第11話
龍神の湖。
だがどこかが違う。現実ではない空間のような感覚。
いつもあまねが龍神と話をする場所に光が下りている。
白金の虹を感じる光。あまねが何度も迷った魂を送ったときに見た、天へと登る光だ。
あまねを迎えに来た光りだ。
「私も・・・もう行くんだ・・・」
あまねは何のためらいもなくその光の中に入ろうとしたときだった。
「ちび・・・ちびすけ・・・」
声が聞こえる・・・
湖のほうを見ると湖面が光っていて、そこには龍宮があまねを抱き、起こそうと必死の表情をしているのが見えた。
「なぜ出てきた・・・・なぜ私をかばう・・・こんな傷など私にとってはどうってことはないが、人間のお前には致命傷であろうに・・・」
そうつぶやいているのも聞こえてくる。
「たつみやせんせ・・・ううん・・・龍神様・・・」
あまねは寂しそうな笑顔を浮かべ、言葉を続ける。
「今までありがとうございました・・・この湖に来て龍神様にお話をするのが私の一番の心のよりどころだったの。知ってました?龍神様がいたから生きようって・・・生きて行こうって思ったの。ねえ様たちもとてもよくして下さったけど・・・やっぱりここが一番好きだったわ」
そういう言葉の端から光りはあまねの身体を包んでいく。
キラキラと光に包まれだんだんと満たされていくその時。
龍宮はあまねの命のともし火がだんだんと希薄になっていくのを感じ、目を閉じ、あまねの内側へと入ってゆく。
そしてあまねの中にある、湖面の光りのなかから姿を現すと、天からの光に包まれたあまねを見て
「そこから出て来い!何さっさと上へ上がろうとしてんだバカちび!」
そういってあまねの手を取り、光りのなかから引き出す。
光で満たされ、光の粒子になりかけていたあまねは、腕をつかまれ引きずり出されて少しよろける。
「ま・・・またバカちびって言った!せっかく龍神様に感謝してたところだったのに!!ほんとに口が悪いったら!」
そういうと少しむくれた表情を見せるあまね。
それを見て少しほっとしたような緩んだ表情になる龍宮。
「私の名は聖だ」
「え?・・・」
突然のことにびっくりするあまね。
「私の名は聖だ」
「ひ・・・聖・・・?」
「お前の名は?」
「あ・・・あまね・・・天の音と書いてあまね」
龍宮はニッと意味深な笑いをする。
そして額に指を持ってゆき軽く押す。とたんにバチッと電流が走る。
「いたっ!」
「これで契約は交わされた。私の真名はほかに洩らすでないぞ・・・ちびすけ・・・」
「え??契約・・?何のこと?え・・・え・・??」
「帰るぞ!」
そういうとぐいっと引っ張られ湖のなかへと入ってゆく。
深くもぐるごとにあまねの意識は遠のく。