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第134話:バーベキューには、焼き肉のタレ

 月明かりが街を照らし始める頃、街を見学をしていたリズたちと合流した後、俺たちは大きな広場にやって来た。


 土ブロックを敷き詰めた場所に魔力で草を生やし、ところどころ街灯で照らすこの場所は、草原のような雰囲気になっている。


 暑い時期にプール遊びをしたら、夜はバーベキューをやってみたいという俺の願望が詰まった、野外用の食事施設だ。将来的には、キャンプファイヤーをしたり、夏祭りっぽく出店を開いたり、花火を打ちあげたりできたら、最高のリゾート地になると思う。


 今は貸し切り状態のため、テーブルや椅子を取り出して、みんなが休める休憩スペースを作った後、俺は肉を焼く準備を整える。


 空気の通り道を考えながら石ブロックを設置して土台を作ると、木炭を合成して炭ブロックを作成。それに火魔法を付与して、上に鉄で作った金網と鉄板を準備すれば、バーベキューセットの完成だ。


 これを見ただけでキャンプっぽい雰囲気が倍増して、ワクワクしてしまうよ。素人だとバレそうな火起こしもやる必要がないし、後は肉を焼くだけ。クラフトスキルがあると、バーベキューの準備もあっという間にできて……、本当にありがたいスキルだな。


 バーベキューセットの前にテーブルを置き、肉と野菜を取り出すと、さりげなくエレノアさんが手伝ってくれていた。皿を分けたり、椅子の位置を変えたりしている。


 元冒険者なだけあって、バーベキューはお手のものみたいだ。恥ずかしがり屋のカレンなんて、俺の後ろでずっとモジモジしてるのにな。


 一方、お腹が空いているであろうお子様組のメルとリズが近寄ってくると、二人は不思議そうな顔をしていた。


「ミヤビ? 今日はクラフトスキルで調理しないの?」


 ウンウンとメルが頷くが、二人がそう思うのも無理はない。瞬時にクラフトスキルで作成できる俺が、わざわざ肉を焼く必要はない。でも、バーベキューセットを作ってまで肉を焼くのには、大きな意味がある。


 ジュージューと肉を焼き、香りを楽しむことで、よりおいしく食べられるのだ。解放感のある外で調理するのもいいし、炭を使うと一段とうまくなる。


 日本でやったことがないし、俺の青春の思い出に刻むためにも、是非付き合ってほしい。


「こういう雰囲気を楽しむのも、たまにはいいだろう。魔物対策もしてあるから、ガンガン焼いていくぞ」


 元々、ノルベール山には凶悪生物がいるし、肉を焼いたら魔物をおびき寄せる気がするかもしれないが、この地は教会の結界で守られている。冒険者が絶句しそうなくらいにモクモクしたとしても、この場所では誰も気にしない。


 ここに住む人間は、聖なる教会の力で守られている、そういう認識を持ち始めているんだ。神様の力ではなくて、ただの付与魔術なんだけどな。


 まあ、俺が気にしていることがあるとすれば、放っておくと肉ばかり食べるメルだ。永遠に肉ばかり食べる傾向があるため、バーベキューを行う際には、先に野菜炒めを食べさせておくべきである。


「メル、先にこれを食べなさい」


 早く肉が食べたくてウズウズしていたメルだが、野菜炒めを渡され、猫耳と尻尾がシューンと下を向いてしまう。


「……肉がほしい」


「ワガママを言わない約束だ。ほら、いつもの焼肉のタレをかけてあげるから」


 魔法の液体とも言える秘密アイテム、焼肉のタレを使うと、率先して野菜を食べないメルでも、あ~ら不思議。肉がなくて不満そうな顔をするものの、野菜炒めを食べているではありませんか。


 さすがみんな大好きな焼肉のタレだよ。


 醤油ベースの甘辛タレに、すりおろして何時間も炒めた玉ねぎの甘みが合わさり、肉との相性が抜群! クラフトアイテムで作れると気づいたときには、メルとステーキを食べて盛り上がったくらい最高な味付けなんだ。


 みんなの興味が焼き肉のタレに移ったところで、早速、バーベキューを開始するため、肉を中心に焼いていく。


 今回用意したのは、事前に街で購入しておいたミノタウロスの肉と、以前に討伐したブラックオークとスノーバードの肉になる。大きめに切った野菜も一緒に焼いて、焼き野菜も楽しめるようにしよう。


 金網のあちこちでジューッと焼ける音が鳴り響き、ふわぁーっと肉の香りが拡散されていく。肉を焼肉のタレに漬け込んでおいたため、炭ブロックにタレが落ちて、芳ばしくて甘い香りもしてきた。口内で唾液が分泌されてしまい、早く食べたくなってくる。


 自然と肉の周りに人が集まり、肉をひっくり返して焼き目を見せれば……、我慢できないメルが、急いで野菜炒めをかきこむのも、納得がいくこと。


 さあ、野菜を頑張って食べた褒美に肉をあげよう。焼きたてで熱いから、よくフーフーして食べるんだぞ。


 メルの猫耳と尻尾がピーンッと上向きになる姿を見て、リズたちの小皿に焼肉のタレを入れてあげる。


 あとは、リズとエレノアさんで好きなものをつついてほしい。恥ずかしがり屋で肉が取れないカレンと、子供のメルの世話で俺は忙しくなりそうなんだ。


 好きなものをどうぞ、と二人に手でサインを送ると、リズがミノタウロスの肉を、エレノアさんがブラックオーク肉を箸でつまみ、焼肉のタレにつけてパクッと食べた。


「ん~! 見た目以上に自然な甘みがタレから溢れだしてて、おいしい……。肉の旨みを引き立てるように、優しい味わいがするね」


「焼き肉のタレというだけあって、オーク肉にもマッチしています。タレと脂身の甘さが合わさっても、不思議とクドくありません。味わい深い上品な肉ですし、野菜が欲しくなりますね」


 肝心なものを忘れていた、と思いつつ、サニーレタスを取り出す。当然、食べ方は言わなくてもわかるだろう。


 濃い味付けの肉をサニーレタスで包み、そのままパクリッ、だ。炭で焼いている効果も合わさり、絶妙なバランスでおいしく食べられること、間違いなし。王道中の王道な食べ方で……あっ、ごめんな、カレン。肉、焼けてるわ。


 寂しそうに見つめていたカレンに肉を渡してあげると、焼肉のタレ……に付けずに、一人だけおろしポン酢で食べ始める。


「おろしポン酢しか勝たんのです!」


 絶対おろしポン酢派のカレンは、焼肉のタレを受け入れない。この前会ったときに焼肉のタレは渡しておいたけど、口に合わなかったみたいだ。仮拠点でしゃぶしゃぶしたときも、おろしポン酢ばかりで食べていたから。


 まあ、楽しいバーベキューを過ごしてくれたら、それでいいよ。俺が今やるべきことは、メルに新しい肉を追加することだ。


「……同じ味付けなのに、オーク肉もおいしく感じる」


「焼き肉のタレは、正義だからな」


「……納得した」


 メルを中心にして、肉の消費量が激しいバーベキューが進んでいく。四人もいたら、俺が食べるタイミングはないな、と思いながら。

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