変身
バッタ駆除のプロジェクトは終わりに近い。
オレはアンチ・ローカストにある寝室のベッドで休憩している。
ベッドには他にルカ、たま、シロ、ガーベラがお昼寝している。
オレはウトウトしながら、
夢を見るように過去の記憶に没入しつつあった。
オレは大学生の頃、生物を分類する考え方として3ドメインを学んだ。
すなわち、
・ユーカリオタドメイン(真核生物)
・バクテリアドメイン(細菌)
・アーキアドメイン(古細菌)
の3ドメインだ。
▼ユーカリオタドメイン
細胞内に核を持つ生物のことであり、真核生物と同義である。
動物/植物/原生生物/真菌からなり、
一見すると多種多様な形状の生物から構成されているが、
その遺伝子は似通っている。
真菌とはカビ・キノコの仲間。
酵母(アルコール発酵)/麹(味噌、醤油の発酵)/納豆菌/
白癬菌(水虫の原因菌)/昆虫病原糸状菌エントモファガ・グリリ。
▼バクテリアドメイン
細胞内に核を持たない。原核生物の1種。
ユーカリオタドメインとはかなり異なる遺伝子から構成されている。
大腸菌/放線菌ストレプトマイセス(グルコースイソメラーゼ発酵)/
マイクロコッカス・グルタミカス(グルタミン酸発酵)/
グアニル酸生産型コリネバクテリウム(グアニル酸発酵)/
根粒菌リゾビウム/イネの内生菌アゾスピリルム/節足動物の共生菌ボルバキア。
▼アーキアドメイン
細胞内に核を持たない。原核生物の1種。
極限環境にのみ生息するため、長らく知られることが無かった。
培養する環境を用意しずらく、研究困難な微生物である。
かつてはバクテリアと混同して考えられていたのだが
バクテリアとはかなり異なる遺伝子から構成されている。
一方でユーカリオタの遺伝子と類似性が見られる。
大き目のアーキアにバクテリアが潜り込んだことによって
ユーカリオタに派生したのではないかという説が有力だ。
メタン菌/好熱菌/高度好塩菌。
メタン菌は二酸化炭素と水素からメタンと水を作り出すことで、
生命活動に必要なエネルギーを得る。
CO2+4H2→CH4+2H2O
この化学式でわかるとおり、生命としての仕組みが他の2つのドメインとまるで違う。
・・・
オレはガバッと飛び起きた。
眠ってしまってたぜ。
ふう…。
あっ、ごめん。ルカ。
起こしちゃった。
「何か夢を見たのですか?」
まあね。そんなところ。
新しい仲間のググリは元々は昆虫病原糸状菌エントモファガ・グリリ。
もう1人の仲間のキアは元々は細菌ボルバキアで、バクテリアドメイン。
今はロカストーンになってオレのアイテムボックスに入ってもらってるけど、
どちらも微生物なんだなって。
不思議だよ。
うーむ…。
オレたちの現在のパーティ構成ってバラエティに富んでるよね。
オレが元ノームだろ。ルカは元人間っていうか元から女神。
シロが元スノーウルフ。たまは…生まれた時から神みたいな感じだな。
ガーベラがドワーフ。ここまでが家族。
セイヤが鬼族でラビィが兎耳族でオインクが豚頭族。
そしてググリとキアが元微生物で現在はロカストーン。
そういえばさ。
ザ・ストーム13人の頃にパーティに5人いたエルフたち。
ミラ、ステラ、エルザ、ルーシィ、イース。
ほらね。5人もエルフがいる。
5人のエルフはどこに行ったって話なわけ。
エルフは昇神して神々になりましたー。
今も仲間ですがパーティからは抜けた形ですー。
…感慨深いねえ。
今のオレたちのパーティって少し変?って思っちゃうくらい変化した。
そう思わないか?ルカ。
「そうですね。でも、どんなに変わっても問題ありません。」
…確かに問題ない。
ノープロブレムだ。
メンバーがバラエティに富んでることは良いことだよな。
「ウノ。」
なんだい?
「ググリとキアにも自分で動けるようにしてあげたいです。私たちの子たまのように。」
ああ、そうだな。
ゴーレムというか義体を用意するよ。
心臓の位置にロカストーンを埋め込めば、自分で動けるようになるだろう。
「それは良いですね。よろしくお願いします。」
はい。よろしくお願いされました。
「うふふふ。」
はははは。
・・・
ウノのアイテムボックスの中は、ウノの体内も同然である。
アイテムボックスの中にいるググリとキアには、
ウノの意識がすべてダダ漏れだった。
緑のロカストーンとオレンジのロカストーンが明滅する。
(ウノ殿の意識がこちらにまで流れ込んでくるとはな。)
(そうでありんすねえ。わっちにとってはこうつごうでありんす。)
(…そうだな。だが、ウノ殿にとっては苦労なことだろう。)
(ルカさまのたいおうからするに、さほどでもないようでありんすが?)
(…そうか。ならば良い夫婦ということだ。)
(おふたりのうつわがおおきいのでありんしょう。)
(…うむ。)
(それにしても、ウノさまはちしきがゆたかでありんす。)
(某には理解できぬ内容だ。)
(ググリのなかまとわっちのなかまのほかに、アーキアというものもいるようでありんすね。)
(アーキアか。キア殿には心当たりがあるのか?)
(ありんせん。ありんせんが…。)
(…?)
(わっちがすめなかった、ひどいばしょにはこころあたりがありんす。)
(それが極限環境というやつか?)
(そうでありんす。)
(某の仲間には過酷な環境を好むものは少ない。教えてくれぬか?)
