第24話
その時だった。
「その娘を返していただこうか」
龍宮が木陰から現れる。
そして紫藤に抱かれているあまねを見てむっとした顔をする。
「何やってんだ!帰るぞ!」
紫藤はにやっとしてあまねを下ろすとあまねの肩を抱き
「あまね・・・どうしますか?」
「私はあなたもの・・・」
そういうとあまねは紫藤の胸に頭を預ける。その瞳には何も映ってはいない。
「・・・お前!そいつになにをした!!」
龍宮は怒りで震え、目の色が黒から青みがかったシルバーへ変化する。
紫藤は冷酷な表情であまねの後ろに立ち、懐から笛を取り出すと奏ではじめる。
その音色が響きだすと龍宮の身体に足元からねっとりとした水のようなものが絡み動けなくなる。
「な・・・」
動こうともがくたび、ギュウギュウとしまってゆく。
水のようなものはだんだんと首にまで届き、息もできなくなってくる。
「チッ」
龍宮は人の姿を解き、本来の龍神の姿へと戻る。
絡み付いていたものは飛び散り、辺りにはゴーっと風が吹く。
あまねはその風でよろけ、倒れそうになる。
紫藤はあまねを支え、龍宮をみて不敵な笑みを浮かべる。
「なんと龍だったとは・・・ふっ・・・相手に不足はない!」
そういうと今度はマントラを唱え始める。
それを阻止するかのように龍宮の尾が紫藤めがけて振り下ろされる。
紫藤はまだマントラを唱えている。
紫藤に尾が当たりそうになった時、あまねがすっとそれを阻むかのように割って入る。龍宮がそれに気づいたときには、あまねは大きく後方へと跳ね飛ばされ、大木の幹に身体を打ち付けられていた。
「あまね!!」
龍宮が叫ぶ。
口の中をきったのか口の端からは血が流れていく。
打ち付けられた衝撃で、意識が戻り、起き上がろうとするが、体が言うことをきかない。動かそうとするだけで体中に衝撃が走る。
どこか骨でも折れているのだろう。
「おやおや・・・あなたを慕う人をこんな目に合わせて・・・あまねがかわいそうだ」
「くそっ・・・卑怯な・・・」
あまねは声のするほうに顔を向ける。
紫藤とその向こうに見える懐かしい姿・・・
「龍神様・・・」
「あまね!意識が戻ったのか?!」
龍宮の姿になりあまねの元へと駆け寄りあまねを抱き寄せる。
「痛い!・・・」
鋭い痛みが体中に走り顔をゆがめるが、ふっと笑顔を浮かべて龍宮を見る。
「私のなまえ・・・呼んでくれてる・・・」
あまねは龍宮が自分を名前で呼んでくれているのに気がつき、うれしくなった。
痛みで朦朧としてきているが、今伝えなければと思う。
「ご・・・めんなさ・・い・・・私・・・龍宮センセが必要・・・・・・センセが私のことどう思っててもいい・・・そばにいさせて・・・」
痛みをこらえながら龍宮の服の裾を握り締める。手放してしまうとまた消えてしまいそうな気がするのだ。
「もう話すな・・・傷の手当をしに行こう」
そういうとあまねを抱きかかえ湖のあるほうへ向かおうとする。
ドクン
「あ・・・」
目を見開くあまね。
意識が何者かに支配されるような、絡め取られるような感覚に襲われる。
龍宮に対しての憎しみのような攻撃の感情にまとわれていく。
「だ・・め・・・龍宮センセ・・・にげて・・・」
そういいながら龍宮を突っぱねるとバランスを崩し、あまねがどさっと草の上に落ちる。
あまねはすぐにふらっと立ち上がり、龍宮に無表情な顔を向ける。
片手を大地に向け、大地からの光を無理やり引き出す。右手にそのエネルギーを集約する。
その光りはだんだんと大きくなり、稲妻のように光が走り、銀色に黒く縁取られたまがまがしく感じられるものになっていった。
「あまね・・・それをその男に放て!」
紫藤がそういうと同時にあまねの手から黒い稲妻が龍宮めがけて放たれる。
龍宮は飛んでよけようとしたが、あまりに大きく広範囲でよけきることができず、稲妻の中に飲み込まれて行った。
ドーンと地面にぶつかり、光が消えるが、後には誰もいない。
紫藤は周りを見回す。次の瞬間龍宮は龍の姿で現れ、あまねを掴むと空へと消えて行った。
「侮辱してくれましたね・・・しかしあまねは私のもの。あまねの居場所くらい簡単にわかりますから・・・」
不気味な笑みを浮かべる紫藤。目が紫色に変化する。
そしてあまねのいる方向へ向き、するりと黒龍に変化し向かう。
紫藤もまた龍だったのだ。




