった。今回使用した魔法の魔力消費量が大きかったとしても、反動が強すぎると言える。


「魔力濃度が高いからといって、魔力の回復速度が速くはならないんだな。逆に毒みたいな作用が起こり、体に支障をきたしているのかもしれない」


「うまくは言えないけど、大体そんな感じだと思う。街に入ってから少しずつ回復してる感じがするし、一時的なものになるのかなー」


 魔力が回復してきているのであれば、次第に良くなっていくだろう。魔の森で一晩過ごしていたら、かえって悪化したのかもしれないな。


 俺の考えを裏付けるように、ベルガスさんが感心したような表情をして、向かいの椅子に腰を下ろした。


「意外だな。人族はもっと魔力に鈍感だと思っていた」


 やっぱり知っていたんだな。あの地で休憩を続けても、リズの魔力が回復しないことを。おそらく、魔力濃度が高い魔の森に滞在を続けるのは危ないと判断して、魔族の街に招待してくれたんだと思う。


「我らも気軽に魔の森と呼んでいるが、元々『魔晶石の森』と呼ばれていてな、魔力濃度が特別に高い。魔帝国は魔の森に囲まれるように作られているため、人族の里よりは魔力濃度が高いが、この辺りは落ち着いている。回復してきたのは、その影響だ」


「うーん、私はそこまで魔力に敏感じゃないかな。魔力が枯渇状態じゃなければ、気づいてなかったと思うの。魔力濃度の高い魔の森は不気味だし、見慣れない魔族がいる土地も同じような印象を抱いちゃうから」


「俺も人族の里に行ったときは、同じことを思う。こうして人族と普通に会話するだけでも、まだ違和感が残るほどだ」


「こういうのは慣れだからさ、ベルガス()()も深くは気にしない方がいいよ」


 あははは、と愛想笑いをするリズだが、順応しすぎていないか? 相手は魔帝国の四天王だぞ!? 冒険者ギルドの受付嬢であるエレノアさんには敬語なのに、隣国の四天王に対してタメ口って、けっこう勇気がいる行為だからな!


 たぶん、トロールキングとの戦いで緊張が吹き飛んだ影響だと思うけど。あと、地下鉄を受け入れることに比べたら、割と魔族が許容範囲だったっていうね。


 仲良くなる分にはいいか、と感覚マヒしてきた俺も椅子に座る頃、執事のジジールさんが水を出してくれた。


「人族の好みがわかりかねるのですが、肉の焼き加減はいかがいたしましょうか」


 そういう配慮はありがたいと思い、答えようとした瞬間、メルがビシッと手を挙げる。


「……焼肉のタレ!」


 それは焼き加減じゃない。味付けの問題だ。


「おや、積極的にメル様が発言されるとは、珍しい。いつも黙々と食べられる姿が印象的で、レミィ様とぬいぐるみ遊びをされていましたが……焼き肉のタレ、というのは何でしょうか」


「……正義ッ!」


 やめなさい、メル。それだと伝わらないし、執事さんも困っているだろう。あと、名前と行動が覚えられるくらいには、気軽に遊びに来ていたんだな。


「すいません。俺が作ったものなので、一緒に調理場まで行って手伝いますよ。魔族の屋敷や調理にも興味がありますし、ついでに少し見学したいなーと」


「ベルガス様の客人にお手伝いいただくのは恐縮ですが、お言葉に甘えましょうか。獣人をトリコにする正義の味に、私も興味がございます」


 こっちは錬金術師の製作物に興味がありますよ、と椅子から立ち上がると、リズが引き止めるように腕をつかんできた。さっきまでの余裕のある雰囲気とは違い、真剣な表情をしている。


 ベルガスさんと普通に会話していたけど、まだ魔族に順応できていなかったのかもしれない。こういうときに寂しがり属性が発動されても――。


「猫のぬいぐるみ貸して。今のうちにレミィちゃんと仲良くなろうと思うの」


 順応プリンセスかよ。人類の癒しだから、それは仕方ないと思うけどさ。

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