第121話:ビッグプロジェクト!
魔法学園を後にした俺たちは、一緒に王都を歩き始めた。こうして一緒に街を歩くのは本当に久しぶりだなーと、懐かしい気持ちでいっぱいになる。
「ねえ、こっちはアンジェルムの街と違う方向だよ? 王都で一泊するなら、私が宿を紹介するけど」
「アンジェルムまでの近道って感じかな。ついて来ればわかるよ」
不審な目で顔色をうかがってくるリズの前を歩き、先導して進んでいくと、すぐに目的の場所に到着した。何の変哲もない、ただの小屋になる。
「この土地、王都にしては安かったから、買って小屋を建てておいたんだ」
三か月近く前になるだろうか。王都の商業ギルドを訪ねて、クラフトで稼いだ全ての金を注ぎ込み、一番安くて小さい土地を購入した。本拠点が賃貸契約なのに、大金を出費してしまったが……後悔はしていない。
この小屋こそが非常識の世界への入り口であり、リズを驚かせるためだけに考案したビッグプロジェクト、地下鉄の入り口なのである。あえて言うなら、この小屋は『駅』の代わりだ。
当然、ドアを開けても、この小屋には何もない。地下に続く螺旋階段があるだけで、カモフラージュとして小屋が存在するだけ。
「王都で暮らしてた、わけじゃないよね」
「中に入って行けばわかるよ。まだしばらくは歩くけどな」
小屋の中に入って、扉のカギを確認した後、リズと一緒に階段を下りていく。
地下に続く螺旋階段は、大人数で通ることを考慮していないため、幅が狭い。しかし、光を発する光源ブロックを設置しているので、地下とは思えないほどには明るく、安全に下りることができる。
誰かにバレるのはヤバイと思って、深く掘っておいたから、階段の上り下りが大変だけど。
絶対にリズが驚いてくれると確信する俺は、早くも胸の高鳴りが止まりそうになかった。上機嫌に鼻歌でも口ずさみたくなるくらいワクワクしているんだが、それとは対照的に、リズの表情は暗い。
いくら俺のことを父親のように慕っていたとしても、二人だけで地下へ続く階段に案内されて、怪しんでいるのかもしれない。何とも言えない顔で見つめてくるんだ。
「私がいない間に、こんなにも王都の地下を掘り進めるなんて……。何か怪しい宗教に勧誘された?」
「心配してくれたことは、素直に嬉しく思うよ。でも、安心してくれ。変なことには何も関わっていない」
「人生に迷っちゃった、とか?」
「ずっとクラフトで遊んでただけで、最高にハッピーだったぞ。誰よりも人生を謳歌している自信はある」
「遠慮しなくてもいいんだよ、ミヤビ。いつでも相談に乗るからね」
「あ、ありがとう」
迷走して穴を掘りまくったと判断されても困るけど、その疑いはすぐに晴れるだろう。長い階段が終わり、その全貌が見えてきているのだから。
ばーーーんっ! と開けた場所にやってくると、必要以上に大きな二つの地下トンネルが映し出される。
明るい光を照らし続ける光源ブロックが天井に設置され、周囲は土魔法を付与した硬質ブロックで補強した、地下トンネル。一方通行に敷かれたレールはミスリル製で、強い風魔法が付与されているため、風のパワーで大きなものでも運んでくれる構造になっていた。
なお、二つの地下トンネルの行く先は、片方がアンジェルム方面で、もう片方はノルベール高原方面になる。そして、列車の代わりに用意した乗り物が『仮拠点』だ。
「どうしてここに仮拠点があるの? こんな大きな空洞があるなんて、ちょっと気味も悪いし」
当然、王都の地下に仮拠点が持ち運びこまれたら、リズが呆気に取られるのも、当然のこと。早くも開いた口が塞がらない状態だが、それは仕方ない。
家が走ったら面白い、そんなユーモアを実現するためだけに改造したよ。トンネルの拡張もする必要があったから、けっこう時間がかかったけど。
「こんなところでボーッとしてても仕方ない。まずは仮拠点に乗ってくれ」
肩をすぼめてキョロキョロと周囲を見回すリズと一緒に歩いていくと、仮拠点の中から一人の猫獣人が姿を現した。
「……ご乗車、ありがとうございます」
車掌さん役のメルだ! 何も疑うことなく車掌さんの役を二つ返事で受けてくれたメルには、感謝の思いしかない。見た目が家なだけに、これで一気に地下鉄っぽい雰囲気になってきたよ。
「メル? どうしたの?」
「リズ、ここは突っ込まないでくれ。メルはいま、大事な仕事をしているだけなんだ。軽くお辞儀をして応えた後、仮拠点の中に入って、腰を下ろしてほしい」
動揺を隠せないリズが明らかに戸惑うなか、メルに会釈をして仮拠点の中に入っていった。そして、入り口のドアを閉めたら、いよいよ出発の時である!
半年間かけて作製したビッグプロジェクト、地下鉄の開通式がいま、始まる!