第12話
気がつくと自分の部屋の布団の中で、みなもとみさとに囲まれていた。
「あまねちゃん〜〜☆」
大粒の涙をうかべながら名前をよぶみなも。
「龍宮先生がいらっしゃらなかったら倒れたままどうにかなってたわよ!・・・・もう・・・体調が悪いなら悪いって言いなさいって言ってるじゃないの!いつもいつもそういうところだけは遠慮するんだから!心配ばっかりかけて!!」
そういうとみさとはあまねに抱きつき涙を流している。
「み・・・みさとねえさま・・・」
天音は驚きを隠せなかった。いつも自分にも他人にも厳しく、涙など見せたことのないみさとが泣いているのだ。
「ご・・・ごめんなさい姉さま・・・」
いつも自分は3人の中でも神社の中でも余分者の様な気がしていた。
おとなしくもできないし、礼儀作法も覚えられないし、歌も踊りも決して上手ではなく何のとりえもない。
ただ好きという思いがあるだけ。
実の姉妹ではないからできるだけ邪魔をしないように、迷惑をかけまいとしていた。
それがみさとにはもどかしかったようだ。
「私たちは血はつながっていなくとも姉妹なのよ。遠慮はしないでこれからはちゃんと言って頂戴」
あまねはぎゅっとみさとを抱きしめた。なんだかみさとと初めて心を交わしたような気がした。
みなもやみさとが部屋から出て行くと、入れ替わりに龍宮が入ってきた。
「ほんとにお前は突拍子もない行動を取る・・・変わったやつだ・・・」
腕組みをし、柱にもたれながら、あまねを斜に見下ろす。
龍宮としての表の顔でなく、あまねに見せるいつもの龍神の顔だ。
「女の子の部屋に堂々と入ってきて第一声が変わったやつ・・・ですか・・・?龍神様の口の悪さにはもう慣れましたけど」
あきれた表情で、布団の上に上半身を起こしたまま、龍宮を見上げる。
「ほう・・・女の子とな?男の子のような活きのいいちびっこいのならここにみえるが・・・」
くすくす笑いながら答える。
それを聞き、むくれた表情をするあまね。
龍宮はあまねのそばに座りあまねの頭をくしゃくしゃっとなでる。
「よく帰ってきたな・・・あれだけのものを・・・浄化してしまうなど・・・しかも完全に」
そういいながらあまねの腕を取り袖を捲り上げると、あったはずの黒い印が消えている。
「あ・・・模様がなくなってる・・・」
あまねは模様のあった腕を確かめるかのようになでる。
「お前が浄化したのだ。すべて・・・」
「浄化・・・?私はただ男の子に子守唄を歌っただけなの。悲しみと憎しみと恐怖を少しでも癒せたらと思って。」
「そうか・・・男の子・・・それが中心にいたものなのだな。そいつが色々なものを取りこんで大きくなり、別の意識が支配し始めていたのだろう。それを根こそぎ浄化・・・か。・・・ふっ・・・・本当に不思議なヤツだ」
あまねはふと何かを思い出し、龍宮に聞いてみる。
「これは・・・夢の中・・・かもしれないんだけれど・・・天からの光が私を包んで・・・そのときに私を引き戻して・・・名前を教えてくれた?契約って・・・言ってた。あれって・・・なに?」
「あれは私の真名だ。これはお前たちで言う命と等しいくらいのものだ。それをお互いが名乗りあい交換する。それだけのこと。」
「・・・・それだけ??」
「それだけ」
「命と等しいものを交換して・・・?私は何を出せばいいの?私の名前なんてみんなが知ってるものだし。」
「・・・・・では・・・・たびたび暇なときに湖まで踊りに来い」
「それだけ・・?」
「それで十分だ。湖の魚たちや周りの木々がお前が来るのを待ち望んでいるからな」
「え・・?そうなの??」
一瞬喜んだあまねだったが・・・ふと龍神の顔を見て・・・
「龍神様は?・・・・迷惑だった??今までずっと私が湖に行ってたこと・・・」
「・・・下手な踊りは見るに耐えないので教えに来たんだ」
「・・・・・やっぱり・・・へたくそだよね。好きって思いだけじゃうまくはならない・・・かぁ・・・」
大きなため息をついて、ガックリと肩を落とし落ち込むあまね。
「その思いは大切だ。いくら技術があろうが、心がこもらなければ何の感動も生みはしない」
怒って突っかかってくると思ったあまねが落ち込んでいるので、ふと、やさしく言葉をかける。
「ありがとう龍神様。元気付けてくれて」
「普段は龍宮と呼べ」
「はい!龍宮センセ!」
にっこりと満面の笑顔で答えるあまね。
あの時のあまねは、天からの光が迎えに来ていたようにそこで死を迎えるはずだった。
龍神が契約と称し、命を分けたのだ。
契約することであまねとは一生お互いが支えあい助け合う付き合いになる。
二度と人にかかわるつもりがなかったのに、どうしてそんな事をしてしまったのか・・・人の理を曲げてまで命を助けてしまうなどかんがえられないのだ。
なぜここまでかかわってしまったのか・・・これはただの気まぐれなのか・・・龍神は自分の行動の意図がわかりかねていた。