3話 いつもの日常
よろしくお願いします!
「信じられないよなぁ... ...」
家に帰り1人そう呟く。あのあとスマホのマップ機能を駆使して家へと帰った。
ちなみに俺の家族は誰もいない。俺が中学3年生のときに両親と姉は交通事故で死んだ。
そのあとは祖父母の家で暮らしていたが、正直そこで暮らすのが嫌だったのと、知り合いの居ないところに行きたかったので高校は離れたところに行き一人暮らしをしている。
なので、俺がフルワールドとやらに行こうと誰かが悲しむなどの問題はない。
とはいえ、よく分からないところに行くなんて簡単にはできない。だからといって、なにもしなければ僕の体に何が起こるか分からない。
俺これからどうなるんだよ... ...。
「あー、もう訳わかんねぇ!」
思わず叫んでしまう。
落ち着け俺。
深呼吸を2、3回する。
明日も学校があるんだし、とにかく今日は寝る準備をするか。
お風呂にゆっくりと入り、テレビを見ながら歯磨きをする。
そして、ベッドに入る。
やはり今日1日でいろいろあったので疲れていたのだろう。ベッドに入るとまぶたがすぐに重くなる。そして俺は深い深い眠りへと落ちていった。
そして次の日。
俺は目を覚ます。時計を見る。
8時だ。
... ... ...
「なあああああああああああぁぁぁ!?」
やべぇ、やらかした!絶対間に合わないだろ!
あーあ、今日も怒られるのかよ... ...。
そう思いながら俺は学校への準備をする。
どうやっても遅刻は確定なので特に急ぎはしない。しても体力の無駄だからだ。
準備を終えて充電していたスマホを手に取る。アダプタを抜くと画面が光る。
そこにはあるニュースが通知で来ていた。
なになに、イノシシに襲われ女性が重体か。
「この前先生が言ってたイノシシかな」
俺はそう呟いた。そして俺はそのニュースを特に気にせずスマホをポケットに入れて家を出た。
この時間帯は誰も登校などしていない。そして通勤する人も少なく俺はとても静かな通学路を歩く。
そりゃそうだ。だってもう8時40分なのだ。1時限目が始まっている。こんな時間にいる学生はよっぽどバカなのか愚かの2択だ。
「あら光ちゃん、おはよう。こんな時間に登校なんて寝坊かしら?」
近所のいつも掃除をしているおばさんに声をかけられる。
「おはようございます。起きたらもう8時で、どうやっても間に合わないので諦めました」
「あらまぁ。光ちゃんは悪い子ね」
そんな軽い会話をして俺は通学路を進んでいく。
ご近所付き合いは大切だ。なので俺はできるだけ明るく、丁寧に返す。
まぁ別にご近所さんとの会話が嫌いな訳では無い。むしろ好きな方だと思う。
でもだ。でも、ひとつだけ辞めていただきたいことがある。
それは... ...俺を"ちゃん"付けで呼ぶことだ!
いや、だって俺高校生だよ?もう2年生だよ?16歳だよ!16歳で"ちゃん"付けは大分恥ずかしい。
え?え?16歳にはみえないって?悪かったな童顔で!
その後もすれ違う顔見知りのおばさん達に声をかけられながら俺は学校へとむかった。
学校に着くと案の定先生に怒られる。
そして、いつもと変わらない日常が始まる。
根黒先生の頭にはいつもどおり寝癖がついてるし、だるそうな話し方をする。
休み時間にはクラスメイトはガヤガヤと友達との会話をし、馬鹿な男子たちは消しゴムを投げ合う。
いつまで投げあってんだよ。そろそろ飽きるだろ。
昨日あんなことがあったと言うのに誰一人として覚えていない。殴られた女子も爪で切り裂かれた男子も、何事もないように過ごしている。
異様な感覚だ... ...。
そして、今日も普通の1日が流れていく。
キーンコーンカーンコーン
授業がすべて終わりホームルームも終わったので俺は帰ろうと席を立つ。
帰りに隣のクラスの隆志でも呼んで一緒に帰ろうかと思っていると、誰かに声をかけられた。
「あ、あの、桐間... ...くん。」
後ろから女子の声がしたので俺は振り返る。そこにはクラスメイトの女子がいた。確か名前は... ...麻乃瑠花さんったはずだ。
「どうしたの麻乃さん?」
「私昨日休んでて、それで桐間くんに昨日の授業の内容教えて欲しいなと思って... ...」
え、俺に?麻乃さんとは特に関わりとか無かったはずなんだけど... ...。
麻乃さんは少し俯きながら言う。え、何これ。俺好かれてるの!?
い、いや、麻乃さん可愛いとは思うから、も、もしも、もしもだけど!告白されたら付き合うのも、や、やぶさかではないなーと思わなくもないかなーと... ...
ってなに動揺してんだ俺!好かれてるとか自意識過剰にも程があるだろ!
