ダンジョンアパート
オレたちとゴブリンバスターズ5人組は第六階層に降りた。
5人組パーティが一緒なのは、ガーベラとたまが女性陣を誘ったから。
女性陣はキャッキャウフフ状態だ。
・・・
第六階層の入口近くには立て看板がある。
以前にガンテツが丁寧な装飾を入れて文字を彫り込んで作成したものだ。
「グリーンスパイダーはモンスターではありません。
性格は温厚で人に危害を与えることはありません。
絶滅危惧種のきわめて珍しい生き物です。」
かつてマーチが作ってくれたこの文章を詐欺と考えるのか、
それとも真実と考えるのか。
(真実はいつも1つ!)
オレは、どこかのメガネ少年に指を突きつけられた気がした。
ぶるるっ!
オレは犯人扱いされた気がして身震いした。
真実は、グリーンスパイダー=ジャイアントスパイダー。
エルフ秘伝の染色剤で緑色に染めたジャイアントスパイダーだ。
この染色剤は特殊で、世代を超えて緑色が遺伝する。
それをエルザがグリーンスパイダーと命名した。
だから、グリーンスパイダー=ジャイアントスパイダー。
でも、元の名前の方に違和感があるぞ。
手のひらサイズをジャイアントと表現するのは違和感ありまくり。
そしてジャイアントスパイダーはモンスターでなく、
迷宮に迷い込んだ節足動物に過ぎない。
性格は温厚で人に危害を与えることはない。
なのに蜘蛛は嫌われている。
毒蜘蛛は仕方ないとして、毒を持たない蜘蛛までが嫌われている。
だが、オレは違う。ちゃんと異世界小説読んでるからね。
蜘蛛ですか?
蜘蛛は好きです。
蜘蛛が主人公でも大丈夫です。
オレはグリーンスパイダーがダンジョンから脱出したいなら、
脱出を手助けしてやりたい。
・・・
第六階層の入口から隠れるようにひっそりと建っているのは、
オレたちが建てた迷宮別荘だ。
オレたち全員は迷宮別荘に近づいた。
立て看板がある。
「ダンジョンアパート空室アリ。すぐ入居。」
ダンジョン入口にあったのと同じ文章の立て看板だ。
オレが推測していたとおり、
第六階層の迷宮別荘をダンジョンアパートと呼称している。
まあ、いいか。
現在の所有権はダンジョン管理者となったアインにある。
こんにちわー!
管理人さんいますかー?
ていうか、アインいるー?
オレはダンジョンアパートの扉を開けて、大きくダダ漏れした。
「はーい!」
ドタドタと奥から走ってきた人物は、豚頭族の男だった。
「…父さん?オーヤ父さん?」
「…ん?オインクか?」
オインクの父親はオーヤという名前らしい。
オインクがオーヤに駆け寄り、ジャンプして抱きついた。
オインクは涙を流している。オーヤも同様だ。
オインクがこれほど感情を露わにするとは驚いたな。
良かった。
オレの目頭が熱くなる。
オインクの父親オーヤがオレを見た。
「…あのう。そちらのちっこい御方は、ウノ様でらっしゃいますか?」
そうです。
オレがウノです。
「ああ!そうでしたか!アイン様から話を伺っています。
私はオインクの父でオーヤと申します。」
それは丁寧にどうも。
よろしくお願いします。
オレは息子さんに仕事を手伝ってもらってます。
オインクは働き者だし、頭脳明晰だしで、頼りにしてます。
「…。オインクを誇りに思います。グスッ。」
オーヤは涙もろいようだ。
それにしても、オーヤは、アインと知り合いなんだ。
アインは元々、オレの頭の中に住んでた人工知能でさ。
今はダンジョン管理者をしてる。
オーヤはアインと念話してるの?
「…ええ。よくダメ出しされています。」
オーヤはポリポリと頭を掻いた。
やっぱり?
オレの時もそうだった。
アインはいちいち細かいんだよね。ダメ出しがさ。
掃除で角に拭き残しがあるとか。
洗濯は干しっぱなしはダメ、畳んで収納するまでが洗濯だとか。
料理では塩分が強すぎると素材の味を殺すから薄味にしろとか。
「はははは。まったく同じです。
私の頭の中に念話でダメ出しが響いてきます。」
はははは。
アインは変わってないんだなあ。
「いやぁ、まったくですなぁ。」
…。
その後しばらく、オインクとオーヤで話をしてもらった。
今後どうするかを話し合っているのだろう。
ん?
オーヤはオレの様子を伺っている。
「あのぅ。これからはウノ様をウノ先輩とお呼びしても?」
いいよ。
実際アイン繋がりで、先輩後輩関係だし。
じゃあ、オレはオーヤをオーヤさんって呼んでもいい?
オーヤは首をひねって戸惑った。
「さん?呼び捨てだったのに、なぜ、さん付けにするのですか?」
それはね。
語呂がいいから。
アパートの大家さんだからオーヤさん。
「…わかりました、ウノ先輩。了解です。」
ねえ。
ダンジョン管理者のアインは、
今はオーヤさんの頭の中に住んでるってことかな。
オレの時みたいにさ。
「いいえ。アイン様は私の頭の中には住んでいません。
ダンジョン最下層にいるようでして、ダンジョン管理の合間に、
教導してくださいます。」
教導…。
うーん…。
オレってば教導されてたか?
ダメ出しって教導なの?
ま、いいか。
アインはダンジョン管理者だから、
ダンジョンアパートのオーヤさんを教導していると。
そんな感じってことか。
「そうです!」
うん。いいね!
はははは。
ところで、教導が終わればどうだろう?
