蝗害対策会議
オレと草の神とマーチがカムナビ温泉を歩き回り、
食堂に来てもらうようお願いして回った。
そして食堂にみんなが集まった。
オレ、草の神、マーチ、ルカ、たま、ガーベラ、シロ。
ガンテツ、ミラ、イース、アルファ、ルーシィ。
セイヤ、オインク、ラビィ、モモカ、ユカリ先輩、クルマニー、ポピー。
そして女神アイア。
12柱と8人のアイデア会議を開催しよう。
テーマはバッタの駆除方法だ。
・・・
オレは草の神とマーチと会話した内容と同じ情報を共有した。
5億匹ものバッタの襲来。
これ以上増えたら植物が食い尽くされ飢餓になること。
バッタには天敵がいること。
例えばアヒル、ニワトリ、キツネ、タヌキ。
それからカビの仲間、エントモファガ・グリリがいること。
グリリに感染したバッタは高い所に昇り、関節が硬化し息絶える。
そして風に乗せて遠くまで胞子をバラまく。
風に吹かれても地に落ちることが無い、これ見よがしのバッタの死骸。
まるで死の宣告だ。
他にもバッタに感染する病原体としてバキュロウイルス。
バキュロウイルスは節足動物に感染するタイプのウイルスの総称で、
感染対象はかなり限定される。
バッタに特異的に感染するタイプのバキュロウイルスも、きっと存在する。
天敵とは異なるパターンとして、
バッタと共生する細菌ボルバキアはバッタの生殖をコントロールしている。
ボルバキアがバッタを殺すことはないため病原体ではないのだが
世代を重ねるうちにバッタたちにはボルバキア感染が広がる。
そういうことをかいつまんで説明した。
・・・
バッタ駆除のアイデアの口火を切ったのはセイヤだった。
「俺の考えではバッタ駆除にブリザードは外せない。エアハンマーもだ。」
「ではカードに書きます。ブリザードとエアハンマーですね。」
セイヤの発言をオインクが2枚のカードにした。
ん?
ユカリ先輩とモモカの顔色が悪い。
そうか。2人は虫が苦手だ。
バッタ駆除のアイデアを出せと言われても酷な話だ。
2人はバッタ駆除じゃなくても、
作業者をサポートする立場としての意見でもいいぞ。
オレのダダ漏れに2人はホッとしたようだ。
胸に手を当てている。
「アタシは…、火事の時みたいに腰を落ち着けられる施設が欲しい。」
「施設があればマッサージしてあげるのに都合がいいのでございます。」
「ではカードに書きます。施設とマッサージですね。」
ユカリ先輩とモモカの発言をオインクが2枚のカードにした。
オインクが丁寧にカードを書いている。
「ググリ。名前が面白いから活躍させたい♪」
イース。
ググリじゃないぞ。グリリだぞ。
バッタの天敵になる菌類。カビの一種エントモファガ・グリリ。
「ではカードに書きます。グリリによる死の宣告ですね。」
イースの言葉をオインクがカードに書いた。
オインクが引用した「死の宣告」。
オレとしてはグリリは劇薬みたいな認識だから心配だ…。
胞子の大量散布は避けたい。
オレの言葉にマーチは腕を組んで頷く。
「自然に近い形でグリリに助力を頼むくらいの謙虚な気持ちになろうや。」
(これ以上調子に乗れば、死が待っているとグリリに宣告してもらおう。)
マーチの言葉に草の神がニヤリとほくそ笑んだ。
草の神はバッタに対する恐怖心や不安が薄れたみたいだな。
良かった。
マーチの発言の意図を、オレなりに考えてみよう。
自然に近い形でグリリに助力を頼むくらいのやり方。
それは胞子の大量散布ではない。
たとえば…、そうだな。
木の枝につかまったまま死んだバッタの死骸、
すなわちグリリの印を見つけたら木の枝ごと確保する。
それを広い草原の中に数本程度、まばらに突き立てるって感じか。
それなら自然に近いんじゃないか?
