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5 夏祭りの雰囲気にやられて……ねえよ!

 夏祭り当日。待ち合わせ場所の駅前に浴衣姿の女子がいた。うん、眼福ものだな。俺を含めた男どもは……浴衣じゃねえよ。俺は浴衣なんか持ってないし、そもそもどうやって着るんだよ。知らねえよ!


 いかん。会った途端に木下に責めるように言われて、ヒートアップしかけてもーた。


 気を取り直してお祭り会場へと向かって歩いて行く、俺たち。もちろん榊原は木下をエスコートして、勝亦も栄子さんと仲良さそうに歩いていく。俺は……あぶれた者同士、小沼さんと並んで歩いている。


 二組のカップルの様子を窺っていると、俺と小沼さんがついてきた意味ねえじゃんと、気がついた。それぞれ楽しそうに屋台を見ては「あれをやってみたい」「たこ焼き食べたい」「たこ焼きはあそこより少し先のとこがいいんだよ」などと、言っていた。


 小さく息を吐いたら、隣にいた小沼さんが謝ってきた。


「ごめんなさい、東野木君。私とじゃ、楽しくないよね」

「えっ。あっ、すんません。今のはそういう意味じゃなかったんです」


 小沼さんを見下ろすと、俺のことを見上げるように見てきていた。なんか、目が潤んでいるように見えて、ドキッとしてしまった。


 いやいや。これは身長差に寄るマジックだ。変な期待をしちゃいかん。


 そう思っていたのに、いつの間にか奴らと離れてしまい、辿り着いたのは花火を見るのに穴場だという……小沼さんの部屋。あれ?


 7階建てのマンションの最上階で、花火会場までは高い建物がないからよく見えるな~。


 小沼さんが出してくれたビールを飲みながら、買ってきたお好み焼きやたこ焼き、焼きとうもろこしなんかをつまみに、涼しい部屋でまったりとしながらのんきに思った。


 だけど、隣に座る(花火を見るためだから並んで窓のほうを向いているとも)小沼さんをチロリと見て、う~んと考える。


 これって……やっぱり誘われているとか? 


 女性が自宅に簡単に男を入れるのだろうか。


 ……実は小沼さんはそういうことに抵抗がない人で、一時のラブアフェアを望んでいるとか?


 あとは……あいつらにあてられて、俺を誘ってそういう方向に話を持っていこうとか?


 しばらく小沼さんの部屋に誘われた理由を推察してみたけど、これと思える理由が思いつかなかった。


「そろそろ最後の大玉が上がる時間だよ」


 小沼さんの言葉に意識を窓の外へと向けた。さっきまでキラキラと……えーと、スターマインだっけ? ドンドンと続けて上がっていた花火は止まっていた。離れているし部屋の中なので、花火が上がる時のヒューという音は聞こえてこない。花火が開くときのドンという音しか聞こえないんだ。


 パアー と、大きな光の花が開いて、ドン と、大きな音が響いて、今年の花火大会は終わりを告げた。


「あー、終わっちゃったねー」

「ああ、そうだね。最後のやつはやっぱり見ごたえがあったなー」


 視線を窓の外から室内、それも小沼さんへと移したら、真剣な顔で俺のことを見つめていた。


「やっぱり、こんな所じゃなくて、お祭り会場のほうがよかった?」

「いんや。祭り会場は人混みが凄いし、帰ることを考えたらこっちのほうが帰りやすいっしょ。それに」


 言い淀んで言葉を止めた。これって失礼に当たるかな?

 なのに、小沼さんが聞いてきた。


「それに、って?」

「涼しいし見晴らし良くて最高!」

「じゃあ、来年も一緒にここで見ない?」

「そんな図々しいことは、できないよ」


 そう答えたら、小沼さんの表情が辛そうに歪んだ。その顔を見て、俺は何か間違えたことをしたのだろうかと考えた。必死に思い出している俺の胸に、小沼さんが右手を当ててきた。


「どうして? 東野木君は、彼女はいないって言ったじゃない。やっぱり私じゃ駄目なの? 彩夏ちゃんに比べたら、年上なのに子供っぽい私なんて、好みじゃないんだよね?」

「はっ? いっ?」


 えーと、これって告白されてんの、俺。


 そんなことを考えていたら、小沼さんの手に力が入った。気を抜いていたせいで、そのままひっくり返ってしまった。その俺の上に圧し掛かるように小沼さんがいる。けど、その目からポタポタと水滴が落ちてきた。


はいはい。これでお分かりになりましたよね。

木下さんが東野木君を絡めるようにしたのは、小沼さんのためでした。


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