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第124話:エレノアさんと遊びに行こう

 翌日、真夏のような強い日差しが差し込みながらも、ヒンヤリハウスで心地いい朝を迎えると、俺は一人で朝ごはんのサンドウィッチを頬張る。


 暑い時期でもサッパリと食べられる、トマトとレタスとハムのサンドウィッチ。クラフトスキルで作成したマヨネーズは味わい深く、新鮮な野菜とベストマッチしているよ。思わず、マヨネーズを追加するほどには、パンとも相性がいい。


 食べ終えた俺が背伸びをする頃、窓から外を眺めると、鼻歌を口ずさみながら花に水やりをするメルの姿があった。


 草取りが面倒くさいとは言っていたけど、水やりは苦にならないらしく、花壇はメルと共同で手入れしている。遠出で家を空けるときは、冒険者ギルドの受付嬢であるエレノアさんにお願いして、管理を任せることにした。


 俺とリズが姉のように慕うエレノアさんは、この街の誰よりも信頼できるし、面倒見がいい。向こうも俺とリズを弟と妹のように思ってくれているから、安心して任せられる。


 まあ、その妹であるリズに至っては、ようやく起きてきたばかり。実家のような安心感でボーッと寝惚けたまま椅子に座り、朝ごはんを食べ始めた。


 ゆっくり口を動かしてモグモグするものの、まだ半分寝ている影響か、目が一点を見つめたまま動かない。寝坊しないだけ成長したのかもしれないけど、寝癖で髪の毛がゴワゴワしていて、夏休みでだらける学生みたいな雰囲気があった。


「魔法学園の疲れが溜まってて、今日はしんどいか?」


「ううん。体は元気だけど、心が追い付いてないだけかなー。勉強ばかりしてた学生だったのに、いきなり冒険者には戻れないよ。急に自由な休日がやってきたって感じで、なーんか拍子抜けしちゃって……」


「勉強ばかりしていたなら、冒険者業とはかけ離れているもんな。普通なら一週間かけて王都から帰ってくるし、地下鉄で駆け抜けた弊害で、冒険者のリハビリをするチャンスがなくなってしまったか」


「それもあるかもしれないけど、一番の原因はミヤビだよね。また昔みたいに非常識な世界に足を踏み入れて、心の整理がつかないの。だって、家が猛スピードで走ってたんだもん。仮拠点で暮らした経験はあるし、本拠点には馴染めてる気がするんだけどねー」


 こっちもリズが順応性を失うなんて、予想外の展開だったからな。期待に応えようとして頑張っただけなのに、かえって精神的疲労を蓄積させる結果になってしまったよ。


 でも、ゆっくりしている暇はないぞ、リズ。今日の予定はすでに決めてあるんだ。


「朝ごはんを食べたら、頭も動くようになるだろう。早く食べて、寝癖を直してきなさい」


「少しくらいゆっくりしてもいいじゃん。まだ起きたばかりなんだもん」


「本当にいいのか? 半年前、王都で別れ際にした約束があるだろう?」


「約束? パーティを組むこと以外に、何か約束したっけ?」


 呑気にサンドウィッチを口に運ぶリズは、記憶を思い出すように目を上に向けた。記憶にないんだけど……、とでも言いたそうな顔だが、リズが覚えていないのも、無理はない。あの時のリズは半泣きで、泣かないように必死だったから。


 リズに「エレノアさんにも、しばらく会えないって伝えてもらってもいい?」と、お願いされた俺は「帰ってきたら一緒に遊んでもらえるようにお願いしておくよ」と、返答した。そして、リズが卒業する日が決まっていたため、エレノアさんにも休みを取ってもらっている。


 つまり、今日はエレノアさんと遊ぶ約束をしているんだ。


「久しぶりにエレノアさんと会うのに、まだ寝癖がついたままだ。みっともない姿を見られて、恥ずかしい思いをしても知らないぞ」


「そういうことは早く言ってよ! 事前に教えてくれてもよかったじゃん! 今日は拠点でゆっくりしようとしてたのにー!」


 俺も昨日のうちに伝えようと思ったよ。久しぶりに再会したんだし、二人で色々話しながら夜更かしするのかなーって。それなのに、風呂に入った後、すぐにスヤーッと眠ったのはリズだぞ。


「じゃあ、俺とメルとエレノアさんの三人で遊んでくるよ」


「言い過ぎたよ、ごめんね。こんな大きな拠点に私だけ置いてかないで。急いで準備するから、待っててもらってもいい?」


 本気で言ってるわけじゃないんだから、急に甘えてくるのはやめてほしい。対処の仕方に困るんだ。しばらく会わない間に、寂しがり属性が強化されて、性格は子供っぽくなっちゃったな。


「リズの復帰祝いみたいなもんだし、心配しなくても待ってるよ。早くごはんを食べて着替えてこないと、エレノアさんが……あっ、来たわ」


 パッと窓を覗いたら、ちょうどエレノアさんがやって来た。


 いつも着用している冒険者ギルドの制服とは違い、ロングスカートタイプの白と黒のワンピースコーデに、麦わら帽子を被っていて、淑やかな印象を抱く。予め出掛けると伝えていた影響か、ヒールの低いサンダルを履き、小さめのバッグを手に持っていた。


 会釈して挨拶を交わすと、水やりをするメルの方にエレノアさんが近づいていく。


「ええっ!? ちょ、ちょっと待って! さすがに早すぎるよ!」


「本当に早いんだよな。あと一時間後に来てもらう予定だったのに。まあ、エレノアさんもリズに会えることを楽しみにしていたんだろう。外で時間を稼いでおくから、できるだけ早く支度してくれよ」


「わかったけど、寝坊して間に合ってないなんて言わないでよ! 勉強してることにしといて!」


 勉強して待たせるのはいいのかな、と疑問に思いつつも、俺は家の外へ向かって行く。予想以上に炎天下で、僅かな時間稼ぎしかできないな、と思いながら。

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