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第109話:一番風呂はいただいt……

 翌日、ノルベール高原に騎士団の一部を残して、俺たちは王都に帰還することになった。


 ノルベール山に向かう時はクラフターたちがバテバテになっていたけど、架け橋作りで動き回って、随分と体力が付いたみたいだ。誰も弱音を吐くことなく、騎士団と一緒に歩き進めていた。


 騎士団がペースを抑えて、歩幅を合わせてくれている影響が大きいと思うけど。


 そのまま無事に歩き進めていくと、日が傾く頃には、王都の西門に到着。依頼を終えた達成感でクラフターたちがワイワイと喜んでいると、馬車に乗っていた国王様が降りてきて、こう言った。


「此度のお前たちの活躍は、フォルティア王国に多大なる影響を及ぼす歴史的な快挙だ。命を懸けて果敢に挑んだことに敬意を表して、王城に招き入れよう。無論、客人としてな」


 国王様に感謝の言葉を述べるべきだったんだが……、何が起こっているのか理解できないクラフターたちは、混乱した。自分たちが住む国の王様に労いの言葉をもらい、王城に招待してもらうなんて、あり得ないことだと思っているから。


 通常、貴族から生産依頼を受けて王城へ足を踏み入れることができるのは、選ばれた鍛冶師のみ。たとえ大規模な街道復旧依頼をやり終えたとしても、客人として招かれることはない。


 不遇職のイメージが強いクラフターであるなら、なおさらのこと。


 ましてや、生産ギルドから除名されて見捨てられたはずの自分たちを評価してくれるなんて、誰が予想できただろうか。国王様からありがたい言葉を受け、喜びを通り越したクラフターたちは、完全に恐縮しまくっている。


 騎士団と一緒に王城へ歩いていっても、中に入れてもらっても、全員がカレンのようにガチガチのまま。やっぱり教会に聖属性の付与魔術を施した影響で、心が安らぐ聖なる結界が張られていたんだと思う。


 今はもう、俺とリズを盾にして進む者ばかりになってしまったよ。正直、招かれている感じがなく、悪いことした奴等を連行している気分である。


 しかし、国王様が直々に招いてくれたこともあって、待遇が良いのは間違いない。長期依頼を終えたばかりだったため、王族が使う風呂場まで貸してくれることになったんだ。風呂がある宿は宿泊費も高く、クラフターたちが泊まれるはずもないので、どれだけVIP待遇かわかるだろう。


 一人でゆったりと入れないとはいえ、こんな機会は一生に一度あるかないかだ。ここは俺が先陣を切って、一番風呂を――。


「ミヤビ様はお待ちくださいね。少々お話がございますので」


 走り出していた俺は、あっさりとシフォンさんに止められるのだった。


 ***


 またもや国王様に呼び出しをかけられた俺は、一人だけ別室に連れてこられた。前回と違うのは、向かい合う席に国王様しかいないことだ。


 おそらく、帰りの馬車でシフォンさんと色々話し合っていたんだろう。公爵家という高貴な身分が影響しているのか、対等に話せるような仲だったから。


「今回の依頼についてだが、ノルベール山の街道修理の依頼を受けたと聞く。間違いないか?」


「そうですね。冒険者ギルドでシフォンさんとクレス王子に依頼されて、その内容で受理しました」


「では、依頼内容だけで判断すると、架け橋が完成した時点で完遂したと言える。が、高原都市を建築することを前提に橋を作ったのであれば、話は変わる。依頼の延長と言い切るには規模が大きすぎるし、もはや目的が違う。継続するにしても、別の依頼に切り替えなければならない」


 確かに、現状は二つの依頼が発生しているように受け取れる。簡単にまとめると、街道整備と都市建設の二つだ。


 街道整備に関しては、ノルベール山を整地して架け橋を作った時点で終わっている。しかし、都市建設はこれから着手する部分になるし、先が長い。クレス王子に話していたとはいえ、今後の方向性だけは一致しているものの、細かい対応や事務的な処理が追い付いていないんだろう。


