ダンジョン管理者の悩み
ダンジョンアパートでオインクの父親オーヤさんが見つかった。
オインクとオーヤさんの親子の再会に喜ぶオレたち。
だが、ダンジョン管理者であるアインは自信喪失していた。
(私自身がダンジョン管理が下手なのです。)
(せっかくのダンジョンアパートに住人がいないのですから。)
アインは周りの全員に聞こえるように念話した。
オレはいつも通りのダダ漏れだ。
・・・
うーん…。
ダンジョン管理者がアパート経営に悩む。
この悩み、アインに関係あるか?オレにはピンとこないな…。
アインが困っていることは理解できたけど…。
なあ、アイン。
ダンジョンアパートに住人がいるとどんなメリットがあるんだい?
(冒険者が住んでくれれば、DPすなわちダンジョンポイントがガッポリです。)
DP?ダンジョンポイント?
ダンジョン管理で使うポイントか。
DPをアイテムに交換したり、もしかしてDPを使ってガチャを回したりするのか?
ガチャで強力なモンスター、例えばシルバーウルフを召喚できたりして。
(…よくご存じですね。)
うん、そういうの知ってるんだ。
いつも通りの異世界小説のテンプレ展開。
あとは、そうだなー。
例えばさ。
あくまでも例えばだぞ?
ダンジョンの入口から、美しい幼女がトコトコ歩いて
第六階層にやってきたとする。
繰り返すが、見た目は幼女。
実は中身は最強のドラゴン。
人化の魔法で幼女の冒険者に化けてる。
そのドラゴン美幼女冒険者がダンジョンアパートを気に入ったと仮定しよう。
アパートの住人になってくれて連泊してくれたら、DPがガッポリ儲かったりするか?
(それはもう夢のような展開ですね。ガッツンガッツン儲かります。)
普通の冒険者5人組が住んだ場合は?
オレはゴブリンバスターズ5人組をチラ見した。
(まずまず儲かります。)
オレたちが住んだ場合は?
(神4柱については儲かりません。
このダンジョンはパワーレベリング目的なのです。
神はパワーレベリングする必要がありませんから対象外となります。
神以外の7人は冒険者なので、まずまず儲かります。)
神4柱とは、ルカ、たま、シロ、オレが該当する。
そして神以外の7人とは、オレとルカの子であるガーベラ、
オーヤさんの息子であり豚頭族のオインク、兎耳族のラビィ、
ホビットのクルマニーとポピー、
さらに真菌義人ググリ、細菌義人キアの合計7人だ。
ダンジョン管理側としてはググリとキアは冒険者扱いになる。
義人は冒険者、これは勉強になった。
ふむふむ。
(ゴーレムの範疇から逸脱していますから。)
なるほど。
ところで、オーヤさんが大家というかアパート管理人として住んでるよな。
オーヤさんではDPを入手可能なのか?
(冒険者ではないので、DPは入手できません。)
じゃあさ。キャプチャーしたモンスターがダンジョンで生活してたら、
DPを入手できる?
(いいえ。ダンジョン防衛モンスターとしてキャプチャーしていますからダメです。)
じゃあさ。第七階層のスノーウルフが繁殖して増えたら、DPを入手できる?
(入手できません。スノーウルフは冒険者ではないですから。)
シロの時みたいに、冒険者にテイムされた場合は?
(冒険者パーティのメンバーなので、冒険者扱いになります。
その場合はダンジョンを攻略していることになるため、DPを入手できます。)
オレは何か光が見えたような気がした。
だが、気のせいかもしれない。とりあえず忘れよう。
ところで、キャプチャーするとき、DPを消費する?
(消費します。)
ふむ。オレが読んだ異世界小説の設定とかなり近い。
その小説において魔王がDPを入手するには、
「冒険者がダンジョンを攻略中」
と見なせるような状況が必要だった。
冒険者は必ずしも本気でダンジョンを攻略せずとも構わなかった。
ダンジョン内に旅館を用意して高レベルの勇者を接待することで、魔王がDPを稼いでいた。
(私は魔王ではありません…。)
ごめん。そういう意図で話したわけじゃない。
ところで、第五階層の真・セーフエリアで休憩してる冒険者は?
(真・セーフエリアでは、ダンジョン攻略中という扱いにはなりません。)
アインから残念そうな念がオレに届いた。
…そっか。
このダンジョン管理システムに抜け道というか仕様上のバグがあって
ダンジョンアパートを上手く経営できれば、
DP稼ぎでチートできると思うけれど現状は上手くいっていない。
オレがチートについて思考を巡らそうとした、その時。
ルカがオレの耳に囁いた。
(ウノ。そろそろ時間です。)
そうだった。帰宅の時間だ。
あのさ、アイン。
オレたちは、そろそろ帰宅する時間なんだ。
創世の女神アイアが空間転移してオレたちを迎えにきてくれる。
だから、また明日、来るよ。
(明日も?やった!やりました!///)
オインクはどうする?
