第15話
「1週間?!」
「なぁに?きいてなかったの?あまねちゃん。1週間ご用事で出かけられるって言ってたじゃないの」
驚いたまま固まっているあまねをみて、ため息混じりにみなもが説明する。
「稽古の休憩のときにおっしゃってたのよ。もう・・・今日はおかしいわよ!あまねちゃん」
稽古の後、2人っきりになったのに何も言ってなかった。
1週間も離れ離れになるのは、龍宮に出会ってから初めてのことだ。
その日の夜、遅い持間にみなもたちの目を盗み外へ出ると、龍宮の部屋に向かった。
「1週間もいないって本当?」
扉を開け龍宮がいるのを確認もしないうちに言葉を発するあまね。
「いきなり部屋に飛び込んできて挨拶もなしで質問ですか?」
人がいるときの龍宮の態度だ。あまねははっとする。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
龍宮は扉の外を見回し誰もいないのを確認すると、扉を閉め、あまねの方を向いた。
「何があった?お前今日は変だぞ?」
あまねは湖の出来事を覗いていたと言う訳にも行かず、あの表情を思い出すとむしゃくしゃしてきて
「本当になんでもないって言ってるじゃない!」
と怒ったような物言いをしてしまった。
湖でのことを思い出すと無性に腹が立つのだ。
龍宮はあまねを冷たい目で見下ろすと
「私はわけのわからない態度を取る人を相手にしている暇はありません。少し頭を冷やしなさい。明日は朝早い出発ですのでどうぞもうお引き取りください」
二人きりのときにはとった事のない他人行儀な物言いで扉を開け、あまねの背中を押して部屋の外へ出し、バタンと閉めた。
あまねは龍宮を怒らせてしまったんだと後悔した。
「ごめんなさい」
そういうとその場を離れる。湖には行きたくなかった。昼間のことを思い出すだけだ。仕方がないので境内をうろうろとして、神社の裏側を通った時、そこでふっと空気が変わり少しクラッとする。ふと気になったのだが、それよりも先ほどの龍宮の冷たい態度や昼間の出来事とをおもうとそんなことは取るに足らないことだった。
しかしそれからだんだんと落ち込んできたので部屋に戻り寝ることにした。
次の日。
早くに龍宮は出たようであまねが朝、部屋を見たときにはもういなかった。
あれから眠ることが出来ず、喧嘩別れしたまま1週間を過ごしたくなかったので、朝早く謝ろうと部屋に行ったのだ。
がらんと感じる部屋を見つめる。
≪もういない・・・あの女の人は誰?龍宮先生にとって大切な人なの?
あんな表情をするほど・・・?
私には悪態しかつかないくせに・・・あんな優しい表情をするんだね≫
急に龍宮が遠い人に思えてくる。
≪今まで1週間も離れていた事などなかった・・・それに理由も告げずに行くなんて・・・≫
もしかしてもう帰ってこないのではないか?という不安が頭をもたげる。
何かが急速に心の中に広がってゆく。
数日が過ぎ社務所に座っているとみなもが話しかけてくる。
「あまねちゃん・・・あまねちゃん最近おかしいよ。・・・・なんだか別人みたい・・・」
みなもの言うとおり最近のあまねはいつもの元気なあまねではなく、時々ボーっとはしているが、何事もそつなくこなしてゆき、時々見える所作がとても女らしく、みなもが見てもはっとするものだった。
「あまねちゃん・・・もしかして・・・恋してる?」
突拍子もないことを言われ目を丸くするあまね。
「こ・・・恋??」
「なんだかそんな感じ・・・龍宮先生がお出かけした頃くらいからそうだったよね・・・?何かあったの?」
「みなも姉さまの憧れの先生だよ。私が何かあるわけなんてないじゃない」
にっこりと笑って答えるあまね。
そうしていると社務所にこの間の男の人がやってくる。
「こんにちは。今日はお札をいただきにあがりました」
「こんにちは・・・この間はありがとうございました。おふだですね・・・」
横を向き、みなもの目の前にあるお札を取ろうとすると、みなもの姿が目にはいった。目の前の綺麗な顔立ちの男に、目がハートになって顔が緩んでいる。
少しおかしかったが、お札を手に取り、袋に入れ男の人に渡す。そのときに少し手と手がふれる。男は一瞬表情が曇るが、すぐににこやかに礼を言い帰って行った。