スキャン
ガンテツが、エルザとマーチを呼んでヒソヒソと話している。
更にルカが呼ばれた。そしてヒソヒソ。
「えー。みんな。いったん静かにしなさい。」
エルザが学生に話しかけた。
学生は静かになった。
「さっき、ザ・ストームの中でも重要な立場にある
ガンテツから懸念があるとの話があったわ。」
おや。ガンテツの観察スキルが何かを見つけたか?
「残念ながら、私の生徒の中に不心得者がいるようね。」
学生たちはザワついている。
(不心得者?)
(だれ?)
「これより、ロードであるルカがターンアンデッドによって
邪悪な考えを持つものをスキャンするわ。みんな、いいわね?
安心しなさい。邪悪な考えを持っていなければ何も起きないわ。」
邪悪な考えって…。
重低音でぐふぐふ言ってたあの2人だろうな。
ガンテツにとっては腐った波動が邪悪なのかな?
まあ、生きている人間にターンアンデッドをかけたぐらいでは、
たとえ腐った波動を持っていても、
せいぜいピリッと感じるくらいだろう。
ガンテツからオレに声がかかった。
「ウノも手伝うのじゃ。ルカとウノがダブルで
本気のマキシマイズドターンアンデッドじゃぞ。」
エルザ、マーチ、ルカが驚いた。
ガンテツが今、更に邪悪な気配に気づいたということか?
オレはルカの傍に移動する。
じゃあ、やりますか。
オレとルカは頷いた。
(マキシマイズドターンアンデッド!)
「マキシマイズドターンアンデッド!」
「ヒィイイイイ!」
1人の男子生徒が逃げ出した。
「そいつじゃ。不心得者は。」
不心得者は腐った波動の女子2人じゃなかった。
・・・
ゲイルが逃げ出した男子生徒を縛り上げた。
「エルザ。こいつは何者じゃ?」
ガンテツが問う。
「何者っていっても…。アタシの生徒…。じゃないわね。」
え?
エルザの生徒を連れてきたんだろ?
学生たちはザワついている。
(あいつ、誰だ?)
(あんなやつ、いたか?)
(俺は知らないけど、みんな知ってたんだろ?)
(いや。知らないし。)
(誰?アイツ。)
(見たことない顔ね。)
(いつの間に紛れ込んでいたの?)
うーむ。
人数が多くなると、こういうことが起きるのか。
ガンテツが逃げ出した男子生徒の目を覗き込む。
ヤツはガンテツの目を恐れて、顔を背けた。
怪しい。
「むう。目を背けるのであれば、耳で確かめるとしよう。」
何が始まるんだ?
「盗み。」
「殺し。」
「調査。」
ビクッ。ヤツが反応した。
「調査か。では何の調査かのう?」
どうやら言葉を使ったスキャンのようだ。
「戦い方。」
「新製品。」
「スキル。」
どれも反応しなかった。
厳密に言えば反応に差が無かった。
「むう。調査したいものに、他に何があるというのか。」
いずれにせよ、
ザ・ストームのパーティメンバーを
調査したいんだろう?
名前でスキャンしたらいいと思う。
「なるほど。さすがウノじゃな。」
ビクッ。ヤツが反応した。
え?オレ?
ガンテツがオレたちパーティメンバーの名前を呼ぶ。
「ゲイル。」
「ミラ。」
「ガンテツ。」
「ステラ。」
「ルカ。」
「リリーナ。」
「エルザ。」
「マーチ。」
「シロ。」
「ウノ。」
ビクビクッ。ヤツがまたオレの名前に反応した。
なんでだよ。
オレは、お飾りのちっこい子供だぞ。
・・・
「まあ。真実を言えば、こやつは邪悪ではない。」
どういうことだ。
エルザがさっき言ってただろう?
「邪悪な考えを持っていなければ何も起きないわ。」
って。
「真に邪悪なもの。たとえば悪魔であれば邪悪こそが日常。
他者の言う善悪など歯牙にもかけん。笑い飛ばすだけじゃ。」
え?
