3 急展開だよ、ついていけねえよ
昼休みだ。とりあえず、浮かれまくった榊原を勝亦がうまく操縦して、午前の仕事を終えた。……いや、まだ終わってないけど、一段落はつけた。そして3人で食堂へと、やってきた。
「あれ~、東野木じゃない。今まで会わなかったのに、会うとなると会うわね」
と、苦笑いで声をかけてきた木下。その向かいと隣には木下の同僚らしき女性が2人。テーブルのそばで、食事のトレイを持っている俺たちに木下が言ったのだ。
「隣でよければどうぞ。それともほかに空いているのかな?」
空いている席を探して食堂内を見まわしていた俺たちは、木下の言葉に有難く座らせてもらった。俺が木下の隣に行こうとしたら、榊原がちゃっかり座っていた。なので、木下の前……には、勝亦が座っていたので、仕方なく勝亦の隣で榊原の前に座った。
「ねえ彩夏、そちらの人とどこで知り合ったの?」
木下の斜め前に座る女性が、木下に興味津々という顔で聞いている。何かを期待する目で、チラチラと俺のことを見てきた。
ベシッ
「痛いなー。何するのよ。叩くことないでしょ。智司のバカ」
「お前がくだらないことを言うからだろ。普通は『そちらの人はどなたでしょうか』って、聞くもんだろ」
「そういう意味で聞いたもん」
「んなわけあるか。絶対恋愛的なもんを期待してただろ。人の恋路に首を突っ込むなと何度言えばわかるんだよ」
「智司こそ、私の楽しみをつぶさないでよ。なんでいっつも、いっつも邪魔するのよ」
「邪魔するに決まってんだろ。お前が変に口を挟んだせいで周りに気持ちがばれて、何人の恋がぶっ壊れたと思ってんだよ。お前の彼氏ってだけで、俺がどれだけ迷惑したと思ってやがる」
しばらく勝亦とその隣に座った女性の言い合いは続いた。最初は目を丸くして二人を見ていたけど、木下の隣の女性が食事を再開したことで、俺たちも食事を食べだした。
食事をあらかた食べ終わったところで、不満そうな女性の声が聞こえてきた。
「なんで~? なんで、止めてくれるなり話に加わるなりしてくれないの?」
「あのね栄子さん、限られた昼休みの時間に、痴話げんかの仲裁をしたい人はいないと思うわよ」
木下が文句を言ってきた勝亦の隣に座っている女性に言った。
「まっ、普通はそうだよな。すみませんねー。こいつが迷惑をかけているんでしょ」
「そんなことはないですよ。恋愛が絡まなきゃ、良い先輩ですもの」
勝亦が食事を食べながら木下に言ったことに、食事を食べ終わった木下は水を飲みながらにっこりと笑った。
「俺はこいつの彼氏の勝亦智司だ。困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」
「私は木下彩夏です。栄子さんと同じラボで、東野木君の高校のときの同級生でもあります。もし困ったら東野木君経由でお知らせするので、お仕置きをお願いしますね」
ニヤリと笑って自己紹介をしあう、勝亦と木下。
「ひっどーい。私が何かするみたいじゃない。そんなことしないもの。あっ! 私は物部栄子です。癪だけど、智司の彼女してます。で、そちらの……とうのき君? 字はどう書くの」
「えーと、東に野原の野と樹木の木ですね。それでフルネームは東野木柊吾といいます」
「しゅうごのしゅうはもしかして柊って書きますか」
木下の隣の女性が聞いてきた。
「当たりです。柊に吾と書いて、柊吾ですよ」
「そうなんだ。私は小沼歩美です。栄子ちゃんと彩夏ちゃんと同じ研究班なの」
小沼さんがそう言って、最後に残った榊原に視線を向けた。榊原はみんなに注目されて(特に木下に見つめられて)、緊張した顔で自己紹介をした。
「僕は榊原雅紀といいます。29歳独身です。一年前に木下さんに助けられてから、木下さんのことが忘れられませんでした。僕と付き合ってくれませんか。もちろん、結婚を前提として!」
俺は呆気にとられてしまった。俺に紹介しろとか言ってなかったか? もろもろをすっ飛ばして告白かよ!
……勝手に動かれて急展開です。
変な人にしたのが悪かったのかな?
あっ、東野木が榊原と勝亦を先輩なのに呼び捨てにしているのは、二人が東野木に迷惑をかけたことが多々あったからです。そこで、
「おめえらなんか先輩じゃねえ。呼び捨てにしてやる!」
「おう。俺が認めてやるから、呼び捨てにしていいぞ」
と、所長にお墨付きをもらいました(苦笑)
さて、次話ではどうなることでしょうね。