(うみのそこ。あついみずがふきでるところでありんす。)
(海底。海底火山か。)
(…そこにはわっちのなかまでも、よほどのかわりものしか、すめないでありんす。)
(某も住めぬ。話に聞いたことがあるだけに過ぎん。)
(ウノさまにおつたえすればよろこぶにちがいありんせん。)
(キア殿から伝えればよい。)
(うふふふ。かまわないでありんすか?)
(よろしく頼む。)
(よろしくたのまれたでありんす。)
(…。フッ。ハハハハ。)
(うふふふ。)
緑とオレンジの2つのロカストーンは同期して明滅した。
遠目から見るものが仮にいたとすれば、きっと黄色に明滅したように見えただろう。
・・・
ルカから頼まれたし、オレ自身もそうしたいと思ったから義体を製作。
ステータス画面を開いて。
(オートクラフトメニュー!)
…。
さーて。
2体の義体が完成だ。
オレはステータス画面のオートクラフトメニューを閉じた。
義体の素材は定番のタル材ホワイトオーク。
慣れてる木材ってのは、やりやすくていいね。
ただしこれは暫定措置。
もっとピッタリな木材が見つかれば、作り直そうと思っている。
ググリの義体のデザインは、
関節タイプの人型ゴーレムと完全に同じにするかどうか迷った。
だが体形については変更するしかないことがわかった。
ロカストーンを収納するために胸にポッカリと空洞を作るためだ。
そのため少し胸板を厚くし、マッチョなデザインとした。
キアの義体のデザインはユカリ先輩を真似たグラマラスな体形。
ロカストーンを収納する箇所はググリと同じく胸なので、
胸のボリュームが必要なのだ。
なるほどだろ?
オレはアイテムボックスから緑のロカストーンを取り出しつつ、
ググリの義体の胸に嵌め込んだ。
定番のアイテムボックスチートだ。
同様にアイテムボックスからオレンジのロカストーンを取り出しつつ、
キアの義体の胸に嵌め込んだ。
2つの義体の胸からロカストーンの明滅が少し透けて見える。
…。
ググリ。
キア。
どうだい?動けるかい?
2つの義体は非人間的な動きをしている。
下手な操り人形のようで、この大きさでギクシャク動くと少し怖い。
おっ。
だんだんと上手になってきたね。
みるみるうちに上達したじゃないか。
(うごかそうとするのでなく、みをゆだねるといいみたいでありんす。)
(ああ。予想外だ。あまり考えない方がスムーズに動ける。)
そうなんだ。
人型ゴーレムの学習ライブラリが影響したのかな?
今回はクリエイトゴーレムの魔法は使っていないんだけどねえ。
不思議だが深く考えても仕方ない。
形が決まれば、おのずと自然な動きも決まるってことなのかな。
ともかく、ラッキーだったね。
(じゆうにうごけるのは、たのしいでありんす。)
(自由というのは最高の気分だ。ハハハハ。)
そりゃよかった。
そうだ。
今は木目調の裸の人形みたいな状況だから、服を着せるよ。
それから仮面というかお面を作ろう。
後で2人でそこらを散歩してきたらいい。
ちょっと待ってて。
・・・
(キア殿。ウノ殿の手の動き、見えるか?いや。見えないだろう?)
(おどろくべきはやさでありんす。)
(みるみるうちに形が出来ていくな。何やら2種類が完成したようだ。)
(ふく、でありんしょう。)
(すると、今作っているのは、お面か。もう2種類が完成したぞ。)
(あら。わっちのはわらべのようにかわいらしいでありんすね。)
(某のはバッタのようだが…。)
(にあうとおもうでありんすよ?ウノさまもまんぞくげでありんす。)
(…ならば、問題なかろう。)
(なにやら、ついかするようでありんす。)
(ふむ。飾りのようなものだろうな。)
・・・
服とお面だけじゃなく、少し追加。
ググリにはブーツを模したデザインの靴を履かせた。
キアには金髪ロングのウィッグをかぶせ、
ハイヒールを模したデザインの靴を履かせた。
さてさてさーて。
準備完了だな。
オレはアイテムボックスに2人の服とお面を一旦収納する。
変・身!
オレはアイテムボックスチートで2人に服とお面を装着した。
うおおおお…。
ググリ、カッコイイ…。
カメンなライダー1号!
黒と緑のボディスーツ。風車をあしらったベルト。赤いマフラーが痺れるぜ。
ロマンが溢れて垂れてくる。おっとヨダレが。
カッコよすぎるだろ。
そして…。
はああああ…。
キア、カワイイ…。
セーラーなビーナス!
オレンジのセーラー服。胸には青いリボン。頭には赤いリボン。白いロング手袋。
キュートが溢れて流れる。おっと涙が。
感涙にむせび泣くとはこのことか。
オレはムーン派ではなくビーナス派だ。
マーキュリー派でもマーズ派でもサターン派でもない。
異論は認める。みんな仲良し。
ゴホン。それはそれとして。
…うーむ。
イイネ!
見れば見るほどイイ。
日曜日の朝って感じがしてくる。
サイコー!
…。
…ゴホン。
それじゃ、散歩してきてください。
あっと、それから。
もしも乱暴狼藉する輩がいても、やっつけないように。
今日のところは見て見ぬふりして見逃してやってくれ。
いや…。こっち側が職務質問される可能性もあるか。
…そうだ。
「ウノの依頼により警備中」のタスキをかけてもらおうかな。
それなら職務質問するのは、こっち側だろう。
何か疑問があってもオレに最初に連絡が来るはず。
はははは。
じゃあ、いってらっしゃい。
6/21。極限環境に生きることができるのは古細菌。次は細菌。ほぼ住めないのが真菌であるため、ググリとキアの会話を修正。