オレのダダ漏れを聞いたオインクがカードにイメージ図を書いてくれた。
「こんな感じですか?」
・・・
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パ パ パ
肩 肩 肩
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・・・
縦棒が木の枝、パ肩がバッタ。
ほうほう、なるほど。オレのイメージどおりだ。
ありがとう、オインク。
「ええやん。」
(自然に近いな。)
マーチと草の神は腕を組んでしきりにうなづいた。
オレも、これならばカビの胞子を大量散布という感じではないから
「自然に逆らわず、自然の力を借りる」って印象を持つ。
その方法なら心理的なストレスを感じない。
初手でグリリ。そうか、なるほどな。
・・・
十数分後、アイデアが出尽くした感じだ。
オインクが現状のカードを読み上げる。
「落ち着ける施設を建設。」
ユカリ先輩のアイデアだ。王道だな。
「毎晩のマッサージ。」
モモカのアイデアだ。王道だな。
「ブリザードで動きを鈍らせる。」
「空飛ぶバッタをエアハンマーで落とす。」
2つともセイヤのアイデアだ。王道だな。
一点気になる点としては作業者が疲労するんじゃないかってこと。
ああ…。ユカリ先輩とモモカのアイデアはセイヤを心配したんだな。
「アイスキューブで氷を作る。」
「氷を散布して動きを鈍らせる。」
クルマニーとポピーのアイデアだ。
氷を散布する程度なら自然に優しい。自然をいたわる。
「リーダーはフェンリル。」
シロのアイデアだ。王道だな。
オレはシロをマッサージする。
よーしよしよし。
わしゃわしゃわしゃ。
「マシンガンとゴーグル、マスクで身を守る。」
オインクのアイデアだ。王道だな。
「グリリによる死の宣告。そのイメージ図。」
イースのアイデアだ。初手でグリリ。
「落とし穴に落として石板でフタ。燃える練炭を投げ入れ、一酸化炭素中毒。」
ミラのアイデアだ。けっこうエグい。
「落とし穴を培養器と見なして、発酵ルーンで納豆の腐海。」
ルーシィのアイデアだ。
腐海が世界を飲み込まないよう十分に気をつけよう。
「橙鶏。バッタをエサとし、見返りに卵を貰う。」
草の神のアイデアだ。やったぜ!
「美味しい料理。みんなを楽しい気分にする。」
マーチのアイデアだ。やったぜ!
「バッタを食べる。」
ラビィのアイデアだ。
兎耳族と豚頭族はバッタを食べるとのこと。
オレは食べない。食べるのは2人に任せよう。
「旋空氷斬で活け造り。」
アルファのアイデアだ。
氷魔法使いであるオレかイースかセイヤがアルファにアイスエンチャント。
サムライの神アルファに斬られたバッタは死んだことに気づかない。
ずっとピクピクし続けるはずだ。こわっ!オレは嫌だぞ。
ポンポンとオレの肩が叩かれた。
クルマニーとポピーだ。
え?クルマニーとポピーもアイスエンチャントが出来るって?
そうなんだ。
ありがとう。それならアルファを手伝ってもらいたい。
「空間転移。人員と物資を大量輸送。」
女神アイアのアイデア。感謝感激。
「草の神のパートナーの雨の神、氷の神と土の神にも声をかける。」
オレのアイデアだ。他力本願。
それでオインクが書いたカードが尽きた。
これで終わりかな。
「とりぷーまきまいまじまんじっく!ぐごーりーおんごっです…るーらん!」
(これがおうどうだから。ちえんまほうもつかうから。)
たまとガーベラのアイデア追加だ。いいね。
オレが書こう。オインク、カードを2枚くれ。
オレは我が子たちのアイデアをカードに書いた。
「三重極大化した幸運上昇魔法。」
「三重極大化しつつ遅延化。」
あら?
さっき、ガーベラが魔法を発動しちゃったんだね。
この場に女神が4柱いて三重極大化したから2の7乗。
女性陣の幸運が15分間128倍になったぞ。
「あ!」
ルカが声を上げた。
ん?どうした?
「アイデアを思いつきました。神聖魔法ディスインフェクションです。」
ディスインフェクションは殺菌消毒。
なるほど。病気にならないよう、オレたちの健康を守るということか。
「いいえ。バッタを殺菌消毒です。」
うん?ごめん。
よくわからない。
「バッタと共生する菌ボルバキアを殺菌するのです。」
うーん?まだピンとこない。
ごめん。
殺菌するとどうなるだろう?
