第12話:依頼報告
昼ごはんのパンを食べた後、俺とリズは依頼報告をするため、街に向かって出発した。
帰り道の途中、森に近寄っては大きな木々を伐採し、手頃な石を見つけてはインベントリに入れる。地面が盛り上がっていて、掘っても迷惑のかからない場所では、砂や土をホリホリしながら進んでいると、さすがにリズに呆れられてしまった。
採取速度がおかしいよ。開拓者じゃん……と。
俺だって、依頼へ向かう途中はホリホリ欲求を我慢してたんだ。魔物が見つからなくて日が暮れたら大変だし、素材採取に行ってたわけじゃない。
でも、帰り道くらいはドン引きせずに付き合ってくれよ。顔が引きつってるの、隠せていないぞ。
リズの足を止めない程度に採取を留めて歩いていくと、夕暮れ時に街へ到着。冒険者ギルドにたどり着くと、依頼から戻ってくる人が増え始めたところで、まだ混雑はしていなかった。
順番待ちをしなくてもいいのは楽だなーと思いながら、エレノアさんの受付カウンターに近づいて、リズと一緒に冒険者カードを提出する。
「エレノアさん、ただいま。予定より早く終わったので、討伐依頼の報告をお願いします」
「おかえりなさ……あれ? 確か今日は、グラウンドシープの討伐依頼を受けてましたよね。もう終わったんですか?」
「あぁー……、はい。ぐ、偶然にも三体とも別行動をしていて、孤立状態だったんです」
明らかにエレノアさんが驚いているためか、リズの返答は歯切れが悪い。
さすがに、落とし穴に落として一気に討伐しました、と言うのは恥ずかしいんだろう。作った本人が言うのもなんだけど、驚いたエレノアさんの顔を見ると、気持ちがわからないでもない。
このタイミングで落とし穴って言うの、俺にも無理だ。自分が惨めに思えてくる。
「運も実力のうちと言いますし、無事で何よりです。討伐証明部位の角と、買い取り素材の提出をお願いします」
「それが、実はまだ解体していなくて……」
苦笑いを浮かべるリズの代わりに、俺は受付カウンターに手をかざす。
「あっ、出しますね。爪と角が三体分に、肉が二体分になります」
どーーーんっ! と受付カウンターに乗せると、視界が肉の山で埋め尽くされる。エレノアさんの「へっ?」と言う情けない声と同時に、隣にいるリズが「あれ、解体してたっけ……」と呟き始めた。
インベントリの機能【素材分解】で魔物を解体しただけ。解体作業なんてやりたくないし、めちゃくちゃ便利な機能だったよ。
ちなみに、一体分の肉は提出しない。インベントリは時間経過がないため、俺たちが食べる分に取っておく。明らかにリズが食べたそうだったからな。
帰り道の途中に「大事な話があるんだよね」と、インベントリに肉を保存することを勧めてきたんだ。俺も食べてみたかったし、非常食という意味も込めて、インベントリに残すことにした。
「………」
無反応になってしまったため、肉の山からひょこっと顔を出してみると、エレノアさんが固まっていた。綺麗な人は呆気に取られていても絵になる、とわかった瞬間である。
「あの、別の場所にお持ちした方がいいですか?」
「へっ? あっ、いえ、こちらで大丈夫です。他のギルド職員を呼んで、すぐに運んで査定いたしますので、少々お待ちください」
急にアタフタし始めたエレノアさんがバックヤードへ向かうと、すぐにマッチョの男性がやって来た。
「何を言ってるんだよ。カウンターが潰れそうなほど肉が乗るわけ……あるーー!! ちょ、ちょっと待て。他のやつらも呼んでくる!」
「言ったじゃないですか。グラウンドシープの肉なんですから、早くしてください」
「いや、普通は考えられないだろう! 肉の山で向こう側が見えねえぞ! いったい何十人で運んできたって言うんだよ!」
マッチョのオッサンが大声を出すと、次々に裏から別のマッチョが現れる。その度に全員が同じようなリアクションをするため、何度も驚くリプレイが再生された。
当然、ギルド職員が大騒ぎになれば、周りの冒険者や依頼人たちからも注目を浴びる。
隣のカウンターで依頼報告をしていたパーティと受付女性は、ポカーンと大きな口を開けたまま、微動だにしない。周囲を確認しても、同じように時間が止まっている人ばかり。大きな声で騒いでいるのは、ギルド職員と小さな子供だけだ。
小さな子供に「すっげえーー!」って言われると、めちゃくちゃ気持ちいいな。ヒーローみたいじゃん。
「なあ、リズ。グラウンドシープの肉って、人気あるのか?」
「そこからなの? クセがないタンパクな味わいで、女性も好むヘルシーな肉だよ。討伐して三時間以内に持ち込まれたものは、ギルドで二日間冷凍することで、生でも食べられる。愛好家がいるくらいには、人気なんだよね」
「なるほど、リズもその一人なんだな」
「……うん。生では食べないけど」
リズは感情が顔に出やすいタイプなんだろう。おいしそうな肉を見て、頬が緩んでいる。あと、普通はそこまで詳しく知らないと思うぞ。
そんなこんなでマッチョの職員たちに運んでもらい、査定が終了。依頼報酬金の金貨四十五枚に、角と爪と肉の買取に少し色を付けてもらって、金貨百五十五枚となり、合わせて金貨二百枚となった。日本円で二百万円という大金である。
査定額を提示されると、リズは距離を詰めて、顔を寄せてきた。
「ミヤビ、私は三対七の割合でいいよ」
金の話が周りに聞こえたくないのか、小声で話しかけてきた。確かに、周りに言いふらすような内容ではないからな。
「俺もそれで納得だ。荷物運んだくらいで、三割ももらえるならありがたい」
「なんでミヤビが三割なのよ。どう考えても七割もらうべきでしょ」
「自慢じゃないけど、リズに借金している人間だぞ。七割ももらったら、人として生きていけないわ」
「何倍で返してくれるつもりなの? それに穴掘りしている姿は、モグラの魔物みたいだったよ。だから、遠慮しないで」
「それで受け取ったら、俺はモグラの魔物と認めたことにならないか」
ギルド内が騒然とするなか、俺とリズは小声で言い合いを続けた。が、エレノアさんの困惑する眼差しを感じ、ひとまず平等に半分ずつにして、ギルドを後にした。
「割合がおかしいから。ミヤビの方が活躍してたじゃん」
「いやいや、俺は元々サポート要員だから。活躍した、しないは関係ないと思うんだ。怪我のリスクが高いのは、リズの方だぞ」
この日、宿についても言い合いが収まらなかった俺たちは、長時間にわたって話し合いを重ねた。その結果、サポーターの俺に有利な気もするけど、今後はどんなときでも五分五分で分けると決まった。
なお、金銭感覚がおかしくなりそう……と、リズは呟いていたが、それは俺のせいじゃない。多分。