「僕は今晩、このアパートで1泊したいです。
父さん、アインさん、どうでしょうか。ウノさん、いいですよね。」
もちろん、いいぞ。
「いいに決まってる。」
(ぜひぜひ!///)
オーヤさんとアインは嬉しがっている。
アインの声色は顔を赤らめていそうなくらいだ。
オーヤさんが胸を張った。
「アパートの部屋はきれいにしてますし、ベッドも布団もあります。
風呂も沸かしますし、食事も出します。1泊10ゴールドでいいです。」
これは安い!
これはお得!
オーヤさんがニカッと営業スマイルする。
「出血大サービスです。」
ほい。10ゴールド。
オレはアイテムボックスから10ゴールドを取り出しオーヤさんに手渡した。
オインクの宿代ね。
「あっ!」
オインクは自分の財布からお金を取り出そうとしていたが、
オレが押しとどめた。
ゴブリンバスターズの5人組はどうする?
今晩の選択肢としては4つある感じだ。
・ダンジョンを脱出する。
・第一階層のセーフエリアで休憩する。
・第五階層の真・セーフエリアで休憩する。
・このアパートに1人1泊10ゴールドで泊まる。
そんな感じ。
すると…。
くるり。
ルカの隣の空間がくるりと反転した。
おおっと。時間だ。
女神アイア、今日もありがとう。
「どういたしまして。」
女神アイアはルカの傍に立っている。
「あら。今日は大人数なのですね。」
そうか、そういうのもアリか。
5つ目の選択肢があった。
オレは5人組に向いてダダ漏れる。
今ここに空間転移して現れたのは創世の女神アイア。
神界序列1位の女神。
至高の存在だ。
「創世の女神降臨」
女神アイアは降臨エフェクトを有効にした。
女神アイアは光り輝き、その背後から四方八方に後光が放たれる。
後光と文字による自己紹介。
降臨エフェクトスキルって便利だよな。
女神アイアの降臨に5人組パーティは硬直している。
そうそう。
5つ目の選択肢ね。
・カムナビ温泉に空間転移して、オレたちと一緒の場所に宿泊する。
5人組は眩しそうに目を細めて女神アイアを見て、そして相談し始めた。
オレはダダ漏れを最小音量にする。
…オレのオススメは女神アイアと共に空間転移してカムナビ温泉に宿泊だ。
…だがそうなるとアインとオーヤさんは客を逃す。
…悔しいだろう。オレとしてもチャンスを逃した気がして悔しい。
…だが、選択の自由は5人組にある。
…オレはなんとかDP稼ぎのチートな抜け道を見つけよう。
オレはダダ漏れの音量を元に戻した。
…。
回復役の童顔女性が口を開いた。
「私たちは未熟な冒険者です。創世の女神アイア様、
そして神4柱とお仲間。一緒に過ごすのは時期尚早です。
今日のところは、このアパートで1泊させてくださいませ。
アイン様、オーヤさん、よろしくお願いいたします。」
童顔女性はそういって膝をついた。
残りの4人もそれに倣って膝をついた。
(そうですか!)
アインが嬉しそうな念を発した。
はははは。
良かったね。アイン、オーヤさん。
「5名様ご宿泊~!」
オーヤさんが5人組に手を差し伸べ、
オインクが5人組の背を押した。
ダンジョンアパートに入る7人。
「では、カムナビ温泉に帰還する方は集まってください。」
神4柱と6人が女神アイアの傍に集まった。
くるり。
女神アイアは空間ごと反転して空間転移した。
オレたちは一瞬でカムナビ温泉に帰宅した。
ただいまー。
これまでおとなしくしていたラビィが、突然シロに抱き着いた。
「今日は良かったですね!オインクのお父さんが見つかって!」
ラビィはシロに抱き着いたまま、思う存分にもふもふしている。
なぜこのタイミングで、もふもふするのかは不明だが、
シロもまんざらでは無いようだ。
たしかに今日は良かった。
最高の結果だろう。
ダンジョン探索の目的だったオインクの父親が見つかった。
オインクには父親のオーヤさんと語り合いたいことがあるだろう。
オレはアインにも再会できたし、
アインの悩み、DP稼ぎという新しい課題が見つかった。
だが、オレは名案が一瞬で浮かぶほど頭が良くない。
何か一筋の光のようなヒントが浮かんだだけだ。
いつも通り、みんなと一緒に考えることにしよう。
もしかしたら5人組パーティがアイデアを思いついたりしてくれるかも?