「バッタはショック死するのでは?少なくともビックリするはずです。」
…。ショック死…?
うーむ?よく考えてみよう。
群れているバッタは、世代を重ねるうちに100%ボルバキア感染している。
さっきオレがダダ漏れしたとおりだ。
そこにディスインフェクション。
病原体の殺菌消毒。
うーむ?
通常のディスインフェクションは常在菌を殺すことは出来ない。
共生菌ボルバキアを殺菌できないだろう。
「三重極大化すればどうですか?」
え?三重極大化?あ!
ルカ。そういうことか。
今のオレたちは三重極大化がある。
三重極大化したディスインフェクションなら常在菌まで殺せるかもしれない。
常在菌を殺したらどうなるか?
大変なことになる。
人間の身体でも似たようなことが起きる。
ニンニクマシマシを食べると腹を壊す。
トイレと友達になる。
これはニンニクが含むアリシンによって腸内細菌が殺菌されてしまうのが原因だ。
体内の菌が一気に死ぬと悪影響が出る。
もしも人体の全身を殺菌したらどうなるか?
死んだ菌から漏れ出たアレルギー物質でアレルギー反応を起こす。
アナフィラキシーショックだ。
ルカはオレと一緒に、伝染病患者を治療した経験がある。
その時の患者のショック症状を思い出してアイデアにしたのだろう。
オレのダダ漏れにルカは頷いた。
いいね。
恐れ入りました。
「ではカードに書きます。」
オインク。ありがとう。
「ディスインフェクションでショック症状。」
これでカードは何枚?
「20枚です。」
オインクがカードを並べた。
「ガハハハ。ワシはアイデアが出んかったが建設時にはアイデアを出すぞい。」
ありがとう。ガンテツ師匠。
師匠がいれば百人力どころか千人力だ。
・・・
12柱と8人のアイデア会議は大盛り上がりで終了した。
みんな結構興奮しているせいか、
「今すぐバッタを偵察したい」なんて声もある。
オレとしては反対。
オインクのアイデアのとおり、
マシンガンとゴーグル、マスクで身を守る状態を整えてから、
安心した状態で偵察すべきだと思う。
「ウノ。偵察ならゴーレムに任せるのがいい。」
アルファがオレの肩に手を置いた。
ゴーレムに偵察させる?
…ゴーレム視覚共有のことか。
・・・
「ゴーレム視覚共有」スキル。
「MPの消費量を上げること」で「クリエイトゴーレムを使用した」ときに
「ゴーレムの視覚」が「使用者に共有される」。
・・・
このスキルを使えばオレがゴーレムの視覚を共有できるだけでなく、
オレのステータス画面を覗き込むだけで他者もゴーレムの視覚を共有できる。
更にはオレの鑑定スキルも反映されており、
最大HPやSTR、INT、AGI、DEXなどのパラメータさえも見れる。
おそらくはオレのダダ漏れとゴーレム視覚共有スキルと鑑定スキルの
3つのチートが複合したチートコンボだ。
そうか…。
オレはヘビ型ゴーレムの視覚を共有したことがある。
ヘビ型ゴーレムはヒールとキュアを使う自律型災害救助ロボットなのだが、
近づくだけで何もせず、見ているだけにプログラムし直せば偵察可能だ。
それがリモートビューイングだ。
凄え…。
ヤバい…。
いつの間にかオレは魔王っぽくなってた。
(くふふふ…)とか(弱い、弱すぎる)とか言える状態になってた。
うっかりしていたぜ。もはや魔王。
オレの魔王発言にセイヤがピクッと反応した。
「どこまで遠くから偵察できるのかで大きく違うだろう。」
サムライの神アルファは冷静だった。
うん。そうだね。
後で確かめておくよ。
オレは魔王じゃなくてロボットの神だ。
・・・
次の日からガンテツを親方に、シロをリーダーにして、
みんなでカムナビ温泉の近くの荒れ地を整備している。
土木作業だ。
それが終わったら建設作業だ。
蝗害対策巨大施設「アンチ・ローカスト」の建設。
