第5話
その日の晩から夢にうなされるようになった。
誰かに呼ばれているような・・・そんな夢。
呼ばれているほうには行きたくないのだが、足が勝手に動き、少しずつ向かっていく。
毎日夢は続いていて、その声にだんだんと近づいているようなのだ。
気になるのは、あの日黒いものに巻きつかれた腕にうっすらと残っていた黒い紋様。
帰って着物を脱いだときに気がついたのだが、夢を見るごとにはっきりとしてきている気がするのだ。
そして時々めまいのように目の前が暗くなり、一瞬だが意識が途切れることが多くなってきた。
ある夜。
いつもの声の夢を見た。真っ暗な中、声のする方へと歩いていく。
今日はその闇がうねっているように見えた。
そしてそのうねりの中へと入ってゆく。
どちらが上でどちらが下なのか・・・どこからが身体でどこからが闇なのか・・・自分の意志で歩いているのか・・・そうじゃないのか・・・
心のどこかでは抵抗しているのだが、すべてを受け入れる体勢になっている。
『待っていた・・・娘よ。人の子よ。その器を我にすべて明け渡せ』
どこかにあった抵抗感もだんだんと消えてゆく・・・そのときだった。
『気をしっかり持て!!お前は巫女ではないのか!!そんな汚らわしいものに身体を明け渡すのか!』
龍神の声だ。
ぼうっとした頭でそれを聞いているあまね。ゆっくりとゆっくりと飲まれながら、意識が遠のく・・・・
『チッ』としたうちのような音が聞こえる。
『バカ!バカちび!ちびすけ!しっかりしろ!』
あまねは頭の中でその言葉を反芻する。ボーっとしているので言葉の意味が飲み込めないのだ。
だんだんと意識がはっきりしてきて、意味が飲み込めると
「ば・・・か・・・・」
「ばっ・・バカですって!!」
そういうと、うねりのなかから周りを見回す。うねりで何も見えないのでそのうねりを手でよけるしぐさをする。
『身体を我に明け渡せ・・・』
その声が強くなりうねりも強まる。ぐぐっと締め付けられ、くるしくなる・・・が・・・
「そ・・・そんなとこじゃないわよ!!もう!!うざったい!!」
そういうとうねりを掴み脇のほうへとよけていく。よけてもよけても先は見えないのだが・・・
そのときだった。光を感じたかと思うと、黒いものがさぁ〜っとよけていく。
『龍神!・・・邪魔が入ったか・・・今日は帰るがあきらめはしない。人の娘、また迎えに来ようぞ。』
そういうと完全に消えてしまった。
あまねが気がつくと神社の外の町の通りに立っていた。
そこには龍の姿もなく風だけが吹いていく。
夢だったのか何なのかよくわからないながら部屋へと帰りながらさっきの龍神のはっきりした声を思い出して少し腹が立ってくる。
「バカって言った?しかもバカちびって?・・・・夢・・・だよね?」
複雑な顔で首を傾げつつさっきのことを思い返す。
腕の黒い模様はかなりはっきりと浮かび上がり、少し禍々しさを感じるものになっていた。




