第16話
夜・・・
龍神の湖にはあまねの姿があった。
いつも髪はきちんととかされ束ねているのだが、腰近くまである乱れた髪は、歩くたびに揺れている。
そして目はうつろで何かを探すように歩き回っている。
≪龍宮センセ・・・まだ帰ってきていないのね・・・あの女の人のところ?私のことなんて・・・どうでもいいんだ・・・≫
月あかりに浮かぶあまねに重なる半透明の女の人。
亡くなった者の魂だ。いつの間にかあまねに憑き、支配されつつあるようだ。
初めはただの不安な思いだったものが、だんだんと女の人の思いにすり替わってくる。
≪私より・・・あの人を取ったのね・・・私には・・・あなたしかいないのに・・・≫
涙を流すあまね。
ゆっくりと湖の河口から上流へと歩いていく。
「君!!」
その時、後ろから声が聞こえた。
あまねが振り返ると昼間の男。
しかし今のあまねは何かに意識を支配されている。
『私を呼ぶのは誰?・・・・あの人ではないの?・・・』
そうつぶやきながら川上へと歩く。
「・・・・支配されたか・・・しかたがない!」
そういうとマントラを唱え始める。
あまねはびくっと身体を震わせて動きを止める。
『邪魔をするの?』
あまねは身体を男のほうに向ける。
「その人の身体を返していただこう」
『この身体?この女は私の気持ちをわかってくれる。これからは私と共に・・・』
マントラを唱え手を握りそれを目の前にかざす。
「『きゃぁぁ』」
あまねも女も胸をつかまれ絞られるような苦しみを味わう。
男ははっとしてその手を緩める。
「一体化しているのか!卑怯な・・・」
『邪魔をするな・・・私はあの人を探しているの・・・』
ざぁぁぁ・・・
木々がざわめき、葉が舞い、男の目を覆い周りが見えなくなる。
ざわめきが消え、舞っていた葉がすべて落ちたときには、あまねも消えていた。
「しまった!」
男はあまねを見失ってしまった。