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第139話:作戦会議

 本拠点に戻ってきた俺は、ぬいぐるみ遊びをしていたリズとメルを誘い、地下にやって来た。


 机、椅子、ランタンがあるだけの殺風景な小さな部屋でやること。それは――。


「これより作戦会議を始める」


 冒険者たちの憧れ、作戦会議である。依頼の話をするわけだし、今日使わなければ二度と使わないと思うほど、ベストな選択だろう。


 これには、眠そうだったリズの顔つきも変わる。


「じゃあ、まずは私からね。風呂場のジェットバスの領域をもう少し増やしてほしいの」


「……同意」


 二人に期待する眼差しを向けられ、俺は思った。これ、家族会議じゃね? と。


 同じ土地に住んでいても、こういう時じゃないと言えない、そういう控え目な気持ちもわかるよ。普通に生活していたら、なかなか言いにくいもんな。


 でも、それを言うのは今じゃない。こっちは真剣に作戦会議をしているんだぞ。


 まあ……希望があれば聞くけど、と思っていると、メルがビシッと手を挙げた。


「……あと、噴水がほしい」


「わかるなー。やっぱりこれだけ敷地が広いと、噴水が欲しくなっちゃうよね」


「……花壇との相性もいい。優先度が高いと思う」


「わかった。両方とも考えておくよ」


 よしっ! とガッツポーズされても困るよ。今回は作戦会議ごっこをして遊びたかったわけじゃないし、俺に要望を出す会議でもない。


 こうなったら、本当の作戦会議っていうのを二人に教えてやろうか!


「今日ヴァイスさんに会ったんだけど、魔晶石がほしいって言われたんだよ。聞いてたら俺も欲しくなってさ、冒険者ギルドに依頼がないか見に行ったら、魔の森の調査依頼があったんだ。これをパーティで受けたいんだけど、どう思う?」


「急に作戦会議っぽくなってきたね!」


「……同意!」


 ワイワイと楽しそうにするものでもないと思うぞ。でも、面倒な話が嫌いなメルも食い気味だし、このまま続けた方が良さそうだ。


 俺の魔晶石のために! いや、ヴァイスさんの魔晶石のために!


「依頼内容は、フォルティア王国の領土内に魔族が侵入していないか確認すること。魔族と遭遇した場合、絶対に戦闘を回避しなければならない、だそうだ」


「うちのパーティは地下に離脱ができるし、戦闘回避は簡単だよね。メルも一緒に行くなら、魔物や魔族の気配を二人で感知できるし、危険度は低くなるかな」


「それは俺も同意見になる。でも、魔族っていう存在がわからなくて、依頼は保留にしてきたよ」


「私も魔族は話に聞いた程度の情報しかないし、どんな能力を持っているのか、ってところだよね」


 勉強熱心なリズでも魔族の情報に詳しくないとは。『種族による魔法適性の違い』みたいな難しい本はすでに読んでいると思うし、本当に人族と関わりが薄い存在なのかもしれない。


「俺の考えだけど、魔族が相当強いなら、フォルティア王国と不干渉条約なんて結ばないと思うんだ。それを考えると、こっちはBランク冒険者が二人もいる。隠密行動を中心にすれば、問題ないと思わないか?」


 話の流れがこっちに来ている……と思っていたが、リズもメルも渋い顔をした。


「依頼の達成条件が不明確な印象を受けるかな。滞在しても魔族がいなかった場合、それを証明することができないもん。国境付近まで近づいて確認する必要があるなら、逆に私たちが魔族を刺激するかもしれないよ」


「……こういった依頼が出るなら、目撃者がいるはず。でも、騒ぎになってないことを考えると、目撃者が無事に生還している。その時点で、魔族に戦闘の意思は見られない。領土の侵入はあったとしても、害はないと判断すべきだと思う」


 さっきまでの家族会議の雰囲気はどこへいったのか、的確なところをついてくる二人は、真顔だった。


 最年少で一番やる気のないはずのメルが大人っぽい意見を出す時点で、魔晶石が欲しくて作戦会議を開いた俺がバカっぽく見えるよ。依頼を受ける前提で考えていたから、言い返す言葉が見つからない。


 エレノアさんも難しい顔をしていたし、やっぱり依頼の受注は厳しいか。そう思って肩を落としていると、うーん、とリズが何かを考え始めた。


「でも、魔族が不干渉条約を破って領土内に侵入したのなら、国家規模の大問題になるんだよね。この街に騎士団が派遣されてもおかしくないほど、本格的にヤバイやつ」


 そういえば冒険者ギルドで、国の外交ルートで交渉したいけど、魔族は話を聞こうとしない、と言われたっけ。フォルティア王国の判断次第だろうけど、話が通じないなら武力で追い出す形を取るのが、一般的なのかもしれない。


 魔族の侵入は、国に侵攻してくるための偵察、そう認識すべきなんだろう。


「冒険者ギルドが依頼を出しているのも、騎士団と魔族の衝突を避けたいからか。戦争に発展すれば、冒険者も駆り出されそうだもんな」


「戦争を回避したいという意味では、本当の依頼人が領主様の可能性もあるね。何か問題になったとき、フォルティア王国は関与していないと言い逃れるために、冒険者ギルドに依頼を発注してもらっているのかもしれないよ」


 確かに、世界規模で経営している冒険者ギルドの指示にして、各地を渡り歩く冒険者が調査したということにすれば、魔帝国側も深く突っ込めないだろう。フォルティア王国と冒険者ギルドを同時に敵対するのは、さすがに避けたいはずだ。


 以前、魔物の災害が起きた場合の対処法をエレノアさんとトレンツさんで話し合っていたし、魔族の対処法も話し合われている可能性が高い。この依頼を受けるだけで、国際問題に頭を突っ込むことになりそうだな。


 想像以上にヤバイ依頼だと発覚してきたため、魔晶石を断念しようかと思っていると、メルが律儀にビシッと手を挙げていた。


「どうぞ、メル」


「……魔族は聡明な種族で、今まで不干渉条約を破ったことはない。フォルティア王国の領土内に侵入せざるを得ない何かが起こったと考えるべき。調査は必要不可欠になる。あと、魔晶石は国境を越えなくても、採取できる場所がある」


 ここに来て恐ろしい爆弾情報をぶっこんできたメルに、聞きたいことがある。さっきから思っていたけど、コメントが鋭すぎるんだ。


「もしかして、魔の森に行ったことがあるのか?」


「……十五回くらい?」


 めっちゃ行ってんじゃん。どこで魔晶石が採れるかわかってるくらいだもんな。地理も知り尽くすくらいに冒険している証拠だよ。


 しかも、冒険者ギルドでエレノアさんが何も言わなかったから、コッソリと内緒で行ってるのは確実! 魔の森に遊びに行ってるとか知られたら、冒険者をクビになってもおかしくない案件だぞ!


 今回に限っては、良い情報だけど!


「魔族とトラブルになったことは?」


「……ない」


「このピンククジラをあげたら、めっちゃ頑張ってくれる?」


「……めっちゃ頑張る!」


 こうして、俺たちの作戦会議は呆気なく終了した。ピンククジラに頬ずりするメルの笑顔と共に。

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