徹甲榴弾
オレはルカと一緒にリッチと戦った時に痛感したんだよ。
火魔法じゃない炎が欲しいって。
「ウノが火球杖を撃てるようになるのが一番なんと違うか?」
マーチ。
わかる。
だけど違うんだ。
それはミラ、エルザ、ルカ、リリーナ、マーチの
5人がすでに出来ることなんだ。
同じことを6人が出来るようになるより、
別パターンも用意しておきたいんだ。
「そうか。ま。そうやろな。」
「何かアイデアがあるんじゃろう?」
まあな。
マシンガンを改良しようと思ってる。
「ふむ。ファイアボルトバージョンかのう?」
それも考えたけどね。
違うぞ。
まず、ストーンバレットの石弾の形状を変える。
徹甲弾だ。
「初めて聞く言葉じゃのう。何じゃ?」
「分厚い装甲を貫通できるように考え抜かれた弾だ。」
ゲイルが代わりに答えてくれた。
徹甲弾の形状にしておいて
フロストジャイアントの硬い体表の氷を破り、
体内で爆発するように工夫する。
爆発する徹甲弾を徹甲榴弾という。
「そんなん夢物語やん。できるんか?」
できる。というか作る。
「フロストジャイアントはドラゴンと並ぶ強者じゃ。
その体表の氷を破るとなると
ドラゴンの鱗を貫くほどの威力を目指すことになるぞい。
それでも作るのかのう?」
作るさ。
オレとガンテツとミラ。
ゲイル、ステラ、ルカ、リリーナ、エルザ、マーチ。
ガンテツの仲間のドワーフ。ステラの仲間のエルフ。
みんなが力を合わせれば大丈夫。
絶対に作る。
・・・
マシンガンを改良するにしても手のひらサイズは無理だ。
そこは大胆に最初から諦めた。
目標サイズは某ハンティングアクションゲームのヘビィボウガン。
大きさはミドルタワーPC。重量は15kg。
これが戦闘時に人間ひとりで持ち歩ける最大だろう。
それを目標に開発しよう。
魔法回路のベースはワンドオブストーンバレット。
ストーンバレットは3つの石弾を発射するが今回は石弾1個にする。
石弾を精緻に成型するためにストーンオブジェクトの魔法回路を追加。
オレはマキシマイズドストーンオブジェクトが使えるので
概念を反転してミニマイズドマジック版の魔法回路を作った。
ミニマイズドマジックにより石弾の更に精緻な成型が可能になり、
消費MPも節約できた。
節約テクニックでミラの魔法知識が役立った。
消費MPの節約によりミニマイズドストーンオブジェクトは
初級魔法相当になった。ラッキーだ。
この2つの魔法回路で、マジックユニット2つを使う。
すなわち2つのマジックユニットには、
それぞれストーンバレットと
初級魔法相当のミニマイズドストーンオブジェクトを
チャージするのだ。
それからガンテツにお願いして木工秘伝で砲身を成型してもらった。
内部にライフリングを施した木製の砲身だ。
テスト用の石弾を風魔法で押し出してライフリングを調整。
ガンテツの木工秘伝は、気に入らなければ何度でも
ぐにゃぐにゃ変形出来るのでプロトタイプには最強だ。
3Dプリンターなんて目じゃないぜ。
調整完了したプロトタイプ砲身をドワーフ仲間に渡して
ミスリルで鋳造してもらうことにした。
オーク王国殲滅時のミスリルインゴット1本を使った。
・・・
問題はドラゴンの鱗なみのフロストジャイアントの
硬い氷の体表を、どうやって貫くか。
どうやって爆発させるか。
硬化。
加速。
爆発。
オレとガンテツとミラは煮詰まった。
こういう時は3人だけで考えても進展しない。
「加速は、加速門、すなわち
アクセラレーションゲートの魔法があればと思うが、
あれは異世界小説のネタだしな。」
ゲイル。
そうだな。
仮想砲身で電磁誘導とかやりたいな。
「以前ウノが換気扇を作ってたわね。
あれは使えないの?」
おっと。
使える。送風機がある。
半径を石弾サイズにしたら加速できそうだ。
ありがとう。ステラ。
「どういたしまして。」
あとは弾の硬化と爆発か。
「爆発と言えば、気化しやすい液体燃料だな。」
ゲイル。
そうだな。
いちおうアルコールはあるぞ。
「アルコールが、ある、こおる。」
シャレか。
「凍っているアルコールはどうだ?」
うん?
シャレでなく真面目だったらしい。
アルコールは凍らないだろ?
「純粋なエタノールは-114度くらいで凍るぞ。
アルコール濃度が70%なら-50度くらいで凍るぞ。」
凄え。
ゲイルってそんなの知ってるんだ。
「酒関連のうんちくだな。」
だがなあ。
フロストジャイアントは氷の塊。
アルコールじゃ発火しないぞ。
「発火でなく引火の話になるが、
純度90%以上のエタノールは17度くらいで引火する。
きわめて引火しやすい。これもうんちくだな。」
ゲイル。
酒に詳しすぎるだろ。
まあ。液体燃料を固体化して撃ち込むってのは面白いな。
「爆発というのは体積の膨張よね。
体積の膨張が目的なら
燃焼しなくてもいいんじゃないかしら?