でも、コイツはターンアンデッドで逃げ出したじゃん。
「高位のアンデッドであれば、ターンアンデッドは
レジストできるかどうかの瀬戸際だから逃げるじゃろう。
だが恐怖は感じぬ。常に理性的じゃ。」
ほうほう。
たしかにリッチは「馬鹿ナ…」的なことは言ったが、
常に理性を保っているように思えた。
「悪魔であれば、ターンアンデッドごとき、
かゆいぐらいのものじゃろう。逃げるほどではない。」
なるほど。
コイツはアンデッドでも悪魔でもない。
人間ってことだな。
「こやつは善悪の判断がつく常識人じゃよ。」
なるほど。
自分を悪だと思っているやつは良心を持っている的な話?
「そのとおりじゃ。」
自分を善だと思っているやつは邪悪ってことはある?
「それは関係ない。」
よかった。
オレ、けっこう自分を善だと思ってたからさ。
安心した。まあ偽善かもしれないけどな。
それでコイツは、
本当は邪悪じゃないけど自分を悪だと思ってたから
逃げ出したのか。善悪の判断がつく良いやつじゃん。
まるで禅問答だな。
「ただこやつに命令した者は悪じゃろう。
何か人質を取られたのかもしれん。」
ヤツはビクッと反応した。
人質か。
人質を取られているのであれば、話そうとはしないだろう。
ただ任務を失敗した以上、人質の扱いがどうなるか心配だ。
ガンテツが重厚な声で問う。
「命令者は、悪の中で秩序をもたらす者なり。」
…。
「命令者は、悪の中で混沌をもたらす者なり。」
ビクッ。
なるほど。悪の混沌勢力か。
善悪は主観そのものだが、秩序と混沌は主観が入りにくい。
コイツの善悪の主観はオレたちと近いだろう。
オレたちが考えるところの悪の混沌勢力で間違いないな。
・・・
悪の秩序勢力は、魔王のように体制を構築する。
魔王が勝てば魔王が善となる。
損得に敏感で、どちらかと言えば対話可能なほうだ。
悪の混沌勢力は、享楽的な悪魔が該当する。
あまり対話の意味がない。考えがころころ変わるからだ。
善の秩序勢力は、たとえば教会のように体制を構築する。
教会が負ければ教会が邪教となる。
損得に敏感で、どちらかと言えば対話可能なほうだ。
善の混沌勢力は、たとえば狂信者だ。
あまり対話の意味がない。考えが変わらないからだ。
この類の話では、
「絶対正義」とか「絶対善」とか「絶対悪」とかが
議論されるが、すべて相対的なものであり不毛だ。
全部、元の世界の異世界小説とゲーム設定の受け売りだけどな。
とりあえず、コイツに命令した者は
享楽的な悪魔といえる存在で損得は気にしない
とオレは理解した。
・・・
オレには享楽的な悪魔に心当たりがない。
なぜ調査されるんだろう。
「では享楽的な神に心当たりがあるのでは?」
ステラ。
オレが知ってる神様は白いヒゲのジジイだけだ。
享楽的とは思えないな。
「ですって。」
ステラがニコッと笑った。
ん?なんだ?
善悪で言えば、オレにとっての善と思えたな。
秩序か混沌かで言えば中立だろうな。
秩序と混沌を取り持つ存在みたいな。
見た目と声の第一印象、ごくわずかな対話で使われた言葉、
そういうのから判断すればな。
「とりあえずワシらには被害が無かった。
こやつの顔も覚えた。情報を与えて解放してやろう。」
ガンテツとステラが懇切丁寧に情報提供していた。
2人ともけっこう親切だよな。
「ウノは戦力としては微妙。マッサージが上手。」
「ウノは手先が器用だが上級魔法が使えんぞい。」
「ウノが得意とする土魔法はストーンオブジェクト。」
「ウノの氷魔法は初級魔法と中級魔法だけじゃ。」
「ウノの神聖魔法はターンアンデッドだけ。」
「ウノは掃除、洗濯、料理が得意で家政婦的な位置づけじゃな。」
「ウノは奇抜なアイデアを出すけどビジネスには興味ゼロ。」
「ウノの従魔はウノより格上じゃ。むしろ従魔がリーダーじゃ。」
おーい。
全部真実だけどさ。
もう少しマイルドな表現にしてくれないかな?
あとさ。個人情報保護法って知ってる?
知らないんだ。じゃあ仕方ないな。
とほほ。