オーヤさんがアパートの大家さんを卒業したら、
対等な関係になるんじゃないかな。
そしたらアインの方から呼び捨てにしろと言ってくると思う。
「…アイン様は、ずっとアイン様です!」
ふーん、そっか。
ところでさ。
オーヤさんは、ずっとアパートの大家をしたいのか?
「…今の暮らしには満足しています。」
本心では、オインクと暮らしたいだろ?
「…ええ。今すぐではないですが、そのうち、きっと。」
うん…。…だよな。
オーヤさんは、いつか、アパートの大家さんを卒業するんだ。
オーヤさんは無言で頷いた。
・・・
ところでオーヤさんは、どんな経緯でダンジョンにやってきたんだ?
「アイン様が言うには、私をダンジョンに連れてきたのは、
完全に操作ミスとのことでした。」
操作ミス?
「詳しくはわかりません。ダンジョン管理には
モンスターキャプチャーという機能があって、
それでモンスターを捕獲してダンジョンに召喚するそうです。」
なるほど。
…あれだな。
巻き込まれ事故。
勇者召喚タイプの異世界転移テンプレ。
他人が勇者なんだけど、たまたま傍にいたから一緒に転移ってやつ。
勇者召喚に巻き込まれ事故があるなら、
モンスター召喚にも巻き込まれ事故があって当然。
なるほど。納得したぜ。
そうか。
オレはダダ漏れの音量を最小限にして考える。
・・・
モンスターキャプチャー機能か…。
モンスター生成機能に似ている。
神のステータスメニューにはモンスター生成の機能がある。
オレはモンスターを生成したことは無い。
だが存在を知っている。
ギルド運営ボードで既存の生き物の「性質」を変更出来ることも
ルカから伝え聞いて知っている。
ここで言う「性質」は単なる「ポジション」。
善良から普通へ、更に普通から邪悪へ。
邪悪と定義すればモンスター扱いとなり、
ギルドから討伐報酬のゴールドが支払われる。
つい先日はバッタの性質を「邪悪」と変更して、
ゴールドを介して「この世界の共通観念」に影響を与えた。
それが冒険者ギルドやハンターギルドの仕事だと言う。
善悪は主観100%。
ポジションに過ぎない…か。
なるほど。
では、モンスターキャプチャー機能はどうだろうか。
オーヤさんの話から考えれば、
任意のエリアにいる生き物をダンジョン内に転移できる機能だ。
それをモンスターキャプチャーと呼称している。
きっと空間転移の対象指定が緩い。
それに比べると女神アイアの空間転移は上手だ。
きちんと空間転移の対象を丁寧に調整している。
これまで巻き込まれ事故は無かった。
モンスターキャプチャーはショボい機能に違いない。
(無理です!こっちは相手が動いているんですから!)
この念話はアインからのツッコミだ。
なんと、ダダ漏れを最小限にしたはずなのにツッコミを入れられた。
・・・
オレはダダ漏れの音量を普通に戻した。
アイン。
久しぶりだね。
(お久しぶりです。ウノ。)
オレ以外も空中を見上げてキョロキョロしている。
5人組パーティは念話に慣れていないのか、
目を白黒させている。混乱状態だ。
どうやらダンジョン管理者となったアインは、
同時に複数人と念話できるらしい。
あとは相手の思考を読み取れれば最強だな。
(ウノはいざ知らず、一般人の思考を読み取るのは無理です。)
そっか。
でもさ、アイン。
これは冒険者のパワーレベリングには吉報だな。
前任者の土の神は寡黙というか、単語単位での会話だった。
あれでは冒険者を教導できないだろう。
(複数の冒険者と同時に念話するというのは、諦めつつあります。)
え?なんで?
まだ第五階層のオーク攻略は時期尚早です!とか教導すればいいじゃん。
(…騙すな魔王。ウノはそう呼ばれたことはありますか?)
…ありません。
見た目がちっこい子供だし。
うーん…。なるほどなあ。
相手は冒険者になりたての初心者だろうしな。
アインを魔王と決めつけて、アドバイスを聞かず、
オーク相手に突っ込んで死んじゃうか。
(そうです…。)
第五階層はオークの王国。こりゃ厳しい。
第四階層はGの大群。精神的ダメージが大きい。
第三階層はコボルドなどの人型モンスターとアンデッドと飛行型モンスター。
第二階層はゴブリンの大群。かったるいし面倒。不潔感あるし。
オレが五人組パーティの様子を伺うと、強く頷いていた。
…ホッ。
…ごほん。
ゴブリンは数が多いと強敵だ。
オレがゴブリン部屋を攻略した頃は、
神がかった実力のエルフとドワーフがいたから倒せた。
あの時の2人は当時から神に近い実力があったと思う。
オレのダダ漏れを聞いて5人組パーティのエルフとドワーフが囁く。
(…エルフってビジネスの神ステラ様のことよ。)
(…ドワーフは職人の神ガンテツ様じゃな。)
だがオレには2人の囁きは聞こえなかった。
読唇術も読心術もオレは持っていない。
ところでアインは元気だった?
(病気という概念がありません。問題ありません。)
でもダンジョン管理者って大変だね。
(すごく大変です。安易に引き受けたのは失敗な気がしています。)
はははは。
オーヤさんを教導してアパートの大家として立派になったら、
次代のダンジョン管理者に教導するのかい?
「…なんですと?」
「ええ?」
オーヤさんとオインクが目を大きく見開いた。
(…それは目論見の一つではありますが、伝えるのは時期尚早です。)
ごめん。
たしかに時期尚早だったね。
(そもそも私自身がダンジョン管理が下手なのです。
せっかくのダンジョンアパートに住人がいないのですから。)