「用件は二つ。今回の依頼報酬額と、高原都市の建設に冒険者のお前が参加する意思はあるのか、という部分だ」


 何とも難しい質問だな。出来高で依頼を受けたのは冒険者の俺とリズだけど、メインで架け橋を作製したのは、クラフターたちだ。依頼を受けた俺たちだけが高額な報酬金を貰うとなると、建築の手柄を独り占めしているというか、横取りしているみたいで気が引けるよ。


「依頼報酬については、建築に携わったクラフターたちと分配するような形でお願いできれば、額は任せます。高原都市の建設については……俺がいない方がいいでしょう。クレス王子を中心にして、建築するべきだと思います」


 俺が計画して何もかもやってしまったら、またやり過ぎるだけだ。アドバイスくらいはできるけど、クラフターたちには自由に物作りを楽しんでほしい。


「随分と他のクラフターたちに気を使った答えだな。何を考えている?」


 疑り深い国王様の力強い目力によって、俺の心の中に押し込んでおいた欲望が浮き彫りになってくる。ヤバイ、ひそかに十分すぎる報酬を手にしていることがバレる、と。


 実は、ノルベール山の地下に大量のミスリル鉱石が眠っていたなんて、絶対に国王様の前で言えないんだよなー。クラフターと騎士にも内緒で、夜間に一人で掘りつくしたんだから。


 いくら採取したものが正式に俺のものになる、という契約を結んでいるとはいえ、限度がある。素材を独り占めして後ろめたい気持ちもあるから、金ぐらいは仲良く折半しようと思っただけなんだよ。


「冒険者として依頼を受けましたが、王都でクラフターたちを巻き込み、依頼を遂行しました。報酬金を受け取る権利は彼らにもあると思います」


 でも、貴重なミスリル鉱石は渡しません。早くミスリル鉱石でクラフト遊びをしたいので、高原都市の建設にも参加せず、仮拠点に帰りたいです。


 無責任な気もするけど、実際に俺はいない方がいいと思う。それがわかっているから、国王様もわざわざ俺に参加の意思があるのか聞いてるんだろう。


「それでお前が満足するなら、依頼報酬額はこっちで決めて、望み通りクラフターたちに分配しよう。その方が他のクラフターたちとも交渉がしやすく、好都合だ」


「俺が口を出すことじゃないと思いますけど、クラフターたちを国で雇用される予定ですか?」


「地形を変えるほどの人間がいるのなら、商業ギルドに所属する前に契約を済ませておくべきだ。他職の仕事を奪えば、また除名騒動に発展しかねない。仮に商業ギルドの協力を得られなかった場合でも、国から仕事を渡すこともできる」


 やっぱり国王様なだけあって、色々考えてるんだな。生産ギルドのギオルギ会長とは違って、クラフターも他職も平等に扱ってくれてそうな気がする。


「その方がクラフターたちも喜ぶと思います。まだ現実を受け入れられていませんから、まともに契約できないと思いますけどね」


 まあ、今回の依頼でみんなレベルキャップが解放されて、優秀なクラフターに成長したのは間違いないし、国王様の提案は互いにメリットが大きいと思う。クラフターたちが緊張とプレッシャーで押し潰されないように、クレス王子に引っ張っていってもらえば、絶対にうまくいくよ。


「クラフターたちが現実を受け入れられないのも、無理はない。ここまでクラフトスキルが化けた影響で、まだ俺も混乱している。ノルベール山で過ごしたログハウスも快適で……そうだ。ログハウスのベッド、お前が作ったらしいな」


 キラーンッと光る国王様の目を見て、俺は察した。高額ベッド販売イベントが発生した、と。


「あぁー……シフォンさんから聞いたんですね。必要であれば、販売しますよ。ヴァイスさんに金貨二百枚で売れって言われていますので、その値段になりますが」


「構わん。妃の分も含めて、二つ頼もう。さすがに俺だけベッドを新調するのは、気が引けるからな」


 奥さんの分も含めて、金貨四百枚、日本円で四百万円か。依頼報酬を受け取らなくても、臨時収入が大きすぎる気がするよ。

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