命名者は職人の神ガンテツだ。
うん。いいね。
ストレートな名前でひねっていないところがいい。
オレたちが蝗害対策をするにあたり、
腰を据えて安心してバッタを駆除できるようにする施設だ。
2~3人用の寝室を多数、寝室には清潔なトイレ付き、
大食堂、男性用の風呂と女性用の風呂を備える。
脱衣所はカイロの回路を応用した床暖房付き。
ミラは床暖房設備も作ってたんだな。
「イースに風邪をひかれたら困りますからね。」
なるほど。妻思いだ。
…。
アンチ・ローカストに用いる建築資材は、PCブロック。
強固かつ割れにくいコンクリート、エルフの里とドワーフの里で製造されている。
あらかじめ緊張を与えることで曲げ強度にも引っ張り強度にも強い。
ルーシィの知識チートによるものだ。
継ぎ手がついたPCブロックをアイテムボックスチートを応用してガッチリと組み立てる。
分解する時もアイテムボックスチートだ。
PCブロック単位で簡単にアイテムボックスに収納できる。
単なる移動とか上からハメこむだけなら、
グラビティゼロで15分間だけ重さゼロにすればいい。
アイテムボックスを持っていない普通の人でも、
シロをリーダーと見なせば空を飛び回りながら軽々と作業出来る。
本来は重くて持ち運べないPCブロックが15分間だけは軽い。
セイヤとイースがグラビティゼロで、
重力加速度を0.1とかにしているおかげなんだけれどもさ。
オレ?オレもグラビティゼロを使えるだろって?
おお、大いなる神よ。
オレは内装を作るのが忙しくてグラビティゼロを使う余力がない。
力が及ばぬオレを許したまえ。それもまた適材適所だから。
…でもさ。
オモチャ感覚で巨大施設が作れるって凄いよな。
ガーベラ、ラビィ、オインク、クルマニー、ポピーの5人は大興奮してる。
それを見守る子供の神たま。
たまにならオレも安心して任せられる。
それが適材適所だから。
オレは工房で内装を作成しつつ、
チラチラと偵察用ヘビ型ゴーレムの視覚共有で5人と1柱を観察している。
ルカがオレのためにお茶を淹れて持ってきてくれた。
「ウノ。覗きはダメですよ。」
ああ、そうだな。
お茶をありがとう。ルカ。
とりあえずゴーレムでの偵察は300mはオーケーだとわかったぞ。
次はハンターギルド、徒歩30分。
距離にして約2.5km離れたところからカムナビ温泉の偵察に挑戦する。
ついでにゲイルとリリーナにもバッタ駆除の事を説明してくる。
「ハンターギルドになら私も一緒に行きます。リリーナに会いたいです。」
わかった。一緒に行こう。
ハンターギルドまで歩く道すがら、5人と1柱の観察を続けよう。
それなら往復で2回、ゴーレムでの偵察を実験できる。
ルカも安心だろ?
「なるほど。見守りゴーレムを設置して子供を見守りつつ親が働くのですね。」
はははは。
そのとおりだね。王道だな。
…。
いや、待てよ。
見守りゴーレムは現時点の王道であって最終的な王道ではない気がする。
うーん?
…わかったぞ。
ルカのおかげでロボットの王道が見えた。
オレの代わりに外出してくれるロボット。
それがロボットの王道。
ロボットの最終形態だ。
よく考えれば自然な話だ。
人間が過酷な環境で働くのはおかしい。
過酷な環境で働くのは、その環境に適合するよう開発された専用ロボットが最強だ。
それを人が遠隔操作するのが適材適所、テレワークだ。
遠隔操作と言ってもロボットの全関節を細かく遠隔操作するなんてのはムリだから
細かい関節は人工知能に任せる。それがオレにとっての人工知能。
人工知能アインはオレの仲間であって研究対象じゃない。
オレはロボットの神。
オレの仕事は「過酷な環境を攻略」する専用ロボットを開発することだ。
それと、もうひとつ。
過酷な環境のすぐ傍まで行って、現場で試行錯誤するエンジニアリングだ。




