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1 雨の日の再会

 久しぶりに平日の休日。なのに空は曇天だった。まあ、それも仕方がないか。今は梅雨だものな。そんなことを思いながら、俺はアパートを出て歩き出した。


 用事を済ませた後、必要なものをあれこれと買っていたら、結構な量になった。でも、持って歩けない量ではないと思い、両手に荷物をぶら下げて店の外に出た。

 が、空を見上げたら、今にも降り出してきそうになっていた。これじゃあ、家に着くまでに買ったものが濡れてしまうかと思い、自宅への配送を頼むために店の中に戻った。夕方までに届けると約束され、それならついでとばかりにあといくつか追加で購入して、支払いを済ますと再度店の外に出た。


 俺が家に帰るまでもってくれよ、という願いは空しく、頬にポツンと雨が当たった。空を見上げると、すぐにポツポツからバラバラと大粒の雨が降ってきた。


 なので、俺は今出た店にまたまた逆戻り。仕方がないので傘を買って、もう一度外に出た。まあ、ある意味ちょうどよかったともいえるか。家にある傘はこの前のゲリラ豪雨的な雨で、傘の骨が一本変な風に曲がってしまったから。もう一つの折り畳み傘で誤魔化すには、最近の雨はひどい時はひどい降りになる。


 そんなことを考えながら歩いていたら、商店街が途切れるところのシャッターの降りた軒先に、女性が雨宿りをしているのが見えた。急な雨に濡れた髪や顔にハンカチをあてて拭いていた。その横顔に見覚えがある気がした。しばらく考えて出てきた名前を口にしていた。


「あれ? もしかして木下」

「えっ? あっ! 東野木(とうのき)君」


 彼女は驚いた顔で、俺の名前を言ってきた。どこかで見た顔だと思ったどころか、本人だったとは。彼女は高校の時のクラスメイトだった。


「久しぶり。……というか、木下ってこの辺に住んでいるのか?」

「そうなの。東野木君も?」

「そう、俺も。まさかこんなところで地元の同級生に会うとは思わなかったぞ」

「私もよ」


 高校を卒業して6年。大学を卒業した後、地元にも帰らずに、ましてその大学とは関係のない、地方の都市に就職を決めた俺。だから、こんなところで知り合いに、まして地元のやつに会えるとは思わなかった。


「なんで、木下はこんなところにいるわけ?」

「やだなー、それを東野木君が言う?」


 木下は俺の言葉に苦笑いを浮かべた。


「そんじゃ、別のことを聞くわ。木下は今、困ってないか」

「だから、それを口に出して言うわけ?」


 軽く木下に睨まれてしまった。けど、すぐに苦笑を浮かべて彼女は言った。


「もう! 久しぶりに話したいから、傘に入れてよ」

「いいけど、旦那さんに怒られないか?」


 彼女の申し出を、内心喜びながらカマをかけてみた。


「そんな人はいないわよ。ほら、入れてくれるの? くれないの?」

「それじゃあ、どうぞ」


 彼女が傘の中に入って来て、並んで歩きだした。


「本当に変わってないわね、東野木君は」

「木下は……怒りっぽくなった?」

「そんなわけあるかい。というか、その性格で仕事は困らないわけ?」

「あー、大丈夫。一緒に仕事している奴は、俺以上の変人ばっかだから」


 木下は呆れたような視線を俺へと向けてきた。


「変人なのを自慢する人も珍しいわよね」

「事実なんだから仕方がないさ」


 適当に家へと向かって5分くらい歩いてから気がついた。


「木下の家ってどこ? いや、その前に仕事は?」

「私は今日、仕事は休みを取ったのよ。で、家はこの方角よ」


 木下は歩いている先を指さした。


「そっか。なら同じ方向だな」


 俺は少しばかり安心して、速度を彼女に合わせるように歩いて行った。


「本当に、変わらないわね。あーもう、いい感じに脱力したわー」

「そりゃ、どうも」

「いや、褒めてないし」

「褒めてないのかよ」


 高校の頃に戻ったみたいに、軽口を言い合う。こんなだったなと、懐かしさに口元に笑みが浮かんできた。


 この後、木下の住むアパートと、俺の住むアパートが道を挟んで隣だった(ただし出入り口は同じ方向を向いていない)とか、実は仕事先が同じだったとか。それを知るのはもう5分歩いた後だった。


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