第10話
あまねは意識を飛ばされ暗い闇の中にいた。
「わたし・・・死んじゃったのかしら?」
そんなことをつぶやきながら歩く。
歩いているうちに、だんだんと手足の感覚がなくなってゆく。暗いと思っていたそこは無数の人の意識が、アメーバーのようにねっとりとそこにある。
「・・・闇にのまれていくって・・・こういうことなんだ・・・死ぬこともできず自然の輪廻のことわりの中にも入っていけない・・・一生この一部になって生きるっていうこと・・・たぶんもうすぐ私としての意識もなくなるんだ」
ぶるっと震えた。これが死というものなのか?・・・と。
今までのすべてが思い出される。
生まれてからの思い出す限りの全部を。
両親と離れ離れになり神社に預けられた日、一番思い出したくない、忘れようと努力した記憶。そのことを思い出していた、その時。
「お姉ちゃんも父さんや母さんと離れ離れになっちゃったの?」
ふと気がつくと足元に小さな男の子。
「・・・どうしてこんなところにいるの?」
「僕はお父さんとお母さんを殺されちゃったんだ。大人の人たちに・・・」
そういいながら身体を震わせ全身で怒りながら
「だから同じようにほかの大人たちをみーんな殺してやるんだ!」
そう言い放つ。
あまねは思わずその男の子を抱きしめる。
両親を目の前で殺され、大人を憎むこの子に、大きな悲しみを感じたのだ。
しかし男の子はあまねの肩を掴むと力を込め、手が変化してあまねの肩を貫く。
「あうっ・・・」
痛みを感じる。
流れてくる男の子の思念、そして記憶。
大勢の村の人々に囲まれいわれのない罪を着せられ次々にたたき殺されていく両親。
そして男の子に向けられたその矛先は子供だということなど関係なく残酷に振り下ろされる。
痛みと恐怖と怒り。
あまねは胸が苦しくなり、涙を流す。
≪人はどうしてこうもむごいことができるのだろう・・・それを小さな子供にまで・・・≫
そしてゆっくりと子守唄をうたい始めた。少しでも男の子の怒りや悲しみが和らぐように・・・この祈りが神様に届くように・・・
うたい始めると肩に刺さった手が緩む。
そして徐々に暗かった周りも変化してくる。
キラキラと金色の光が輝き始め、黒いそれらがすべて上に上がってゆく。
そこに広がっていくのは草原。向こうには山と村が見えている。
男の子が驚きの表情で周りを見渡す。
「僕の村だ。」
あまねはうたを歌い続ける。
徐々にまぶしいくらいの光が輝く・・・村の入り口に人2人がたっているのが見える。
「とうさん!かあさん!!」
男の子は涙をあふれさせその人たちの下へ駆けていく。
3人は抱きしめあい喜びあっている。
こちらを向き3人で会釈をするとすぅっと消えていく。
すべてのキラキラが天へとのぼり、それと同時に歌い終わると、ふと景色が変わる。