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杞憂

豚頭族の少年オインクは葛藤していた。

今回のダンジョン攻略の目的は、オインクの父親の捜索だ。

ウノの仮説は、オインクの父親はダンジョンに囚われたというもの。

第五階層のオークの王国にいるのではないか?という仮説だ。

だが、これまでオインクが観察した限り、

第五階層のオークの王国のオークたちはみな、野蛮で獣じみていた。

見るからにモンスターであり、豚頭族と見なせないように思えた。

(父さんが変わってしまっていたら、僕はどうすればいい?)

オインクは悩む。

第五階層でオインクの父親を発見したとして、

自分はウノと仲間たちに父親の命乞いをするのか?

父親がモンスター化してしまっていた場合、豚頭族として更生できるのか?

更生?

そもそも罪とは何か?

何をしたら罪なのか?

詐欺、窃盗、略奪、強姦、殺人。

そういった行為を罪に問わないと定義する文化・風習があるとしたら?

自分たちの文化・風習とは相いれない。

自分たちの文化・風習で、相手の文化・風習を上書きできるのか?

オインクは首を左右に振り、自己の疑問を自己否定する。

無理だ。

文化の上書きは無理だ。

…。

オインクは別のアプローチで考えてみる。

第五階層のオークの王国はモンスターの世界。

優しかった父親が、優しいままでは生きていけない。

生き残るには父親自身がモンスター化して環境に適応する他ないだろう。

優しかった父親とモンスター化した父親。

モンスター化してしまった父親を殺すことは殺人ではなく、

救済なのではないか?

…。

オインクは更に別のアプローチで考えてみる。

罪と罰。

極限の処罰としての死刑。

死刑となるケースは、どんなケースだろう?

A:モンスターと一緒にいるならば死刑。

B:詐欺、窃盗を犯したならば死刑。

C:略奪、強姦を犯したならば死刑。

D:殺人を犯したならば死刑。

E:いかなる罪を犯しても死刑はいけない。

オインクなりに考える。

豚頭族の文化ではDが死刑なのだが…。

オインクは睡眠不足の日が続いた。

・・・

オインクはウノに悩みを相談することにした。

カムナビ温泉でオインクが担当する仕事にも睡眠不足の影響が出ている。

オインクとしては放置できない。

「父親がモンスター化していたら、どうするか?」

「モンスターと文化・風習が異なるとき、モンスターは更生可能か?」

「罪とは何か?」

「処罰としての死刑はありか、なしか。」

オインクはウノとの問答を希望する。

・・・

え?オレと問答したいの?オインク。

うーん。オレはダダ漏れだからさ。

問答が駆け引きじゃないのは、オインクにとってはメリットだけどさ。

問答しちゃうとオレ自身をさらけ出すことになるわけ。

オレって一応、オインクの師匠のつもりなんだよ。

威厳とかさ。

尊敬とかさ。

そういうのって師匠に必要じゃない?

ま、それはいいか。

単にオレの贅沢だな。

オレの主観100%でしか答えられないけど、それでいい?

大丈夫だと。オーケー。

最初は何だい?

