第113話:エリート冒険者、メル
生産ギルドから王城へ戻って来ると、国王様の元へクレス王子が報告に向かうため、すぐに別れた。
迷子属性をしっかり認識している俺は、近くにメイドさんがいないか捜索を開始する。が、騎士や偉そうな大臣っぽい人とすれ違うだけで、なかなかメイドさんが見つけられない。
さすがに騎士に声をかけるのは勇気がいるよな、と思っていると――。
「……キョロキョロしてる。絶対にまた迷子」
ズバッと俺の迷子属性を理解してくれる人物、猫獣人のメルに出会った。巨大な猫のぬいぐるみを作る約束をしていた影響か、期待に満ちた表情を浮かべている。
まさか王城内で出会うとは思わなかったよ。どこにでも出没するんだな。
「一応言っておくけど、メルと出会う時に迷子の確率が高いだけで、いつも迷子なわけじゃないぞ。メルだって、王城の中は道がわからないだろう?」
「……見栄を張らなくてもいい。私は一人で動けるくらいには、大丈夫」
えっへん、と両手を腰に添えるメルの姿を見れば、俺よりも迷子になりやすそうな子供にしか見えない。それなのに、今も一人で王城内を歩いてきたし、方向音痴ではなさそうだ。Bランク冒険者なだけあって、王族の依頼も頻繁に受けているのかな。
前から思っていたけど、メルは子供っぽいところがある反面、仕事に対してはプロフェッショナルなんだよな。まだ若い女の子が一人で冒険者依頼を受けて、生活をやりくりするなんて、普通は難しいと思うんだ。王族の信頼を得られるのも、冒険者の中で限られた人しかいないはず。
「メルは一人で生活ができて、本当に偉いよな。俺が冒険者生活を始めた時は、リズに頼りっぱなしだったぞ」
照れる、と言わんばかりのメルは、頭の後ろに片手を添えた後、舌をチョコンッと出していた。
やはり、癒し枠であるメルは違う。ずっと見ていられるほど可愛く、こんな孫がいたら、お年玉を奮発してしまいそうだ。実際には、金よりもぬいぐるみを買ってあげた方が喜びそうなところが、また可愛さを増して……そうだ、ぬいぐるみを作ってやらないとダメなんだった。
「時間あるなら、約束していたぬいぐるみを作ろうか? この間、アリーシャさんと買い物へ行った時、ついでに材料を買っておいたんだ」
「……無限に暇」
「じゃあ、どこか落ち着いて作れそうな場所に案内してくれ。さすがに王城の廊下で作るわけにはいかないから」
「……こっち」
サッと俺の手をつかんだメルは、王城内に向かって歩き出していく。
引っ張ってくれているため、俺の腕にユラユラと揺れる尻尾がペシペシッと当たるけど、懐かしい。最初にアンジェルムの街で迷子になった時も、こんな感じだったっけ。
「そういえば、冒険者ギルドでメルを見かけたことがないな。いつもフラフラッと現れてる気がするよ」
「……あまり行かない。貴族の依頼を受けてばかりで、メイドに依頼処理をお願いしてる」
「独特な冒険者スタイルだな。需要があるなら、それが一番楽に過ごせるのかもしれないけど」
どうりで冒険者ランクが高いわけだよ。貴族の高ランク依頼ばかり受けて、自然とエリート街道まっしぐら状態なんだろう。まだ子供で純粋だし、誰かに依頼内容を話すようなタイプでもないから、貴族にとってはありがたい存在なのかもしれない。
「……たまに冒険者ギルドに顔を出すと、ギルドマスターに呼び出されるから、嫌。とにかく話が長くて、中身がない」
「そんな辛辣なことを言わないであげてくれ。貴族の依頼を受けてばかりのメルを心配してくれてるんだと思うぞ」
「……せめて、お菓子の量を増やしてほしい」
砂糖は高いんだし、お菓子を出してもらってる時点でVIP待遇だと思う。貴族の対応に慣れすぎてて、庶民感覚を忘れてるんじゃないだろうか。
その辺は俺が突っ込むと、ややこしくなるからやめるけど。あと、ついでに聞いておきたいことがある。
「仮に俺が護衛依頼を出すとしたら、メルはいくらでやってくれる?」
「……出すの?」
「俺は戦闘できないし、ずっとリズが一緒にいてくれるとは限らないだろう? そういうときに素材採取へ向かう場合、護衛やってくれるかなーと思って」
「……リズは離れないと思う。いつも一緒にいて嬉しそうだから」
親離れできない娘みたいな感じになってるし、それは違う意味で心配になるよ。こんなことを考えてる時点で、俺も子離れできそうにない親みたいだけど。
「互いに離れたいと思っていなくても、こうやってクラフター活動していると、リズと離れることもある。そういうときのために聞いておきたいんだ」
「……うーん。お金より大きなぬいぐるみを作ってほしい」
「リアルなやつと可愛いやつ、どっちがいい?」
「……どっちも」
「そうか。それなら無数に依頼が出せそうで助かるよ。今度また暇があったら、欲しい生地を一緒に買いに行こうな」
「……うんっ!」
一際大きな声で返答してくれたメルは、ちょうど目的地に着いたのか、勢いよく近くの扉をバーンッ! と開けた。すると、そこは女子部屋だったのか、机を挟んで向かい合うリズとアリーシャさんの姿があり、急に扉が開いて驚いていた。
「……お邪魔します」
その言葉が言えるなら、ちゃんとノックをしなさい、誰もがそう思った瞬間だった。