はははは。
さすがに虫が良すぎるか。
・・・
第六階層のダンジョンアパートの受付。
「ホントに1泊10ゴールドでいいの?安すぎない?」
「後になってから1人1泊50ゴールドと言われても払えんぞい。」
「それから、食事つきとのことですが、食材が私たちというのも勘弁ですな。」
エルフとドワーフと竜人族がオーヤに詰めよった。
「出血大サービスだから嘘じゃありません。後払いでいいですよ。」
オーヤは笑顔で答えながら、ポリポリと頭を掻いた。
「父さん。キッチンと食材はどこです?料理を手伝います。」
「そうか。そりゃ助かる。キッチンはこっちだ。隣に食料庫がある。」
オーヤとオインクの後をついていくゴブリンバスターズ5人組。
5人組は驚いた。
使い勝手が良さそうなキッチン設備に驚き、
食料庫の広さと豊富な食材に驚き、
清潔なトイレに驚き、風呂に驚き、
夕食の美味しさに驚き、
オインクのマッサージの気持ちよさに驚き、
ベッドのクッションの柔らかさに驚き、
ふかふかの布団に驚いた。
結局、この日の午後はずっと、5人組は終始驚きっぱなしだった。
・・・
オインクとオーヤは5人組とは別の部屋のベッドで横になっている。
「…父さん。僕は今、神の1柱であるウノさんの弟子なんだ。」
「そうなのか。神の弟子とは、素晴らしいな。」
「父さんが美味しいと言ってくれた料理もウノさんに指導してもらったんだ。」
「料理教室のような、手とり足取り、懇切丁寧な指導か?」
「芋の皮むきとか、タマネギのみじん切りとかの下ごしらえの手伝いからさ。」
「では、説明せずに、料理は目で盗め、という感じか?」
「手伝いの仕方は説明してくれるよ。質問すれば下ごしらえの理由も教えてくれる。
だけど仕事中は忙しいんだ。僕はウノさんの仕事の邪魔はしたくない。
自分の舌で料理を味わってみて、分からない時には質問するって感じかな。」
「ふむ…。実際に味わってみれば、自分自身で気づくことも多いと。」
「そう!そういう感じ!」
「味付けは?秘伝のレシピを教えてくれるのか?」
「味付けは合わせ調味料があるんだ。味付けで失敗することは少ないよ。」
「合わせ調味料は私もアイン様から指導を受けた。
だが今晩オインクが作った野菜料理は食べたことのない味だった。」
「キュウリとナスのからし酢味噌合えだね。」
オインクとオーヤはしばしの間、料理談義で盛り上がった。
そしてオインクの師匠であるウノについての話に移り変わった。
「ウノ先輩のことはアイン様から、この上なく正直な方だと聞いている。」
「ダダ漏れだから嘘をつけないんだ。僕は誰よりも信頼してる。尊敬してるんだ。」
「正直…か。正直というのは一番の美徳かもしれないな。」
「さっきの、5人組が今晩どうするかの時も。」
「ん?」
「女神アイアが現れた時、5つ目の選択肢をウノさんが出したでしょ。」
「…そうだな。神と共に寝泊まりするというものだったな。」
「あの時、ウノさんは5つ目の選択肢を無意識にオススメしていたのに気づいた?」
「…ふむ。だがアパートの大家である私としては、少しガッカリした。」
「そうだね。もしそうなると、5人組が泊まってくれないからだね。」
「…仕方ないだろう。それで困ってるんだ。アイン様も一瞬、悔しかっただろう。」
「その悔しさをね。ウノさんも同じく感じていたのに気づいた?」
「…確かにウノ先輩は葛藤しているようだった。葛藤していることを隠していた。」
「はははは。でも、ウノさんを知る僕にはバレバレなんだ。そして、父さんにもバレていた。」
「嘘も隠せない。葛藤も隠せない。正直は美徳だが恐るべき呪いでもあるようだな。」
「…そうだね。父さんが、ウノさんの葛藤に気づいてくれる父さんで良かった。」
「…そうか。気づいて良かったか。…そうか。…うん。」
「ねえ、ウノさんは僕にとって最高の師匠なんだ。僕はウノさんを見習いたい。」
「ああ。私にとっても最高の先輩だ。私もウノ先輩ならどうするかを想像することにしよう。」
・・・
5人組パーティは3部屋に分かれている。
エルフと童顔女性は2つのベッドに分かれ、横になっていた。
ベッドのクッションは柔らかく、布団も新品としか思えない。
童顔女性が口を開いた。
「今日は驚きの連続でした…。」
「あんたにとっての一番の驚きは神界序列1位の女神様のことでしょ。」
「そうあるべきなんですけど、一番はオインクさんですね。」
「確かに、オインクの狙撃には舌を巻いたわ。弓使いとしては自信喪失よ。」
「前衛で盾役で僧侶で狙撃手で参謀ということでした。」
「ホントのところは狙撃手。そうじゃないと、あの腕前に納得できない。」