「父親がモンスター化していたら、どうするか?」

んーと。

あれだね。

虐待する親、虐待される子供。

オレはそういうイメージで考える。

虐待する親はなかなか変化しないだろう。子供を虐待し続けると思う。

となると、子供の側が対応しなければいけない。

あるいは周りの大人が子供を守る。

それは距離を取ることだ。

引き離しだな。

関与しない。関与させない。

そうすれば被害は無いからね。

父親がモンスター化していたら、距離を取る。

あのままじゃあ、きっと死んじゃうだろうな、仕方ないね、くらいで終わる。

次の問答って何だっけ。

「モンスターと文化・風習が異なるとき、モンスターは更生可能か?」

うーん。

年齢次第かな。

オレの主観100%だよ。

例えば「嘘をつくのは普通」っていう文化があったとする。

嘘つき文化で10歳まで暮らしていたら更生には5年かかると思う。

嘘つき文化で20歳まで暮らしていたら更生には10年かかると思う。

嘘つき文化で30歳まで暮らしていたら更生に15年か…難しいかもね。

更生が無理なら距離を取る。

関与しない。関与させない。

そうすれば被害は無いからね。

次の問答って何だっけ。

「罪とは何か?」

これは文化による。

オレの主観100%だぞ。

殺人は間違いなく罪だな。

強姦、暴行も罪だな。

窃盗、略奪も罪だな。

詐欺…詐欺ね。

まあ、嘘つき、騙すことだよね。

詐欺ってさ。

騙す方も悪いけど騙される方も悪い、なんていう人がたまにいる。

オレは納得できない。

オレが納得できる表現はコレ。「騙す方が100%悪い。」

詐欺は用意周到な嘘だからさ。間違いなく悪意があるよ。

あとさ。

虐待、いじめ。

いじめる方も悪いけどいじめられる方も悪い、なんて人がたまにいる。

オレは納得できない。

オレが納得できる表現はコレ。「いじめる方が100%悪い。」

いじめと虐待は同じ。

相手と距離を取る。引き離しだよ。

話がけっこう脱線しちゃった。

次の問答って何だっけ。

「処罰としての死刑はありか、なしか。」

これは文化による。

オレの主観100%だぞ。

死刑はありだ。

死は呪いであり、祝福でもある。

他の処罰としてありうるのは、拷問か。

拷問は拷問される側も、拷問する側も両方を狂わせる。

拷問はなしだ。

・・・

オインクは、ウノの回答に戸惑う。

オインクの主観とウノの主観には違いがあった。

オインクが答えとして求めていたものから、はぐらかされたものがある。

混乱しているオインクの表情を見てウノは笑う。

・・・

例えば死刑な。

オレが浮気したとしようか。

妻のルカを裏切って浮気したらどうなると思う?

ステラに無数の弓矢で射殺される。

ガンテツにハンマーでバシャッと潰されて死ぬ。

液体状に飛び散るんだぞ。

つまりオレは間違いなく死刑だ。

浮気で死刑。けっこうヤバくない?

浮気って詐欺とか嘘つきと近いよね。近い気がしない?

それで死刑。ヒドくない?

オインクはウノのダダ漏れにプッと吹き出した。

「それは自業自得です。」

え?

オインクもそっち派?そっかぁ…。

ガンテツ、ステラの文化は、そっち派なわけよ。

オレは、浮気で死刑はやりすぎでしょって派なわけよ。

オレは浮気しないよ?

ルカが大好きだから。

もしもオレに、妻であるルカより好きな人が出来たら、どうしようかね?

うーん、そうだなあ。

正直に話して重婚を許可してもらうか、離婚になるな。

重婚?ピンとこない。

離婚して生きていけるかなあ。

慰謝料で全部のお金をルカに渡すだろ?スカンピンだ。

たぶんオレはマッサージ師で生計を立てるだろうね。

その腕前は、ルカからもお墨付きを貰ってる。

うーん…?

なんか話がぐるぐるしてるね。

問答というより雑談って感じ。

そもそも、オレの浮気からして、あまり現実的な話じゃないんだ。

つまり杞憂だな。

杞憂ってのは心配しなくていい事。取り越し苦労。

杞憂の語源は、昔々、中国で…ってそれは置いておこう。

オインクの悩みも取り越し苦労かもしれないぞ。

というか人生の悩みの95%は取り越し苦労なんだってさ。統計学的に。

はははは。

…。

あのな。

オインクはオレの弟子だと思ってるから言うんだぞ。

オレは

「考えておけば準備できて、その結果として発生確率が低くなる」

と考えている。

えーと。

浮気の例でいいか。

オレが浮気しないように、オレが考えて、オレが準備する。

ルカ以外の女性をジロジロ見ない。

もしも女性がオレに、ウフフと近づいてきたら、

「オレを殺す気か!」と逃げる。

そう決めてる。

ちなみにルカは妻だから、夫のオレは見てオーケー。

夫が妻を見ちゃうのは変態じゃない。

それが嬉しいから結婚したんだ。

それがダメなら妻の方からして結婚しちゃダメでしょ。

ちなみにオレは毎晩マッサージするって約束で結婚してる。

そういう考えって準備に近くて、オレが浮気する確率が低くなる。

だからオインクの考えも、準備に近いなら価値があると思うぞ。

はははは。

ふう。

深刻っぽい話から脱出できたかな?

はははは。

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