オオカミ
「縄張りを荒らされ逃げ場を失ったオオカミはどうなるかしら?」
かつてステラが言っていた言葉だ。
オレたちは第六階層の森林地帯の攻略を進めている。
森林地帯に砦を作り、オオカミの縄張りを荒らして逃げ場を奪った。
逃げ場を失ったオオカミたちの行動は変わった。
ゲイルとマーチが少数の群れを釣ろうとしても、かからない。
オレたちを発見しても遠回しに見ているだけだ。
襲い掛かってこない。
群れ全体で500匹くらいだろう。
群れ全体をひとつの生物と考えて行動しているのだ。
今は襲い掛かってこないが、いつか逆襲してくるだろう。
逆襲のタイミングを予測できないだろうか?
「オオカミの気持ちになれれば、あるいは。じゃな。」
ガンテツが諭すように教えてくれた。
オオカミの気持ちか…。
仲間を殺され、住処を奪われ、満足に眠れず、飢える。
生き地獄だな。
生き地獄の中で起死回生を図る。
起死回生のタイミングは、かねてから意図したものか、
それとも偶然か。
偶然…。
偶然の出来事…か。
・・・
オレはパーティのみんなに自分なりの考えを話した。
オレはオオカミが逆襲してくるタイミングを
自分たちでコントロールしたい。
いろいろな意見が出たが、パーティとしての行動方針は決まった。
オオカミが逆襲してくるタイミングを
コントロールする目途は立った。
今、このタイミングでは、少し早い。
時期尚早だろうというのが全員の見解だ。
もっと砦を作り、もっと逃げ場を奪おう。
・・・
「オオカミも焦れてきておるのう。」
ああ。
群れ全体をひとつの生物として考えるにしても限界がある。
人間はひとりでも葛藤する。
本能を理性で抑え込み、
無意識を意識で抑え込もうとする。
オオカミであれば抑え込めるだろうか?否。
人間よりは上手だが、今や限界に達している。
「頃合いだな。」
「頃合いですぅ。」
「ですね。」
「そうね。」
「さあ行きましょう。」
「出番よ!」
「せやな。」
・・・
オレたちは砦を作り始める。
しかしハプニングが起きた。
マーチの肩がゲイルにぶつかったのだ。
「このやろう。何しやがる!」
「なんや。やるんか?」
「おう。相手してやる。かかってこい。」
ケンカだ。
殴り合いのケンカだ。
マジで殴りあっている。
2人とも口の端を切っている。
周囲に血の匂いがしだした。
オレは、ここ一帯の空気にアドレナリンの気配を感じた。
「2人ともやめて!」
ルカが叫ぶ。
心をザワつかせる声だ。
嫌な予感が際限なく高まる。
その時、ステラがやぐらから落ちた。
「キャァ!!」
リリーナが叫び声をあげる。
ステラの口から大量の血が噴き出す。
ごぼっ。
濃密な血の匂いが一帯に満ちた。
オレは吐き気がした。
エルザ、ミラ、どうした?
オオカミを警戒してるか?
ガンテツはどうした?
なんで。
なんでこうなった?
・・・
WOOON!
オオカミの遠吠え。
濃密な血の匂いに我を忘れたのだろうか。
オオカミが今まさに逆襲を開始した。
500匹の群れがオレたちに殺到した。




