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第21話

月見草の咲く草原。


「ここは笛を吹いても誰にも迷惑をかけませんし、舞うのにも美しい場所でしょう?」


夕時、月見草がひらきはじめる時間。白い花びらが夕焼けに赤く染まっている。

紫藤が笛を吹き始め、あまねはゆっくりとそれにあわせて舞う。

久しぶりの舞に心は喜びを感じ、あまねは熱中する。舞っている間は無心になり何も考えることはない。

それを目を細めながら演奏する紫藤。

何曲吹いただろう・・・あまねは息を切らすことなく嬉々として舞っている。

最後に1曲終わると紫藤は笛の音を止めた。


「あ・・・?・・・」


あまねはなぜ音楽が止まったのか?という表情をして音のしていたほうへ向く。


「もうかなりの時間舞っていますよ・・・大丈夫ですか?」


紫藤がにっこりと微笑んで笛の手入れをし、しまおうとしていた。

あまねは紫藤がいることなどすっかりと忘れていた。

何時間舞っていたのだろう・・・月はかなり上のほうへ上がっている。


「あ・・・す・・・すみません・・・わたしったら・・・紫藤さんもずっと吹きっぱなしで・・・」


「私は大丈夫です。少し座って休憩しましょう」


相手を思いやることも出来ず逆に気を使われて恥ずかしくなりほてって上気した頬がますます赤らんだ。

二人はちょうどいい大きさの石の上に並んで座った。

あまねは舞いっぱなしだったが身体は疲れることなく、力がわいてくるようだ。


「本当に美しい舞だ・・・」


「そんなこと・・・姉さまたちのほうがずっと上手で・・・私はいつも先生にしかられっぱなしなんですよ・・」


そういいながら龍宮のことを思い出し少しブルーになる。


「あなたの舞は本当に美しいですよ・・・うたは引き込まれそうなほど・・・」


「本当に?・・・うれしい!ほめられることなんてほとんどないから」


「・・・その先生は厳しいんですね。きっとあまねさんに才があるから伸ばそうとなさってくれているんじゃないですか?」


「・・・そうなの?」


「ええ・・・たぶんきっと」


さわっと風が吹き風と一緒に枯葉が舞いあまねの髪にくっつく。

それに気がついた紫藤はそっと髪に手をやり枯葉をつまむ。


「あ・・・あの!!何をなさるんですか!?」


いきなり髪に手をふれられびっくりするあまね。だが紫藤が指に掴んだ枯葉を目の前に持ってきてくれて自分の早とちりだということがわかる。


「あ・・・ありがとう・・・」


勘違いが恥ずかしくて真っ赤になってしたをむく。


「紫藤さんのような綺麗な男の人が私なんか相手するはずないのに・・・大声だしてごめんなさい」


「なぜ?あまねさんはこんなにかわいいのに・・・」


そういうと、うつむいていたあまねの額にキスをする紫藤。

びっくりして言葉を失い、紫藤を見上げるあまね。

そして唇にキスをされる。

びっくりして離れようとするが、だんだんと力が抜けてしまう。





ボーっとしたあまねが家の裏口から入ろうと扉を開けたとき・・・


「こんな時間までどこをほっつき歩いてた?」


その声にはっと我に返る。龍宮だ。

真っ赤な顔をして下を向く。

ほんのついさっきまで紫藤と一緒に居た。あまねはどんな表情で龍宮を見ればいいのかわからない。


「稽古にも来なくなったな・・・そんなに私のことがいやになったのか?」


そんなことはない!そう言おうとしたがさっきの紫藤とのキスのことが思い出され、その口で答えることができなかった。


言葉を発しない、目をあわそうともしないあまねを見て、龍宮は寂しそうな表情を浮かべる。

それはあまねが湖で見た表情だ。

だがあまねは下を向きそれを見ていない。



「私を・・・もう必要としないというのだな・・・」


龍宮はさらに悲しい目をして言う。

あまねはふと龍宮の雰囲気がいつもと違うことに気がつき顔を上げる。が、その表情はいつもの龍宮のものだった。


「・・・・わかった」


そういい、龍宮は部屋のほうへと戻って行った。

あまねは急に不安にとらわれた。そして返事をしなかったことを後悔した。

少し考えてちゃんと話し合おうと龍宮の後を追う。


「龍宮先生!」


だが時はすでにもう遅く、龍宮は消えていた。

部屋は整えられ、神主であるあまねの義父の机の上に、急に故郷に帰る旨を伝える手紙だけが残っていた。


あまねは龍神の湖へ龍宮を捜しに行く。

そこはひっそりと静まり返り何の光もなくなっていた。

龍神がいないというだけでこんなにも湖の表情は変わるものなのか?


あまねは何度も何度も龍宮の名を呼んだ。しかし何度呼んでもあまねの声だけが響いているだけだった。


もう二度と帰ってこない・・・もう二度とあまねの前には現れないだろう・・・

小さな頃からの心のよりどころだった人を失ってしまったのだ。

あまねは湖を前にして立ちつくすだけだった。


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