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陰祷流転草子  作者: ナツミカン
流れによりて縁は結ばれん
13/35

2021年初更新です。

本年もよろしくお願いします。

 その時だった。


『ドクンーー』


 突然ただならぬ衝動に襲われ、るいは思わず口元を押さえた。

 脈打つ鼓動とともに、内側から湧き上がる衝動感。その激しさに、るいの顔が苦痛に歪む。

 だが、変化はそれだけではなかった。

 短かったはずの髪は首筋まで伸び、刀を握る指先は、爪が僅かに尖っている。

 きたか……。

 鬼化。妖怪を内に宿した、陰祷師の宿命。

 妖怪はいわば怨念の化身。強い怨念を浴びれば、当然力は増していく。

 そしてそれは、妖怪を内に宿す陰祷師も例外ではない。

 るい達陰祷師は確かに人間だが、妖怪を内に宿す故、その体質は半妖に近いものに変化している。

 そのため彼らは強い怨念に当てられ過ぎると、身体が徐々に異形の姿へと変じてしまうのだ。

 恐らく、先程の鍔迫り合いで、蛇女の怨念を至近距離で受けてしまったせいだろう。

 だが、今回の仕事をするにあたって、るい自身も鬼化のリスクは承知済みだった。

 鬼化するといっても、変化の度合いには段階がある。その為、ある程度の変化は許容の範囲内なのだ。

 しかし、早すぎる。

 るいの予想では、鬼化が始まるまでにまだ幾分かの猶予があったはずだ。にも関わらず、この短時間で鬼化が始まった。

 昔と比べて、鬼化が起こりやすくなっているという自覚はある。しかし、今はまだ軽微な変化でも、このまま戦いが長期化し、鬼化の進行が進んでしまったらーー

 本当は、もう少し相手の力を削いでから行いたかった。けれど、こうなってしまっては仕方がない。

『……あれをやる気か?』

「うん。それまでの間、頼める? 剛濫」

『言われるまでもない。任せておけ』

 いつもながらの頼もしい一言に、思わず笑みが溢れる。

 このような状況にも関わらず、こうして安心できるのも、その存在故かもしれない。

 とはいえ、それを本人に告げることは、恐らくないだろうけれど。

 そうしてるいは、目を閉じると、内なる存在(もの)にその身を委ねたーー



 その瞬間、るいの纏っていた気配が変わった。

 息苦しくはないが、重々しい。重苦しいのに、猛々しい。

 先程までのるいとは、まるで異なる気配。

 その変化に何かを感じ取ったのか、蛇女はすぐさま腕に纏った蛇達を、るいに向けてけしかけた。

 微動だにしないるいに、蛇達は容赦なく襲い掛かろうとする。

 だが次の瞬間、唐突にるいの目が開かれた。同時に、黒かった彼の瞳が、紅へと染まる。

 そして、彼のものとは思えない程の雄叫びを上げると、腕の一振りで容易く蛇達を葬ってしまった。

 これには、流石の蛇女も、動揺を隠せない様子だ。

「……なんだ、どうした? 随分と手応えがないじゃないか」

 もの足りないと言わんばかりの表情を浮かべるるい。しかしそこから発せられる声は、内なる鬼、剛濫のものだ。

『ちょっと剛濫! いくらなんでも、無用心すぎるよ』

「やれやれ、相変わらず心配性だな。坊主は」

 内から聞こえる慌てた様子のるいに、剛濫は呆れたと言わんばかりの態度を見せる。

『剛濫が、なんでも力任せにしようとするからだよ。蛇女の毒に当てられたらどうするのさ』

「なに、そんな心配なぞいらん!この程度、我が皮膚を裂くことすらできんわ」

 そういってニヤリと笑う剛濫。よく見ると、先程の一撃で裂けた袖からは、人のものではない、灰色の鱗に覆われた皮膚が見え隠れしていた。

「そんなことより坊主。小言を言う暇があったら、少しは集中しろ。こちらも、そう長くは持たんぞ」

『わかってる』

 戦いを剛濫に任せ、るいは再び意識を集中させる。

 そして、それを見届けた剛濫は、迫りくる蛇女に刀を構え、叫んだ。

「久方振りの俗世だ。存分に楽しもうぞ!」


蛇女戦は次回で完結です

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