3人のパーティ
昼食には少し早いが、リンゴでも食おう。
オレはアイテムボックスからリンゴを2個取り出し、
ミラに1個手渡した。
「ありがとう…。食べていいですか?」
オレは頷いた。
1個はオレが食う。
シャキシャキして美味い。
「それで、この後どうする?」
ゲイルは、ダンジョンを脱出するか、それとも進むのか、
パーティの方針を決めたいのだろう。
賛成だ。
そしてオレの意見は決まっている。脱出だ。
ミラと出会って、幾つか分かったことがある。
まず、セーフエリアはモンスターに襲われることがなく
安全地帯だということが分かった。
ミラを襲ったゴブリン剣士は、
セーフエリアに逃げ込んだミラを諦めて去ったとのこと。
ミラの状態が瀕死だったことから、
ただ単純にセーフエリアで過ごしていても
HPもMPも回復しないことがわかった。
オレがセーフエリア内で肩もみすれば
HPもMPも回復するのが分かった。
ミラはHPもMPも全回復済みだ。
ミラはもう足手まといではない。
3人パーティで脱出するのは問題ないだろう。
「よし。脱出で決まりだな。ミラもそれでいいな?」
ミラも頷いた。
ついさっきまで死にかけていたんだもんな。
当然だろう。
おおっと。
セーフエリアの床がミラの血で汚れたままだ。
床の血はヒールでは消えないんだな。
脱出前に拭き掃除だ。
きれいな布をナイフで切って小さい布片にして、
水筒の水で湿らせて拭き掃除する。
木板にえんぴつで「ミラ+2人で脱出する」と書き置きした。
これで助けを呼びに行ったロードが戻ってきても大丈夫だ。
よし。3人でダンジョンを脱出しよう。
・・・
ここで視点はダンジョンから脱出したロードに移る。
ロードは必死に自分に言い聞かせていた。
あのエルフは足手まといだった。
エルフのくせに、魔法使いのくせに、MPが少なすぎた。
期待外れもいいところだ。
吾輩とパーティを組むには、あいつは力不足だった。
すなわち弱者だ。
所詮この世は弱肉強食。
生き残るために弱者を見捨てるのは仕方ない。
別段、吾輩が直接殺すわけではない。
弱者が死ぬのは自然の摂理なのだ。
強者は弱者を助けるべきなど世迷言に過ぎない。
たとえ同じパーティだとしても、自分の命より大事なものはない。
甘ったれた考えでは自分が死ぬ。
死んでしまっては意味がない。
吾輩は死ぬわけにはいかぬ。
吾輩は異世界転生者。
神に選ばれし者。
そして栄光あるロードになりし者。
生きているだけで価値があるのだ。
有象無象とは命の重さが違う。
そうだ。あのエルフは有象無象。
既に死んでいるだろう。
・・・
ロードは、戦闘経験が少なかった。
異世界転生時の初期資金である2000ゴールドの多くを使って、
ベテラン冒険者のパーティに入れてもらい、パワーレベリングさせて貰った。
これで経験値稼ぎには成功したものの、
彼は戦闘にほとんど貢献していないので、
討伐報酬として冒険者ギルドから貰えるゴールドは微々たるものだった。
この世界ではモンスターがゴールドをドロップすることはなく、
討伐報酬のゴールドは冒険者ギルドから支給される。
戦闘時の経験値はパーティで共有されるが、ゴールドは個人管理なのだ。
そのことに気づいたのは随分パワーレベリングしてしまった後だった。
先日ようやく必要なパラメーター値を満たし、
念願のレベル1のロードになった。
彼のパラメーターは以下のようになっている。
◆ロード:レベル1
最大HP 22, 最大MP 14, STR 16, INT 14, AGI 14, DEX 12
(合計:92)
ウノとゲイルのパラメーターと比較するとこうだ。
パラメーターはロードの方が上でバランスも良い。
◆ウノ:僧侶:レベル2
最大HP 10, 最大MP 11, STR 5, INT 10, AGI 6, DEX 31
(合計:73)
◆ゲイル:戦士:レベル2
最大HP 11, 最大MP 7, STR 16, INT 8, AGI 16, DEX 7
(合計:65)
・・・
ロードになった彼は、ベテラン冒険者のパーティとの約束通り、それで別れた。
彼はひとりぼっちになった。
彼は強くなるのはロードになってから、と考えていた。
上級職のロードならば、下級職とパーティを組むのは容易いと思っていた。
彼は気づいていなかった。
戦士という職業が持つ「戦力把握」のスキルは
モンスターだけでなく冒険者仲間の強さも把握できることに。
戦士ならば戦力把握スキルを誰しも持っているということに。
強さとはパラメーターが全てではないということに。
適切なスキルを持っていないロードと組もうという戦士は皆無ということに。
彼は、ロードになる前にゲットした貴重なスキルポイントを
大声、威圧、弁明、詐術、論破、スキル隠蔽
といったスキルに消費してしまっていた。
それらのスキルはベテランの冒険者パーティのメンバーと対等以上に
会話するために必要だったのだ。
少なくとも彼は必要だと思っていたのだ。
本来、ロードを目指す戦士ならば、
挑発や大盾術のスキルを最優先で取得すべきなのだが、
ベテラン冒険者のパーティにパワーレベリングさせて貰っている状況では
強力なモンスターを相手に挑発スキルは自殺行為と思えたし、
大盾を買う金は無かった。
たしかに彼は念願のロードになった。
ロードになってからが冒険者としてのスタートであると
自分で決めていたはずなのだが、
スタートするための準備をしてこなかった。
元々傲慢な性格はロードになったことで更に傲慢になり、
ミラを助けるために冒険者ギルドに相談するという考えも無かった。
・・・
「あっ、ロードさん。」
ロードはビクリと肩を震わせた。
(エルフの魔法使い!死んでいなかったのか?)
(まさかあの状態から助かるとは思っていなかったぞ。)
(死にぞこないめ。)
(ゴホン。)
ロードはどこまでも傲慢だった。
「いま、冒険者を雇って助けにいくところだったのだぞ。
助かって本当に良かったな。」
ロードは弁明スキルと詐術スキルを使った。
この2つは彼がもっとも得意なスキルだ。
「ミラの後ろにいる、ちっこい子供よ。
吾輩をジト目で見るんじゃない。
栄光あるロードに対し失礼であろう。」
ロードは威圧スキルを使った。
このスキルも彼が得意なスキルだ。
ロードという職業が持つ「指揮」スキルは、
パーティの攻撃力を大幅に上昇させる強力なものだが、
悲しいことに活かされることは無かった。