例えば水蒸気爆発とか。」
うおっ。
エルザ。
水蒸気爆発を知ってるの?
「アタシは水魔法と火魔法を使えるわ。
水と火を複合する目的は、水蒸気爆発なのよ。」
エルザは自慢げだ。
たしかにそうか。
徹甲弾は元の世界では対戦車砲。
ガンテツにはドラゴンの鱗を貫く威力が目標って
言われたけど、
実際のところ今回は対フロストジャイアントの兵器だ。
体内での爆発が一番の目的なんだ。
フロストジャイアントの体表の硬さは一定じゃなく、
温度によって変化するかもしれない。
かもしれないじゃなくて、変化するのは確実だな。
なんせ氷だ。
そうなると、いろいろ考えが変わってくるな。
道が見えてきた気がするぞ!
・・・
弾の加速は送風機の半径を石弾サイズにしたら
十分に加速できた。ラッキーだ。
元々ストーンバレットの加速機構は加速門の魔法に
近いみたいだ。同じ加速の概念を重ねるのでなく、
送風機が物理的に風を送るのが良かったんだろう。
ロケットのような加速効果を生んだ。
弾の爆発は甲乙つけがたい2つのアイデアが出てきたので
ミスリルの砲身をもう1本、ドワーフに追加発注した。
風魔法か神聖魔法の結界を仮想砲身に転用出来れば
貴重なミスリルインゴットを使用せずに…。
…これは脱線思考だな。
残りのミスリルインゴットは1本か。
やっぱりミスリル入手はダンジョン攻略の目的のひとつだな。
・・・
弾に関する1つ目のアイデアは酒弾。
オレのブリザードでエタノールと水の混合物を凍らせて
ダイアモンドダストで粉体とする。
この粉体を徹甲弾の素材とする。
ストーンオブジェクトは石を魔法で作るだけじゃなく、
粉体の素材を用意すればそれを石同様に成型できる。
氷魔法と土魔法は相性がいい。ラッキーだぜ。
エタノールと水の混合の比率は50%にした。
これだと-40度くらいで凍る。
オレのブリザードは-50度くらいまで冷えるので問題ない。
そういえば、鑑定スキルで混合の比率や温度を
何気なく見てるけど、やっぱり凄いテクノロジーだな。
元の世界よりはるかに実験しやすい。
ちなみに50%エタノールの引火点は24度くらいだった。
発火点はもっとずっと高く、実験によると500度くらいだ。
ちなみにアルコールランプの中心の青いところは
1000度くらいだ。周りの赤いところは600度くらいだ。
エタノールの燃焼の化学反応は
C2H6O+3O2(酸素3)
→3H2O(水3)+2CO2(二酸化炭素2)
となる。
水3と二酸化炭素2が発生する。
最初の引火には火魔法を併用するが、
アルコールが燃え始めたら発火点の500度に達する。
そうしたらアルコールの燃焼は連続する。
もうこっちのもんだ。
・・・
弾に関する2つ目のアイデアは生石灰弾。
生石灰の粉体を徹甲弾の素材とする。
生石灰すなわち酸化カルシウムの水和による発熱は、
水だけが必要で、酸素は不要。
って前もどこかで説明したな。
この発熱は最大で150度まで上がる。
生石灰弾は、フロストジャイアントの体表で
たとえ砕けたとしても粉状になって水に触れて発熱し、
体表の温度が上昇する。結果として硬度が低下する。
そうすれば連射により体内まで届く。
という仮説に基づいて開発した。
ガンテツによると仮説は正しいとのことだ。
・・・
酒弾と生石灰弾は、実験で甲乙つけがたいので、
両方を併用したらどうか?という話になった。
片方は水が発生し、もう片方は水を必要とする。
実験してみると併用の効果は高かった。
ミスリルの砲身を2本発注して良かった。
さらに威力をあげるとなると、
単純にガトリング砲のように連射するのが一番効果的
という結論になった。
それでマジックユニットを100個搭載可能にした。
マシンガンの時に作ったマジックユニットの流用だ。
これで500連発できる。
弾のための粉体は別ユニットによる供給とした。
別ユニットにすることで酒弾と生石灰弾が相互運用可能だ。
1粒で2度美味しいってやつだ。
もしも長期戦になる場合はマジックユニットと粉体を
大量に用意しておく。
100個のマジックユニット交換と粉体補給には2分かかる。
2分で戦線復帰できて500連発なら充分だろう。
本体サイズと重量は目標を達成出来た。
よかった。
性能は期待以上。
やっぱり科学知識と魔法知識の複合ってのはチートだな。
おーい。ガンテツ。
ガンテツ師匠!
悪いけどマジックユニット100個追加で。
オレは粉体を用意するから。
え?
弾1発100gを1000発分だから100kgだって?
わ、わかってる。
わかってたさ。
火酒200kgと生石灰100kgを買いに行ってくる。
ーーー
(文章内の化学知識は小説内の独特のものです。
現実世界においてアルコールの燃焼や
大量の生石灰の水和はきわめて危険です。
危険な実験は絶対にしないでください。)
7/9。修正。ステラが仲間外れになっていたので追加。