「でも僧侶も事実です。マッサージの時にヒールをかけてもらいました。」
「あんた、お風呂で転んでたからね。ツルッと。」
「えへへへ。お風呂に喜んで、うっかりお尻を打ち付けました。」
「うふふふ。ドジなんだから。」
「オインクさんは狙撃手であり僧侶。更に大盾を装備しています。」
「…前衛と狙撃手は両立できないと思うのよね…。」
「…私も前衛と回復役は両立できないと思っていました。」
「…つまりオインクは天才ってこと?」
「…もしかしたら、私たちが努力不足なのではないでしょうか?」
「えええ?だって装備が違うわ。才能も違う。オインクは神と共にいるのよ?」
「でも実は…。私もまた、神と共にあると思っていたのです。」
「あんたは僧侶だもんね。」
「神官です。」
「…同じようなもんじゃない。」
「…そうです。そう思いますが、少なくとも私は自分を努力不足だと感じました。」
「…ふぅん。まあ、今日はもう寝ましょ。明日また考えましょ。」
「…そうします。せっかくのふかふかのお布団ですし。」
「そう…ね。ZZZZ…。」
「ZZZZ…。」
・・・
5人組は合計3部屋が割り当てられた。
そのことを竜人族は迷惑になるのではないかと言ったが、
アパートの大家であるオーヤが部屋は余っているので構わない、
値段も同じで構わないというので、その部屋割りとなったのだ。
フルフェイスヘルムの戦士は1人部屋だ。
戦士は部屋にカギをかけた。
戦士は鎧を脱いでベッドに腰掛けた。
ベッドのクッションの柔らかさに戦士は驚いた。
一瞬、ヘルムの奥で赤く眼光が光った。
この部屋の中を、そして両隣の部屋の気配を探る戦士。
そしてフルフェイスヘルムを脱いだ。
戦士は思いを巡らす。
これからのゴブリン退治について。
これからパーティがどうなるかについて。
答えは決まっている。
戦士は1人頷き、ベッドに身体を横たえた。
たとえ1人でも第二階層でゴブリンを狩る。根絶やしにする。
自分でそうすると決めたのだから、そうする。
では、パーティ全体ではどうすべきだろうか?
自分がリーダーだからと言ってパーティの行動のすべてを決めることは出来ない。
仲間の意見を尊重する。
だが、自分にとっても優先順位がある。
優先順位を考慮した結果、1人になっても構わない…。
元々、自分はゴブリンをソロで狩っていた…。
5人組パーティになっている現在が特別なのだ…。
何も問題は無い…。
そして、戦士は深い眠りに落ちた。
ZZZZ…。
・・・
男性陣のもう1部屋。ドワーフと竜人族の部屋だ。
2人はベッドではなく、床にどっかと座って対面していた。
「我らのリーダーは、どうするでしょうな。」
「第二階層のゴブリン退治じゃろ。こだわりがあるからのう。」
「このアパートで暮らして、第二階層でゴブリンを狩るということですな。」
「うん?優先順位が逆じゃろ。」
「…ふむ。第二階層でゴブリンを狩り、余裕があればアパートに泊まる、ですか?」
「そうじゃ。」
「個人的には、アパートで暮らすのを優先したいところですな。」
「まぁ、理想的ではあるのう。このアパートは良い。」
ドワーフは腕を組んで考える。
「第五階層のオークを安定して狩るだけの実力があれば、
そのうち第二階層のゴブリンを根絶やしにできる実力にまで達するじゃろ。」
「オークを安定して狩るより、ゴブリンを根絶やしにする方が困難だということですか。」
「ワシはそう思う。オヌシは、そう思わんか?」
「そう思います。ゴブリンはしぶとく狡猾で、繁殖力が異常です。」
「ガハハハ。ワシらもゴブリンのことに随分詳しくなったのう。」
「確かに。となると、我らのすることは決まりましたな。」
「すること?何か決まったか?」
「これからは第二階層でゴブリンを殺す時は、ただ漫然と殺してはいけません。」
「…漫然と殺すのではなく、どうする?」
「オークを安定して狩るだけの実力を得る修行のつもりで、全力で殺すのです。」
「全力で殺すとは?」
「殺すことを超える。オーバーキルですな。」
「ほう、オーバーキル。殺しの限界を超えるということかのう。」
「殺しについて悟る。新境地に達する、とでも言いましょうか。」
「思えば、ワシはこれまで漫然と殺しておった気がするわい。よっこらせ。」
ドワーフと竜人族の2人は床から立ち上がり、
それぞれのベッドに横たわった。
そのクッションの柔らかさに驚く2人。
「…面白い。いや、これはまったくもって面白くなってきたぞい。」
「久しぶりに良い眠りが出来そうですな。」
「ZZZZ…。」
「ZZZZ…。」