「友達に頼んだんだけど今日用事があるらしくて断られちゃって、でその子が桐間くん頭いいから教えてもらえばって言ってて」
あ、そーなのね... ...。推薦されたから俺に来たのか... ...。
なんか1人で盛り上がってすみません... ...。
「別にいいよ」
別に断る理由もないし、かわいい女の子と一緒に放課後を過ごせるというのであれば大歓迎だ。
俺がそう答えると彼女は嬉しそうな顔をした。
「ありがとう!えーっと、学校の図書室だったら迷惑かもだし、喫茶店とかどうかな?」
「あ、それなら俺1回行ってみたいところあったんだ」
なんだこれデートか!?男女が2人で喫茶店... ...。彼女がいた事がなく女子との関わりがあまり無かった身としてはとてもドキドキする展開だ。
まぁ、相手にはそんなつもりないだろうけど。
とまぁそんなこんなで、喫茶店に行くことになった。
隆志から一緒に帰ろうとSHINEで言われたので事情を説明し断ると
「友達と女子、どっちが大切なんだ?光は裏切らないよな!?」
と送られてきたので、俺は
「女子(*`・ω・´)」
と返しておいたことはどうでもいいだろう。
そして隆志が
「裏切り者!」
と返してきたことはもっとどうでもいいことだろう。
喫茶店へ行く道で麻乃さんと少し話をした。女子と話したことなどあまりなかったので楽しい会話が出来たかどうかは分からない。少なくとも俺は楽しかった。
学校から10分ほど歩くとお目当ての喫茶店があった。初めて行く店なので少し緊張しながらドアを開ける。
カランコロンと小気味よいベルの音がする。
「いらっしゃいませ」
店主だろうか。50代くらいの男性が言う。俺たちはその店に入っていきテーブルにつく。ちなみに俺たちの他に客はいない。隠れ家的な感じの喫茶店だ。
俺たちが席に座りしばらくすると男性が注文を聞きに来た。俺はメニューを見てあるものに決める。
「俺はオリジナルブレンドコーヒーで。麻乃さんはどうする?」
「えーっと、それじゃあ私も同じのをお願いします」
注文をとると男性は静かにカウンターに戻っていく。
ちなみに俺は初めての喫茶店に来たらとにかくオリジナルブレンドコーヒーを頼むことにしている。それでなんとなくそのお店のことが分かるからだ。たぶん。
そして、コーヒーが来るのを待つ。麻乃さんに話しかけようと思うが、どう話しかけたら良いのかわからないし、この静寂を破るのがこわかった。
しばらくすると、店主のコーヒー豆を挽く音だけが店内に聞こえる。
俺はいたたまれなくなって口を開いた。ひたすらに考えに考えた内容だった。
だっていきなり話し始めて訳の分からない内容だったら引かれるじゃん!
「えーっと、それじゃあ勉強はじめよっか麻乃さん。まずなんの教科から始める?」
俺はそう切り出す。無難だ。
「えーっと、じゃあまず数学からいいかな?」
そんな感じの会話で始まり、俺たちの勉強会がスタートする。
彼女はとても飲み込みが早く集中力も凄まじかった。そのまま2時間ほどかけて昨日の授業の教科の内容をすべて終えると一息つく。
ちなみにコーヒーだがとても美味しかった。多分他のメニューも美味しいんだろう。
また来ようかな。
そんなことを考えていると麻乃さんが口を開いた。
「ねぇねぇ桐間くん。どうして桐間くんって頭いいの?やっぱしっかりと勉強してるから?」
「んー、たぶんそうかな。俺さ親が死んだ時遊んだりする気分じゃなくてさ。で、そのことを忘れるためにやり始めたのが、勉強だったんだ。勉強をしてる間は忘れられたからね」
「...ごめん、嫌なこと聞いちゃったね」
麻乃さんはとても申し訳なさそうな顔をする。
「いやいや、大丈夫だよ。まぁ他の理由としては祖父母の家が嫌でさ、高校生になったら一人暮らししたくてこの学校に来たかったんだけど、合格するためにひたすら勉強したってのもあるかな」
「そうなんだ...」
... ...なんか重い空気になってしまったな。やらかしてしまったと反省しつつ、なんとなく窓の外を見てみるともう外は暗くなってきていた。時計を見てみると午後7時17分。
そりゃ暗いわな。
「麻乃さん、そろそろ帰ろっか。ちょっと暗くなってきたから家まで送るよ」
俺は麻乃さんにそう言う。
まだ少し明るいとはいえじきに暗くなる。俺が送らなかったせいでなにか事件に巻き込まれたりしたら嫌だからな。
「え、いいの?ありがとうね」
そうして俺は喫茶店を出る。もちろん出る時に店主に挨拶を忘れない。
挨拶をすると店主は軽く会釈をする。
いい店だなぁ。まじでまた来よ。
そう思い俺たちは家へと向かう。
「ねぇ桐間くん。ひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
帰り道麻乃さんが尋ねてくる。
その声はなんとなくだが、いままでと雰囲気が違った。気の所為かもしれないがなんというか──危険な感じがした。
「どうしたの?」
俺はそう返す。
闇夜に紛れて姿は見えないがカラスが2、3羽鳴いていた。
そして、カラスが鳴きやむ。
その直後彼女は口を開いた。
「桐間くんは... ...フルワールドの住人なの?」
俺は思わず立ち止まってしまう。
そしてそのあとには、カラスの羽ばたいていく音だけが残っていた。
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