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第2話

巫女の修行の朝は早い。

日が上がる前に起き、朝のお勤めに境内の清掃などするのだが、あまねは朝が苦手だ。


みさとはもう起きて、緋袴に着替え、髪をきれいに束ねている。

みなもはまだ寝ているあまねを必死に起こす。


「あまねちゃん・・・あまねちゃん・・・もう起きないと・・・」


「ほおっておきなさい。自覚しなければわからないのだから。みなもは甘すぎるわ。」


「・・・みさとちゃん・・・」


さっさと身支度を整え、部屋を出て行くみさと。

3人の中で一番年上なのと、小さいうちからしきたりや所作を叩き込まれ、神社の娘である責任感からほかの2人よりかなりしっかりとしている。

みなもはあまねとみさとを交互にみつめ、自分の着物を直し髪を束ねながらあまねに声をかける。


「あまねちゃん・・・早く起きて・・・」


あまねはようやく気がつき目を開ける。


「ん・・・あ・・・おはよう。みなも姉様・・・」


「おはようじゃないわ・・・みさとちゃんはもう当の昔にいっちゃったわよ」


「ええ!!」


がばっと飛び起きてあせりながら布団をたたむ。


「またやっちゃった〜☆」


「あまねちゃんは着物を着替えて!私がたたんでおくから」


途中布団をたたむのを、みなもが変わってくれる。


「みなも姉様ごめんなさい〜〜☆ありがとう」


あまねはするすると着物を着替えるのだが、とても手際がよく、すばやい。

昔から何事もぎりぎりにならないと出来ないので、こういうことだけは得意なのだ。

布団をたた見ながら横目で見て、みなもは感心半分あきれ半分で微笑む。

みなもが布団をたたんでしまうのと、あまねが着替え終わるのが同時に終わり、髪を束ねながらばたばたと部屋を後にする。


外は白々と明けはじめ、鳥の声が朝を告げ始めている。

みさとはすでに神殿に上がり祝詞を上げている。

あまねはみさとの祝詞を上げている姿が好きだった。

りんとしていて隅々までが清浄に澄み渡っていく。

みなもの祝詞は優しく、ふんわりと包み込み鳥たちが共にさえずりはじめる。

あまねは踊りや歌のほうがすきで祝詞は苦手なのだ。


あまねがこの神社に来たのは8年前。

5歳のときに両親から離れてここでお世話になっている。

あまねの家には兄弟がかなりいて、村の神社の神主である義父に相談をしてあまねが引き取られることになったのだ。

そのあまねはというと、小さな頃からかなりなおてんばで、問題を起こしては神主である義父に大目玉を食らい、お仕置きというお仕置きをされたが、反省する様子がないので今ではあきれられている。


朝のお勤めが終わり、境内の掃除を始める。

と・・・みなもが走ってあまねのほうにやってくる。


「あまねちゃん〜☆大変〜☆」


「どうしたの?みなも姉さまが走ってくるなんて」


おっとり気味のみなもは人よりワンテンポほど遅れ気味なのだ。


「木の上に子猫が上がっていて降りられなくて困っているようなの。」


「なんだ・・・そんなこと?任せて!木の上なら得意よ♪」


子猫がいるという木は高く、その子猫もかなり上のほうに上がってしまってにゃぁにゃぁないている。


「なんだかかわいそうで・・・このまま降りられなかったら・・・落ちちゃったら・・・どうしよう・・・」


みなもは最悪の状態を考えて顔色が青くなっている。


「大丈夫だよ」


そういいながら周りを見回し、誰もいないことを確認すると、袴の裾を器用にくるくるっとたくし上げするするっと登ってゆく。

上のほうの子猫のところにたどり着くが、子猫はかなりおびえていてあまねが手を出そうとすると「しゃーっ」と威嚇してくる。


「大丈夫だよ。お前のこと助けにきたんだってば・・・」


そういいながら手を出すといきなり飛び掛りあまねの腕に噛み付いた。


「痛!」


小さく叫び、あまねは、そのままぎゅっと子猫を抱きしめる。

抵抗して爪で手の甲を引っかかれる。

痛かったが、ここで手放してしまうと、まっさかさまに落ちてしまう。必死に我慢して心の中で子猫に話しかける。


『大丈夫・・・大丈夫・・・』


そのうち抵抗をやめ噛んでいた腕を放した。


「よしよし・・・もう大丈夫だからね。下まで下ろしてあげる。」


そういうと子猫を片手に抱いたまま慎重に降りて行った。


「あまねちゃん。大丈夫だった??」


「大丈夫だよ」


にっこり笑い、そういって子猫をみなもに手渡す。

みなもに抱かれた子猫は「にゃ〜」といいうながらみなもをなめ始める。


「みなも姉さまにはかなわないなぁ〜☆ 動物たちはみんな姉さまのことが好きだもんね。すぐになついちゃう。」


あまねはみなも微笑みながら見つめる。

みなもはあまねが手の甲から血を流しているのを見て


「大変!!血が・・・」


あわててあまねの手をとり傷口を確かめる・・・だがあまねはすっと手を引っ込め


「だいじょうぶだって。ただのかすり傷だから。血が着物につかないようにちょっと傷口を洗ってくるね。」


そういってみなものそばを離れた。

実は噛まれた傷はかなり深く、少ししびれた感覚があった。

袖で傷口が見えないのをいいことに、みなもに心配をかけたくなくて、傷口を隠したのだった。

これがわかったらみなもは自分のせいだと大騒ぎになるのはわかりきっている。


川岸で傷口を洗い、そばに生えている止血の薬草をつけようとしたとき・・・


「あまね!境内の掃除はもう終わったの?」


みさとだった。

袖をすっと直し、傷口を隠して


「もう少しで終わります。みさと姉さま。」


そういうと、もとの掃除をした場所へ小走りに帰ってゆく。

傷口の手当ができなかったが、腕には布をきつめに巻き、血を止める。ずきずきと痛むが後で手当てもできるだろう。


昼が過ぎ、みなもや、みさとと離れる隙がなく、傷の手当てもできずにいた。

間の悪いことに、だんだん痛みが増してきて、腕も少し腫れてきていた。

着物のの生地が腕に触れるだけで痛みを感じる。

子猫とはいえ野生の動物。小さな傷でもなめてかかってはいけないのだ。

だんだんと指を動かすことにも痛みが走るようになり、ようやく夜を向かえ、一人になったときには傷口を見ると、もう腕の付け根まで赤く腫れていた。

その頃には体中寒気がし、震えるようだったが水で傷口を清め、薬草を摘み、つぶして傷口に貼り付け、その上に布を巻いた。


そのとき、ふと龍神の湖に行きたくなった。

夜、皆が寝静まった頃、何度も月あかりを頼りに湖に行ったことがある。

その神秘な美しさをまた見たくなったのだ。


湖についた頃にはあまねはふらふらになっていた。傷口の菌が全身に回って体中痛く、熱も上がっていた。

静まり返った森、さわさわと木の葉がすれる音が心地よく、月あかりの写る湖はとても綺麗で、それを見ただけであまねは思わず微笑んでしまう。


「やっぱり・・・きれい・・・」

「ごめんなさい・・・龍神様・・・ちょっとだけ・・・休まさせてください・・・・」


そう言うと、湖を見渡せるよう木にもたれかかり座る。安心できる場所で気が緩んだのか、その場に気を失うように倒れこんだ。


そしてしばらくすると、倒れたあまねの身体にどこともなく影が落ちる。




その影はゆっくりあまねを抱きかかえ、湖の中へと入ってゆく。



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