予兆
今回のお話は編成上短めです
翌日の夜。改めて準備を済ませた僕は、協会に連絡を入れた後、件の寺院へ向かった。
柳から事前に聞いた話によると、この寺院が無人になったのは、今から五年ほど前だそうだ。
それ以降、近隣の寺院が管理していたそうなのだが、その寺の住職も二ヶ月前から入院しているとかで、この一月は協会も清掃に訪れるくらいだったという。
それにしてもーー
「夜のお寺って、やっぱり少し不気味だなぁ」
暗闇に薄らと浮かぶお堂を見ながら、僕はつい本音を漏らした。
そんな僕に、内側から剛濫の呆れ声が聞こえて来る。
『陰祷師ともあろうものが、たかが夜の寺を観たくらいで何を言っとるんだ』
「それはそれ、これはこれだよ」
その言葉に、剛濫がため息をつく。
『だったら夜ではなく、昼間に来れば良かったんじゃないのか?』
「お昼に来たところで遭遇する確率はまずないし、その前に人目についちゃうでしょ? ……それに今日は、お清めに来たわけじゃないんだから」
そういうと僕は、険しい面持ちでお寺を見た。
肌で感じられるほどの、重く、息苦しい感じ。この寺院に満ちた膨大な怨念が、ひしひしと伝わってくる。
できるなら、的中しないで欲しかった。しかしどうやら、今回ばかりは完全に「当たり」の様な気がする。
僕は彼岸流艶を取り出すと、マスクをつけ、フードを深く被った。
『……いくか、坊主』
「うん!」
お寺へと脚を踏み込んだ僕は、最初にある場所へと向かった。そう、今回の騒動の発端となった御神木のあった場所だ。
辿り着くと、そこには黒く焼け落ちた杉の木があった。幹の大きさからして、相当な樹齢を持った木だったのだろう。しかし今となっては、その偉大さは見る影もない。
『無残だな』
「これだけの御神木なら、浄化作用も相当なものだっただろうね」
それ程の力を持った御神木が焼け落ちた。言い換えれば、この地域は以前から穢れが溜まりやすい場所だったが、これまではこの御神木の力のおかげで、大きな問題も起こらなかったということだ。
しかしその御神木も、今はもうない。なるほど、通りでお寺に穢れが溢れかえるわけだ。
とはいえ、このまま穢れを放置しておくわけにもいかない。簡易的にでも、お清めはしておくべきだろう。
こうして僕は、しばしの間、お清めをしながら境内を見回っていった。