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第116話:それぞれの道Ⅱ

 西門を離れた俺が向かった先は、アンジェルムの街へと続く南門だ。クラフト部隊を見送ったばかりだが、今度は俺が見送られる側になる。


 魔法学園に入学すると決めた翌日、シフォンさんに連れられて、冒険者推薦制度で入学申請したリズは、軽い面接を終えた後、魔法学園に通学することが決まった。


 無事に入学できてホッとした気持ちと、ちょっぴり寂しい気持ちになったけど、これでよかったと思う。憧れた魔法学園に通学できるのは、リズにとって幸せなことだ。でも、リズも似たような気持ちだったのか、魔法学園の入学が決まったのに、互いに笑顔はぎこちなかった。


 そのため、二人で気持ちを切り替えて、別れるまでの三週間は一緒に過ごした。


 リズと一緒に王都の街を散策したり、魔法学園の中を紹介してもらったり、引っ越しの準備をしたりして、楽しく過ごせたと思う。気持ちも整理がついたし、明日からリズも魔法学園に通うため、今日王都を離れることにしたんだ。


 南門に到着した俺の目に映るのは、落ち込むようにうつむくリズと、なだめるシフォンさんになる。


 ありがたいことだと思うけど、いつまでも悲しんでいても仕方がない。もうそろそろ親離れしよう、リズ。魔法学園に通学する期間なんて、あっという間に過ぎていくんだから。


 そのまま俺が声をかけようと近づいていくと、近くにいたアリーシャさんとメルが早足でササッと近寄ってきた。


 二人の言いたいことはわかる。俺とリズは恋人関係でもないのに、明らかに限度を超えているものがある。何より、リズが大袈裟すぎるんだ。


「リズが迷惑をかけて、すいません」


「いえ、お嬢様にとって、リズ様は大切な友人になります。迷惑だとは思っていないでしょう。ですが、正直なことを申しますと……大袈裟すぎませんか? ()()()()()のことですよね」


 そうなんだよな。俺も二日前にアリーシャさんから聞かされて、戸惑いを隠せなかったんだよ。


 あくまで今回は、編入試験を受けたわけでも、一年生から入学するわけでもない。冒険者推薦制度を使い、半年間の留学をするんだ。


 特に、馬車で行き来をするこの世界では、移動だけで数週間かかるケースもある。冒険者でも、護衛依頼や調査依頼は時間をかけて行うし、半年という期間が短いと思われても、無理はない。別れに悲しむリズがおかしいと断言してもいいだろう。


 メルの真顔を見れば、なおさらのこと。


「……絶対に大袈裟。三年くらい通うのかと思ってた」


「俺もそう思っていたよ。昨日、冒険者ギルドに休業申請したら、半年では必要ありません、って断られてたぐらいだからな」


 なお、無事に大きな貴族依頼を終えて、リズはBランクに昇格している。一年間依頼を受けないと降格するらしく、何も心配する必要はないんだが……。


 当の本人は深刻で、泣きそうな顔をして近づいてくる。


「ミヤビ、元気でね」


 遠距離恋愛中の恋人たちみたいな雰囲気はやめてほしい。俺たちの関係は家族だろ。


 ……違うわ、ただのパーティだ。


「俺はアンジェルムの街でクラフト遊びをするだけだし、心配するなよ。魔法学園で勉強するリズこそ、元気で頑張ってくれ」


「うん……頑張る。エレノアさんにも、しばらく会えないって伝えてもらってもいい?」


「ちゃんと言っておくし、帰ってきたら、一緒に遊んでもらえるようにお願いしておくよ」


「じゃあ、がんばる。あと……学園を卒業したら、冒険者活動、また一緒にしようね」


「約束するから、泣かないでくれ。シフォンさんとアリーシャさんも一緒の寮で過ごすんだから、寂しくはないだろう?」


「ぐすっ……泣いてないもん」


「そうだな、泣いてないな。ごめんごめん」


 いや、もうほとんど泣いてるんだけどさ。口が『へ』の字に曲がってるし、寂しいオーラが全開で、何かの拍子に決壊して大泣きしそうだよ。


 泣かずに見送るって決めてきたと思うから、下手なことは言えないし、ここでリズを泣かせてしまったら、魔法学園の入学をやめてついてきそうな雰囲気まである。


 もう少し色々話したかったけど、長居しない方が良さそうだな。ウダウダ話し込んでいると、余計に別れをツラく感じさせてしまうかもしれない。


「じゃあ、俺とメルはもう行くよ。寝坊と体調には気を付けてな」


 限界を迎えたのか、うん、と一度頷いたリズは、近くにいるアリーシャさんに抱きついた。頭を撫でてもらい、あやされている。


「あとはよろしくお願いします」


「かしこまりました。お嬢様もいらっしゃいますので、ご安心ください」


 ニコッと笑みを浮かべて見送ってくれるシフォンさんに会釈して、俺とメルはアンジェルムの街へと歩いていく。


 王都を少し離れた後、絶叫に近いリズの号泣が聞こえてきたときは、ちょっと胸が苦しくなった。たった半年だけなのに、女性の泣き顔を見てしまうと、さすがに胸に来るものがある。


「……ミヤビも、寂しい?」


「ちょっと、な」


「……手、繋いであげよっか?」


 差し出されたメルの小さい手と心配そうな顔を見て、自分が思っている以上に酷い顔をしているんじゃないかと気づく。


 悲しい気持ちが満ちているとはいえ、まだまだ子供のメルに気を使わせてしまうなんて、情けない。手を拒むのも申し訳ないし、魔物が出ないうちは言葉に甘えるとするか。


 メルの手を取った俺は、そのまま二人で仲良く歩いていく。リズと手を繋いだことはなかったな、なーんてことを考えながら。

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