第119話:再会
『前書き』
書籍化に伴い、タイトルが変更になりました。
(まだ各種サイトでは反映されていないかもしれません)
新タイトル:異世界クラフトぐらし~自由気ままな生産職のほのぼのスローライフ~
旧タイトル:不遇職【クラフター】が異世界でスローライフを目指すなら
全部で約13万文字にまで膨れ上がった夏編の第一章、本日より更新を再開します!
予約投稿をしておいたので、システム障害が発生しない限りは、8月18日まで毎日更新されます。
書籍一巻は、7月30日に発売予定です。
書籍化作業と同時にやって、何とかWEB版を間に合わせるくらいには頑張りましたので、予約していただけると嬉しいです。
いや、本当にお願いします……。(震え声)
感想欄につきましては、作者のメンタルが落ち着いている時に見ます。
すべてコメントを返すのは難しくなると思いますので、それでもよろしければ……という形を取りたいと思います。
暑い日差しがジリジリと降り注ぎ、少し動くだけで汗が出るような夏日でも、王都の街並みは大勢の人で賑わっていた。
「半年ぶりにやって来たけど、やっぱり王都は大きいよな」
王都から馬車で一週間かかるアンジェルムの街に拠点を構える俺は、いま一人で王都にやって来ている。その理由はたった一つ、冒険者パーティを組むリズが魔法学園を卒業するため、迎えに来たんだ。
上級魔法が使えないことにコンプレックスを抱きながらも、Bランク冒険者に昇格したリズ。依頼で世話になった公爵家の令嬢、シフォンさんに推薦してもらい、憧れていた魔法学園に留学することを決めた。
あの頃は寒い時期だったけど、今は季節が変わって蒸し暑くなり、時間の流れを感じる。
半年前に大泣きして見送ってくれたリズと別れてから、今日まで一度も会っていない。たまに手紙のやり取りをしていた程度で、あっという間に時間が過ぎていった気がする。
もちろん、会えない時間に二人の愛が芽生え始め……なーんて展開もなく、俺とリズの関係は変わらない。リズの手紙に『部屋の荷物も運んでもらいたいし、ちゃんと迎えに来てね』と、書かれていたため、引っ越しを手伝うお父さんの気分で王都に足を運んでいた。
元々そういう関係だし、期待をしていたわけでもない。互いに父親と娘みたいな存在だと認識して、同じパーティを組んで生活している。ただそれだけだ。
よしっ、久しぶりに良いパパをしよう。
リズに再会する緊張感でドギマギしている間に、魔法学園に到着。すると、門にもたれかかる一人の女性の姿があった。
セミロングだった髪が少し伸び、ちょっぴり大人っぽい印象を抱く。片足をブラブラさせて、ジーッと地面を見つめる姿を見ると、子供っぽいところがまだ抜けていないみたいだ。
それでも、随分と垢抜けた感じがするよ。リズ。
綺麗になったなーと思いながら近づいていくと、俺に気づいたのか、リズが顔を上げた。何気ない表情を浮かべるリズと目線が重なると、すぐに表情がクシャッとした笑顔に切り替わる。
「半年も経ってるのに、ミヤビは変わらないね」
「余計なお世話だ。リズは大人っぽくなったな」
「そ、そう? 自分では何も変わった気がしないんだけど」
急に目をキョロキョロとさせたリズは、髪の毛を指でクルクルッと触り始めた。褒められたときの照れ隠しにする、リズの癖の一つになる。
「自分で気づいてないだけで、落ち着いた雰囲気が出ているよ。周りが貴族ばかりで、自然と変化していったんだろう。髪の毛も少し伸びたな」
「良い意味で変わったんなら、別にいいかな。髪は短くしてもらおうとして、アリーシャちゃんにすいてもらったんだけど、ここまでしかやってくれなかったの。そういえば、アリーシャちゃんとも手紙のやり取りしてたみたいだね」
目を細めてニヤニヤするリズだが、俺とアリーシャさんの仲を完全に誤解している。恋仲に発展して、いい感じだと思っているんだろう。
まあ、公爵家の令嬢シフォンさんの専属メイドなのに、冒険者である俺に私用の手紙を送ってきてるんだから、誤解されても当然だと思うけど。
実際には……リズと同じで、一般的な家族に向けて送る手紙が来ただけだ。アリーシャさんのパパルートに入ったのは間違いなく、手紙の冒頭が『Dear パパ』だった。
会えない時間に恋心が芽生える……否、パパ度が上昇するという不思議な関係性である。そして、その傾向が顕著に表れてしまい、リズの髪型に反映されたに違いない。
「でも、アリーシャちゃんが言ってる言葉の意味がわからなかったんだよね。久しぶりにミヤビと会うなら、ちょっと髪を伸ばした方がいいんだって。どういう意味だったのかな」
出たー! 鈍感のリズー! 俺をまったく男と認識していないばかりでなく、男心をくすぐるために髪を伸ばしたアリーシャさんの意図にも気づいていなーい!
魔法の勉強ばかりしていないで、少しは友達と恋話でもしてくれ!
「リズに似合う髪型にしてくれたんだろう。アリーシャさんは気遣い上手だからな」
「うーん、ミヤビがそう言うなら、そういうことにしておくよ。大人っぽいって言われるの、嫌いじゃないし」
嬉しそうな顔で照れるリズは、何ともわかりやすい女の子だ。しばらく髪の毛を伸ばそうと思っちゃうくらいには、少し伸びた髪が気に入り始めたと思う。いつもより多めに髪をクルクルしているよ。
「今度アリーシャさんに会ったら、ちゃんと礼を言っておくんだぞ。さあ、日差しもキツイことだし、早く荷物を取りに行こう」
「あ、うん。通行許可証は発行しておいたから、このまま女子寮まで来てもらっても大丈夫だよ」
門兵さんに軽く会釈をして、魔法学園の中に入り、リズの隣を歩いていく。
半年ぶりでも変わらない、居心地の良い空間に気を緩めながら。
「懐かしいね、こうやって一緒に二人で歩くの。またこれからよろしくね、ミヤビ」