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第115話:それぞれの道Ⅰ

 三週間後、王都の西門前に大勢の人が集まっていた。ノルベール山の架け橋を見に行くため、この国の関係者たちが集結しているんだ。


 高貴な身分を象徴するような晴れやかな服装の貴族、各ギルドの制服を着たギルド職員、厳重な警備を意識する騎士団員。そこに、場違い感たっぷりなクラフト部隊が合流すると、異様な雰囲気になる。


 今回の主役なのに、貧相なんだよなー。でも、国王様と面識があることもあって、怯えるような面構えはしていない。堂々とした立ち居振る舞いは、クラフターとは思えないくらいだよ。


 やる気に満ちたクラフターたちの勇姿を見届けに来ただけの俺は、誇らしい気持ちでいっぱいになる。たった一人、恥ずかしがり屋な人物を除いては。


「師匠~! 本当に大丈夫でしょうか~!」


 俺を見つけた瞬間、猛ダッシュでしがみついてきた、カレンだ。周りの注目をかっさらうほどの大声を出されると、俺が恥ずかしくなるからやめてほしい。


「大丈夫だ。いつも通りやればできるから」


 仮にこの場で付与魔法を披露しろと言われれば、カレンは盛大に失敗すると思う。でも、クラフト高原で披露するなら話は別だ。教会の付与魔術効果で心が落ち着くはずだし、心配する必要はない。


「でも、でもぉ~~~! 偉い人しかいないのですよ~!」


「心配しなくても、国王様より偉い人は来ないし、公爵家のシフォンさんより身分が低い人ばかりだ。メインはクレス王子なんだから、気楽にやればいいんだよ」


 緊張するカレンを慰めていると、見慣れた年配のドワーフがやって来る。クレス王子が特別に招待した、ヴァイスさんだ。


「ガハハハ、相変わらず緊張ばかりしやがってるな」


「きょえええ! ヴァイス様に目をつけられたのです~!」


 約一ヶ月ぶりに偉人と出会った影響だろう。ヴァイスさんを見た瞬間に、カレンは猛スピードで逃げていった。


 今までどうやって生活してきたのかな、カレンは。自分の晴れ舞台だと認識して、過度な緊張をしているのかもしれない。本当に大丈夫か心配になってくるけど、ヴァイスさんも付き添ってくれるんだし、問題は起きないと思う。


 ヴァイスさんも商業ギルドへ移って、色々とフォローしてくれているみたいだから。


「ご無沙汰していますね。商業ギルドの根回しは完璧だったみたいで、国王様が感謝していましたよ」


「生産ギルドを完膚なきまでに叩きのめした奴に、言われたくはねえよ。随分と面白そうなことになってるらしいじゃねえか。王城から見える景色が変わっていることに気づいたときには、任せる相手を間違えたと思ったぜ」


「山の標高がガクッと下がった程度ですよ。約束通り、全責任はヴァイスさんとクレス王子に取っていただきますので、俺のせいにしないでくださいね」


「借り地獄中の身としては、耳の痛い話だな。まあ、国王も気合いが入ってたし、問題ないだろうよ。ワシは弟子の晴れ舞台を楽しませてもらうだけだ」


 ガハハハッと笑いながら、ヴァイスさんは逃亡したカレンの方へ向かっていった。なんだかんだで気になるんだと思う。


 遠くの方で「ぎょえええ!」と叫び声が聞こえてくるなか、貴族に挨拶をしているクレス王子と目が合った。そのまま俺の方に寄って来て手を差し出されたので、しっかりと握手を交わす。


「今度ミヤビくんが来るときまでに、立派な高原都市を作ると約束するよ」


「俺も街を作った経験はないので、楽しみにしています。王都でも期待の声が高まっていますし、すぐにでも風の噂が流れて来そうですけどね」


 三週間前、ノルベール山が無音の大崩壊した、というデマが流れていたとは思えないほど、今の王都は活気に満ちている。不安を拭い去るために行われたクレス王子の演説で、街の雰囲気がガラッと変わってしまったんだ。


 今の大人しい姿とは違い、力強い言葉と態度で民衆に訴えかけるクレス王子は、最高にカッコよかった。身内とはいえ、国王様が信頼するのもよくわかるし、シフォンさんが惚れこむのも無理はない。やるときはやる男なんだ。


 本人にその話をすると恥ずかしがるから、言わないけど。


「あの架け橋に負けないくらいの建物を作るって、みんなも意気込んでる。もちろん、僕もそのつもりさ。こんなに楽しくクラフトをしようと思うなんて、夢の中にいるみたいだからね」


「高原都市に訪れた人にも、夢の都市に来たと思ってもらえるといいですね」


「そうだね、そう思ってもらえるように頑張るよ。じゃあ、僕はもう少し挨拶回りに行ってくるね」


 貴族の元へ向かうクレス王子を見送ると、騎士団が本格的に出発の準備を始めた。クラフト部隊と荷物の確認も始めたので、俺はその場を後にする。


 みんなが楽しくクラフトしてくれることを願いながら。

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