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第136話:ごちそうさまです!

 バーベキューを終えて、カレンに別れを告げた後、俺たちは仮拠点を走らせ、アンジェルムの街へ戻っていく。


 日帰り旅行でプール遊びを満喫して、バーベキューで満腹状態。椅子に座ってホッとひと息を付くと……、早くもリズは眠そうな顔をしていた。


 魔法学園で勉強に専念した影響で、思っている以上に体力が落ちたらしい。半年前だったら、本拠点で風呂に入った後、本を読もうとするくらいは元気だったのにな。


 エレノアさんがいる以上、帰り道も騒がしくなると思っていたけど……寝たわ。こういうところは子供っぽくて、放っておけなくなる。


 コーンポタージュをズズズッと飲んでいたメルも気になるのか、リズの顔を覗き込んだ後、俺に顔を合わせてきた。


「……部屋に運ぶ?」


「すぐに王都で乗り換えだし、このままでもいいだろう。一応、軽く毛布だけはかけておくよ」


 インベントリから毛布を取り出し、リズの肩にそっとかけてあげる。


 随分とお疲れモードで、これは起きそうにないな。口が開いているし、机にヨダレが垂れないように、ハンカチを入れておこう。


 リズの寝顔が見たくなったのか、エレノアさんも覗きに来るけど、やっぱりリズは起きそうにない。


「冒険者活動を再開するにしても、しばらくは依頼の難易度を下げるか、時間をかけて取り組む必要がありそうですね。ペース配分せずに、全力で遊びすぎですよ」


 エレノアさんが頬をツンツンすると、リズは嬉しそうなニヤけ顔を作ってしまう。


 姉と妹と言う関係より、母と娘みたいな関係だな。今回の卒業祝いも家族旅行みたいな雰囲気だったし、エレノアさんが近くいると、自然に気持ちが緩んでしまうんだろう。


「冒険者を半年も休んでいた影響は、大きくなりそうですね。金も稼がないと賃貸料が払えませんから、しばらく旅行はお預けにしましょう」


「旅行もなにも、貴族より優雅に遊ぼうとする冒険者は、ミヤビくんだけですよ。金銭面から見ても、クラフト依頼だけでかなりの額は稼いでいると思いますが」


「賃貸料はリズが半分支払うことになってますからね。俺が個人的に稼いだ金で全額払うと、真面目なリズは後ろめたい気持ちになると思うんですよ。冒険者活動するためのパーティ拠点ですし、冒険者で稼がないと意味がありません」


 リズがいない間は、猫ハウスを建てたこともあって、メルが半分払ってくれている。俺の都合で拠点内で過ごしてもらってるし、何度も断ったんだが……、甘える形になってしまったよ。


「そういうところは気遣い上手ですよね。冒険者の方が自由に動けると思いますし、ミヤビくんには今のままの生活が合ってると思います。ついでに、そこの猫さんももう少し面倒を見てあげてください」


 拠点の賃貸料も払ってくれているし、すでにメルはパーティメンバーみたいな存在になっている。拠点内に住むという既成事実を作り、パーティに引き入れようとした人間が、俺だけど。


「私も何度か声をかけさせていただいていますが、メルちゃんは貴族の依頼しか受けようとしません。もう少し普通の依頼も受けていただかないと、他の冒険者に恨まれてしまいます。貴族に人気の高い冒険者ですし、仕方ないとは思いますが」


 えへっと照れるメルだが、俺も思い当たる節がある。大人っぽい考えや冒険者らしい行動を取ることもあるけど、やっぱりメルは子供なんだ。愛らしいルックスで助けられている面が多いと思う。


「もうパーティを組んでいるようなものですし、このまま依頼に連れていきます。たぶん、業務的な会話が面倒で、普通の依頼を受けたくないだけなんですよ。俺と一緒にいる半年間でも、話が長い貴族依頼は断っていましたから」


 今までの付き合いや生活がある以上、メルと半年間一緒に過ごした間でも、何度か貴族依頼を受けている。依頼を受ける条件は、簡潔に要点がまとまっていて、自分が気に入った内容で、依頼処理をやってくれる、というものだ。


 説明書を読まずにゲームをするタイプ、みたいなものだろう。


 ちなみに、ギオルギ元会長の不正を暴く依頼を発注したのは、シフォンさんになる。「生産ギルドの会長が怪しいから、金の流れを調べてほしい」とだけ言われて、依頼を受けたとメルが言っていた。国が納得するほどの結果を出せるなら、すごい冒険者ではあるけど、けっこうクセが強いよな。


 エレノアさんが心配して、大きなため息を吐きたくなる気持ちもわかるよ。


「ソロ冒険者としては致命的ですので、このまま放っておけば、何か問題を起こしそうで心配になります」


「半年間も一緒にいれば、メル対策も完璧にしていますので、安心してください。難しい話を聞かせたいときは、ぬいぐるみで釣ると効果的です」


「それはそれで、どうかと思いますが」


 ぬいぐるみという言葉にメルの目がキラーンッと光った瞬間、外から赤い光が室内に入ってきた。仮拠点が少しずつ減速していくし、これは王都に到着するための合図になる。


 といっても、仮拠点を止めて乗り換えをするだけだし、急ぐ必要はない。あと三分の猶予がある。


 すっかり夢の世界へ旅立ち、ヨダレを垂らすほど熟睡しているリズの肩を揺らして、下りる準備を始めるとしよう。


「リズ。あと三分で王都に着くから、いったん起きてくれ」


 眠そうに目をギュッとつむるリズは、眩しい光に対抗できていないように、ほとんど目が開いていない。


 俺の経験上、このパターンは非常によろしくなかった。ほぼ百パーセントの確率で、俺をお父さんと呼ぶときのパターンだ!


「えぇ~……眠いよぉ。お父さん、運んでってぇ……」


 ほらっ! 数時間前まで恋人ムーブをかまして来ていたのに、すぐお父さんムーブに変更してくる。どっちも人前でやるもんじゃないんだから、シャキッとしてくれよ。


「ほら、幼少期に戻るな。寝起きで父親と間違える癖、いい加減に直してくれよ」


「だって、お父さんじゃん……。抱っこぉ~、おんぶぅ~、どっちでもいいから……」


「そんなことは普段言わないのに、目撃者がいるときだけ過剰に甘えてこないでくれ。余計に恥ずかしいだろ。いや、ちょ、おま……」


 目が開いてないリズが体を預けるように倒れ込んできたため、急遽、おんぶで対応する。


 絶対に本人には言えないけど、俺の防具には『疲労軽減』と『体力増強』の効果しかないため、運動不足の身としては、さすがに重い。普段はクラフトスキルの恩恵で力仕事はしていないし、非力の俺が対応できる状態ではなかった。


「ちょっと悪いんだが、メル。リズを運ぶの手伝ってくれ。仮拠点を移動させて、アンジェルムの街方面に路線を変えなきゃいけないんだ」


「……ごちそうさまです!」


「いや、そういう展開じゃない! 普通に困ってるぞ、俺。エレノアさんからも何か言ってやってくださいよ」


「メルちゃん。邪魔をしてはいけませんよ。リズちゃんが起きないように毛布だけかけて、後はシーッです」


「……シーッ」


 なんでそこだけ協力体制ができてるんだよ。しかも、リズ! 顔が見えないけど、寝息が聞こえてるんですけど!


 二人が手伝ってくれないため、仕方なく、リズをおんぶしたまま、乗り換え作業を行うことにした。やっぱり俺はお父さんなのか? と、疑問に思いながら。

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