特訓
これはウノたちがドワーフの里に行っている間のことや。
ルカとリリーナは毎日のようにダンジョンに経験値稼ぎに行っとった。
第五階層の真・セーフエリアで休憩しているところに
わいとエルザで激励しに行ったんや。
エルザが2人に話しかけたんや。
「これから、ルカとリリーナの特訓よ。」
わいは激励のつもりやったんや。
特訓するつもりなんて、なかってん。
エルザは大きなバッグから火球杖と稲妻杖を何本か取り出したんや。
真・セーフエリアから近い空き部屋に2人を連れていって、
ルカに稲妻杖を、リリーナに火球杖を渡したんや。
「さあ。向こうの壁に撃って。」
「え?」
「えぇ?」
ルカもリリーナも困惑しとった。
ルカは雷魔法を使えんし、リリーナは火魔法を使えん。
撃てと言われても困るやん。
「いい?大事なのは知識じゃないわ。」
エルザは魔法学校の現役の教師や。
知識も持っとるし、技術も持っとる。
そんなエルザが言うんやから、今回大事なのは技術なんやろな。
「大事なのは気合よ。」
ずこーっ。
なーんやそれ。
教師が言ったら一番あかんやつや。
「この杖には、すでに魔法が込められているわ。
わかる?必要なのは、撃つ、ただそれだけよ。」
うーん。
わいにはわからんでもないが、それで通じるか?
撃て、て言われてもな。それじゃあわいも撃てないで。
それにな。
ルカもリリーナもギルド職員だったくらいの真面目人間やで。
真面目人間っちゅうのは常識人間でもあるんや。
常識というのは一種の思い込みや。
出来るはずがないという思い込みが邪魔するんや。
「てい!」
「やあぁ!」
まあ。
撃てないやろなあ。
ほなわいが手助けしたろか。
「エルザ。リリーナは稲妻杖の方がいいで。渡したり。」
エルザがリリーナに稲妻杖を渡す。代わりに火球杖を受け取る。
わいは上着を脱いで床に置いた。
「リリーナ。この上着をゲイルだと思って、稲妻杖を撃つんや。」
「えぇ?」
「床に撃っても、少しビリッとするだけやで。怪我せえへん。」
「えぇ?仮とはいえ、ゲイルを撃つんですかぁ?」
「そうや。でも、このゲイルは、心臓が止まっとる。」
「死んでるんですかぁ?」
「まだ死んどらん。心臓が止まってから5分というところや。
稲妻杖を撃てたら心臓が動き出し、命を取りやめるやろうな。
稲妻杖を撃てなかったら、ご臨終やな。
しっかりせえ。ゲイルが生きるか死ぬかの瀬戸際やで。」
わいの話を聞いて、
リリーナは必死になって稲妻杖を撃とうとしとった。
今後、そういう状況があるかもと考えたのかもしれん。
バリバリバリ!!
リリーナが稲妻杖を撃ったんや。
ルカもリリーナも大喜びやったで。
「あかんあかん。上着に穴が開いてまう。回収や。」
「さすがアタシの旦那ね。女心をわかってる。」
カミさんに褒められても…。
いや。
めっちゃ嬉しいやん。
もっと褒めてくれや。
「ルカはどうするの?」
エルザ。
お前が言い出した特訓や。
少しは考えなあかんで。
「ルカは好きな男は…おらんか。そうか。」
わいはけっこう考えたんや。
「ウノとミラとガンテツの3人が同時に心臓止まったらどうや?」
ルカの顔は蒼白や。
想像力たくましいやん。
これならいけるで。
わいは上着を床に置いた。
「心臓が止まってから5分が勝負や。稲妻杖を撃って心臓を動かすんや。
3人おるからな。頑張って3人とも助けるんや。」
ルカは必死やった。いや、必死そうに見えた。
稲妻杖を握りしめ、
右手を振っては「えい!」とか「やあ!」とか気合を入れとる。
あかん。
気合が足りん。
わずかに足りん。必死とは必殺なんや。
「これくらい言うんや。」
エルザから稲妻杖を1本借りる。
「エルザが死ぬならわいも死ぬで!」
バリバリバリ!!
ほらな。わいでも稲妻杖を撃てるやん。
まあ。
わいはエルザの全てを信じとるからな。
当然や。
「ウノが死ぬなら私も死ぬわ!」
あかん。
「ミラが死ぬなら私も死ぬわ!」
あかん。
「ガンテツが死ぬなら私も死ぬわ!」
あかん。
単独では足りんのやな。
これならどうや。
わいはルカに耳打ちする。
ヒソヒソ…。
「クソガキどもとクソジジイ。生きるか死ぬかはっきりしろ!」
バリバリバリ!!
やったやん。
それや。
ルカの本質はそれやで。
わいは上着を回収する。
「とほほ。大事な上着に穴が開いてもうた。」
エルザが近づいてきた。
「ねえ、マーチ。魔法学校の教師にならない?」
「わいは冒険者や。教師やないで。」
修正:ゲイルさん→さん削除
7/9。炎球杖→火球杖




